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リカルドの街の結界

 トラップ部屋を出てから三日。ついにリカルドの街が見えてきた。聞いていた通りかなりの大きさの街なのだが様子がおかしい。というかありえない。


「おい。あの街、外壁がないぞ」


 通常、魔物や盗賊なんかからの襲撃を防ぐために街の周りには外壁が張り巡らされているものだ。

 少なくとも人魔界ではそうだったし、この世界でもそうであるとフィナンシェから聞いていた。

 事実、ダンジョンを出てからこの街に来るまでの途中で見かけた村にさえ小さな外壁や柵、堀などがあった。

 何者かの襲撃を受け、外壁が破壊されたというわけではなさそうだが。


「へへへー。黙ってたからね。驚いた?」


 フィナンシェはこの三日でだいぶテッドに慣れたようで、怯えた様子など微塵も見せずにフランクに話しかけてくる。距離も俺たちから一メートルほどしか離れていない。あれだけ怯えていたのにたった三日でこれだけ慣れるとは。フィナンシェは案外図太い性格をしているのかもしれない。


「ああ、驚いた。あれは一体どういうことだ?」


 俺の質問を受け、フィナンシェがちょうど俺の手にすっぽり収まりそうな大きさの胸を反らしながら自慢げに口を開いた。


「実はね。このリカルドの街は世界で三つしかない科学魔法都市なんだ!」


 科学魔法都市とは一体何だろうか。科学と魔法については一応知っているが。


「あ。トールはたぶん科学魔法都市のことも知らないよね?」

「ああ。科学と魔法については一応知っていると思うんだが、科学魔法都市というものは聞き覚えがない」


 リカルドの街に来るまでの間にいろいろなことを質問したのでフィナンシェは俺を世間知らずの変わり者として認識している。

 スライムを友達にしちゃうなんて常人にはおよそ考えつかない行動をとる常識知らずのしょうがない子と思っている節さえある。


「科学魔法都市っていうのは、科学と魔法を複合させて互いの力を何倍にもしちゃうような凄い装置を持っている都市のことなんだ。その装置によって張られた見えない結界に守られているから外壁なんて必要ないんだって。凄いよね!」


 なるほど。結界術か。街を覆ってしまうほどの大きさの結界を維持し続けるのはかなり凄いな。

 人魔界のレベルでいえば熟練魔術師二百人が昼夜を問わずずっと結界を張り続けなくちゃいけないくらいの規模だろうか。まぁ俺は算術は苦手だから適当な計算だが。


「科学はからくり、魔術は魔力によって引き起こされる現象だよな? その二つを合わせるとこんな凄いことができるのか」

「うーん、科学がからくりっていうのはかなり間違ってるけど大体そんな感じかな。とにかくそのすっごい装置があるおかげで夜も明るいし他所の街とは全然違った生活ができて楽しいよ!」

「それはおもしろそうだ」


 その後もフィナンシェによるリカルドの街自慢を聞きながら街へと近づいていく。

 これまでの道中、やけに街に関する情報が少ないなと思っていたらこのためか。フィナンシェからしたら俺が驚いたのを見ることができ思惑通りといったところだろう。


「それにしても、本当に結界なんて張ってあるのか?」


 街にだいぶ近づいたがどこに結界があるのか全く分からない。


「やっぱり最初はそう思うよね。ちょっとついてきて」


 フィナンシェに言われるままについていくと、街の入口から三十メートルほど左、白い杭が刺さっている地面の手前で立ち止まらされた。


「この白杭はここに結界がありますよっていう目印。ほらあっちにも向こうにもあるでしょ」


 たしかに、街の外周を沿うようにして一定の間隔を置いて杭が立っている。


「街の出入り口の杭は黒色なんだ。街道の続いているところが出入り口だから杭の色なんて見なくてもどこが出入り口かは簡単にわかるけどね。それでここ。ここ触ってみて」


 フィナンシェが杭の横の空間を指差して触るように勧めてくる。説明された通りならあそこには結界があるはずだ。


「結界なんて勝手に触っていいのか?」

「もちろん! この町に来た人は皆一回は触っていくよ。触ったからってお咎めもないし危険なことも何もないよ」


 有事の際でもなければ自由に触っていいらしい。

 結界があると思われる場所に恐る恐る手を伸ばしていく。手が、何かに触れた。


「硬い? いや、軟らかい?」


 手に伝わってくる感触は硬いのに硬さはそのままでぐにょぐにょ変形していく感じがする。押し込もうと思えば力を入れた部分だけが力を入れた分だけ奥へ進む。弾力性があるというか柔軟性が高いというか。なんとも不思議な感覚だ。


「これは、楽しいな」


 人魔界の子供が遊びで使う魔法の中にバブルシャワーというものがある。たくさんの泡を発生させる魔法なのだがその泡一つ一つは非常に柔軟性に富んでいて少し突いたくらいじゃ全然割れないのが特徴だ。突いた部分がへこむのが面白かった記憶がある。あの泡の表面を硬くしたらこんな感じになるだろうか。今度試してみよう。


 その後、結界の不思議な感触を堪能し終え手を離すまで結構な時間がかかってしまった。

 やはり異世界。元の世界には存在しなかったものがまだまだたくさんありそうだ。


「満足した?」


 フィナンシェがいい笑顔できいてくる。


「ああ。こんな結界もあるんだな」


 結界と言えば相手の侵入を阻むためのもので硬くて当然。硬ければ硬いほど強固な結界だと思っていたがこの結界を触ると考えが変わるな。硬いだけでは実現できない力強さがこの結界にはあった。それに、触ったことで分かったがこの結界は俺が今まで見てきたどの結界よりも数段質が高い。孤児院出身の俺が目にしてきた結界なんて大したものはなかったけどそれでも飛んできた弓矢を防ぐ程度の強度はあった。

 かつて聞いたことのある、広範囲を焼き尽くしてしまうような大規模魔術すら凌ぐという結界もこのような結界なのだろうか。


「トール、なんだかわくわくしてるって顔してる」

「ああ、楽しい。わくわくする。街の中も凄いんだろ? 早く中に入ろう!」


 早く街の中を見たい。こんなにわくわくするのは五年前、テッドと出会った日以来かもしれない。

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