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おっちゃん、豹変

 なんとかお昼のうちに投稿できました。

 もうそろそろ0時投稿に戻せたらいいなぁ、と思ってます。

「よく来てくれたな! 歓迎するぞ!」


 知り合いを尋ねに工房に行ったら金ピカの全身甲冑に身を包んだ何者かに歓迎された。


 一昨日少し話しただけだし、兜がフルフェイスのせいで声がくぐもってしまっているため確信は持てないが、なんとなくおっちゃんの声だったような気がする。

 というか、この工房に他に俺たちの知り合いがいるとは思えないし、まず間違いなくあの甲冑の中身はおっちゃんだろう。


 いきなり全身甲冑男が現れて歓迎の言葉を投げかけてくるとは思っていなかった。

 さすがに度肝を抜かれてしまった。

 驚きすぎて言葉も出てこない。


「嬢ちゃん、俺から買った編み物はどうだい? 何か気になる点とかねぇか?」


 あ、よかった。

 甲冑の中身はやはり一昨日のおっちゃんのようだ。


 今日は落ち込んでいないみたいだ。

 言葉の端々から自信が滲み出ている。


「うん。見ていて楽しいし、使い勝手もいいよ!」

「そうかそうか。そいつはよかった」


 フィナンシェの感想を聞いておっちゃんも大満足のようだが、そろそろ兜を脱いでくれないだろうか。

 雑多な工房内で一人だけ全身甲冑の男がいることが気になってしまってしょうがない。

 全身甲冑の上に金ピカに輝いているせいか、おっちゃんの周りだけ異様な空気が漂っているようにも見える。


「おっちゃん、せめて兜くらいは脱いでくれ。話しにくくて仕方がない」

「おお。すまんすまん。試作中だったものでな。つい着たままだったのを忘れていた」


 脱いでくれと伝えるとあっさりと脱いでくれた。

 兜だけとはいえ、そんな簡単に脱げるなら脱いでから来てほしかった。

 おっちゃんをつれてきてくれた女性も「兜だけでもとってださい」とか言ってからつれてきてくれればよかったのに。


 それ以前に、俺以外の人間はおっちゃんが全身甲冑姿で出てきたことに何の疑問も抱いていないように見える。

 顔を隠したまま出てくるのはおかしいという疑問は、俺がこの世界の人間じゃないからそう感じてしまうだけなのだろうか。


 というか、普通は兜をかぶっていることを忘れるなんてことないだる。

 暑くはなかったとしても、重かったり視界が悪かったりはするだろうし兜をつけていることを忘れるわけがない。

 もし本当に忘れていたのならおっちゃんの頭はおかしい。


「これでいいか?」


 おっちゃんは瞬く間にすべての装備を外して脇に置いた。

 その間わずか一分。


 本当にどうして着たまま来てしまったのだろうか。

 少しくらい待たされても構わないから甲冑を脱いだ今のその格好で登場してほしかった。

 というより――


「どうして甲冑なんて着てたんだ?」


 試作中と言っていたし、作ってみたから実際に装着してみたというのはわかるんだが、防具なら防具屋や鍛冶屋の領分なのではないだろうか。


「最近、この工房の売り上げが落ちてきていてな。何か新しい物でも作って盛り返そうと思って、色々試してみてるんだ」

「なるほど。それで、その甲冑の出来はどうなんだ?」

「全然駄目だな。作ってみたはいいが着心地は悪いし性能はもっと悪い」

「光が反射して眩しそうだもんな、それ」

「その通りだ。見た目を派手にしようとしたのも失敗だった。前が見辛くてしょうがねぇよ」


 おっちゃんはそう言うと大きく『×』が書かれた紙を甲冑の上に置いた。

 おそらく、失敗作だという印だろう。


「ところで、今日はなんの用だ?」

「ああ、実は……」

「トールさん。それは私が説明します」


 今日ここに来た用件を伝えようとしたらシフォンに遮られた。

 自分の買い物だから自分で説明するってことか。


 一瞬そう思ったが、違った。


 単純に自分で注文をしてみたかっただけみたいだ。

 ローブで全身を隠しているのに表情豊かというかなんというか。

 ルンルン気分、とでもいうのだろうか。

 シフォンの全身から楽しそうなオーラが噴出している。

 きっとフードの下では目がキラキラと輝いていることだろう。


 シフォンはおっちゃんの作った編み物を気に入ったということを長々と説明している。

 購入したいという結論だけ伝えればいいのにと思うのは俺の感覚がおかしいのだろうか。


 この世界に来てからは周囲の人間との感覚の差異に戸惑うことが多い。

 最近は、俺の感覚がこの世界に即しているのかどうかを考えることも多くなった。

 そのせいか、自分の感覚が正しいという自信が持てない。

 このままでは自分を見失ってしまいそうだ。


「染料を使った編み物をお譲りしていただけないでしょうか」


 シフォンの話がやっと終わったみたいだ。


「悪いが、今あるのはそこの棚に置いてあるやつだけだ。その中で気に入ったのがあれば買ってくれ。注文の方は言ってくれれば大抵の物は作れるぜ」

「そうですか。それでは――」


 今度は注文が始まってしまった。


 こんなものが欲しい。

 これをあの色にすることはできるか。

 それならここをこうした方が。


 そんな感じの言葉が飛び交う。

 フィナンシェも注文したいものがあるみたいで、三人でワイワイと話し合っている。


 俺とテッドはそのあいだに店内の商品を物色することにした。

 色のついた編み物への興味は俺も持っている。

 しかし、注文するほどではない。

 出来合いの物の中で気に入ったものがあれば買おうかなという程度の興味だ。


『腹が減った』


 しばらく商品を見て楽しんでいたらテッドがそんなことを言い出した。

 懐中時計を見てみるともう昼飯時となっている。


「そろそろ飯に……」


 言いかけて、言葉が止まる。


 言葉が止まったのは、おっちゃんが物凄い形相でこちらを見ていたからだ。


 いつの間にか注文は終わっていたらしい。

 フィナンシェとシフォンも店の中の商品を手に取ったり眺めたりしている。


「お、おっちゃん?」


 声をかけるも反応はない。


「あの、ドルブさんはどうかしたんですか?」


 どうしていいのかわからず、とりあえず近くにいた店番の女性に声をかけてみる。


「おそらく、その物体が原因かと。そのようなものは見たことがありませんので」


 店番の女性は、懐中時計を指差しながらそう説明してくれた。


 これが原因?

 よくわからないが、おっちゃんは懐中時計が気になっているらしい。


 こんなの、どこにでもあるただの懐中時計なのにどうして……。

 そう考えたところで、おっちゃんが物凄い形相のまま物凄い勢いでこちらに近寄ってきた。


「それを見せろおおおおおおおぐはあっ!!」


 驚いて、つい殴ってしまった。

 おっちゃんが床に倒れる。

 意識を失ったみたいだ。


 店番の二人と、フィナンシェとシフォンからの視線が俺に集まる。


 思わず打ち倒してしまったが、俺は悪くないと思う。

 とりあえず、俺は悪くないというポーズを示すために両手を頭の高さまで上げ、首を左右に振っておいた。

 今週の木曜から土曜にかけて遠出する予定があるのでもしかしたら木曜以降少し更新止まるかもしれません。

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