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フィナンシェの友人と甲冑男

 どこで何をしているのかもわからない相手のことはいったん置いといて、今日は、蚤の市で色付きの編み物を売ってたおっちゃんが働いているという工房へ行くことになった。


 シフォンはあのカラフルな編み物を気に入ったらしい。

 フィナンシェからいくつかもらっていたが、それでは足りなかったみたいだ。


 工房へ行き、まだ在庫があるようならその在庫を購入。

 在庫がないなら注文をしたい。

 そんな目的のもと、カラク工房へと向かうこととなった。






「ここがカラク工房か」


 目の前の建物には『カラク工房』という文字が彫られた看板が掛けられている。

 一つの街の中に同名の工房が二つあるということはないだろうから、ここで間違いないだろう。


 カラク工房には案外早く辿り着けた。

 俺たちは誰一人として工房の場所を知らなかったため工房を探すのに時間がかかるかと思っていたが、そんなことはなかった。


 冒険者ギルドへ行き、工房の所在を尋ねたところ、すぐに場所が判明した。

 というか、冒険者ギルドのすぐ裏手にあった。


「冒険者ギルドの裏にこんな工房があったんだ」


 へー、と感心したような様子で建物を眺めるフィナンシェ。


 カラク工房では鉄、木、布、糸、魔物素材等々いろいろな素材を扱っているらしい。

 腕利きの人材が多く在籍していて冒険者たちの間でも評判が良いと先ほど冒険者ギルドの受付で教えてもらった。


 その話を思い出しながら、もう一度フィナンシェを見る。


 フィナンシェはこの街で長いこと冒険者として活動している。

 それにもかかわらず、工房の場所どころか工房の名前すら知らなかった。

 さらに、何十日も一緒にいるがフィナンシェが仲良さそうにしている人物を宿屋のおっちゃん以外に見たことがない。


 俺の冒険者登録を担当してくれた冒険者ギルドの受付嬢や、最近はクライヴ、ジョルド、ローザさんの三人とも仲良さそうにしているが、その四人とは外面モードでしか接していない。

 宿屋のおっちゃん以外で素顔のアホ面をさらしたまま仲良さそうに話している人物というと俺とテッド、シフォンくらいだろう。

 ギルド長にも素顔をさらしているが仲良さそうにはしていない。


 もしかしてだが、フィナンシェには友人がいないのだろうか。


 少なくても、カラク工房の評判を教えてくれるような知り合いはいない。


 カラク工房は結構有名な工房らしい。

 有名ということはそれだけ話題に上りやすい。

 しかし、フィナンシェは工房の名前を聞いたことがなかった。

 つまり、その程度の話をするような知り合いすらいないということになる。


 友人はいるがカラク工房が話題に上がることのなかった可能性や食べ物関連のこと以外は物覚えが悪いという可能性もあるが、いや、後者はそれはそれで問題があるか。


 とにかく、フィナンシェはあまり親しい者がいないらしい。

 ずっと一緒にいたのに全く気づかなかった。


「どうしたの? 早く入ろうよ!」


 明るく笑いながら俺の手首をつかみ、そのまま工房に向けて歩いていくフィナンシェ。

 フィナンシェに引かれるままに足を動かしながら考える。


 いつも鬱陶しいほど話しかけられていたが、あれは話し相手ができて嬉しかったからなのではないだろうか。

 フィナンシェの素はこのアホ面の方だろう。

 明るく元気なフィナンシェとしては会話は大好きなはず。

 しかし、これまでは宿屋のおっちゃんくらいしか話せる相手がいなかった。

 だからこれまで抑圧されてた会話欲が噴出し、俺やテッドにしつこく話しかけてきていたのではないだろうか。


 理由はわからないが、この街にはフィナンシェと親しい者がほとんどいない。

 フィナンシェなら友人の一人や二人くらい簡単につくれるだろうから意図的につくっていないのだろう。

 だが、その理由がわからない。


 そもそも、俺はフィナンシェのことを知らなすぎる。

 フィナンシェはなぜか冒険者ギルドでだけ外面モードになったり今は本気が出せないなどと言ったりと謎の言動をしているが、その理由を俺は知らない。


 俺やテッドも本当の実力や異世界から来たことを隠しているわけだからフィナンシェのことは言えないが、俺たちはもう少し歩み寄ってみるべきなのではないだろうか。


 まずはフィナンシェとの会話で適当に相槌を打つのをやめるか。

 今日からはもう少し真面目に話を聞き、きちんと会話してみよう。


 そこまで考えたところで思考をいったん打ち切り、わくわくした様子で楽しそうに笑い合っているフィナンシェとシフォンの会話にまざりながら工房の中に足を踏み入れた。






 工房に入ると不思議な匂いがした。

 金属や木の匂い、魔物の匂い、それと初めて嗅ぐ爽やかな香り。

 それらが混ざりあった匂いがなんともいえない雰囲気を醸し出し、不思議な高揚感を演出してくれている。


 入口をくぐってすぐの場所は工房で作った物を販売する店になっているようだ。

 正面に目を向けると棚や机、床の上に大小さまざまな物が整然と並べられている。


 なんだか派手な衣装に日用雑貨。

 細かい装飾がされた剣の鞘やよくわからない巨大な置物まで、いろいろな物がある。


 店の一角には一昨日フィナンシェが購入しなかった小さいサイズの色のついた服なんかも置いてあった。


「わぁ、すごい!」

「どれもよくできていますね。……え、こんなものまで!?」


 フィナンシェとシフォンは商品を見て騒いでいる。


 俺もじっくりと見てみたいが、そうするとここに来た用件を忘れてしまいそうだ。

 まずはおっちゃんと会ってからその後で店内を見ればいいだろう。


 そう思い、少し離れたところに立っている店番と思われる茶髪の小柄な女性に声をかける。


「この工房にドルブさんという方はいますか? 一昨日蚤の市で会ったときに『何か作ってほしいものがあったらカラク工房のドルブを訪ねてくれ』と言われたので早速来たのですが」


 そう伝えると、女性は怪訝な顔をしたあとに「少しお待ちください」と言って店の奥へと行ってしまった。

 ここから少し離れた位置にいるもう一人の店番と思われる男も、不思議そうな顔を浮かべながらこちらを見てくる。


 この世界では初対面の相手には敬語で話すのが普通らしい。

 だから敬語をつかってみたのだが、まさか敬語が間違っていたのだろうか。

 それともドルブというのはおっちゃんの名前ではなかったのだろうか。

 俺がこの工房にいない人物の名を口にしたからおかしなものを見るような顔をしたとか。

 いや、それならわざわざ奥に行かずに「ドルブという方はこの工房にはいません」とかなんとか言ってくれるか。


 俺がうんうんと唸りながら頭を悩ませているとフィナンシェとシフォンがいつのまにかすぐ横まで来ていた。

 どうかしたのかとでも言いたそうな顔でこちらを見上げている。


 二人に対し「俺の発言はなにかおかしかったか?」と尋ねようとしたところで女性が戻ってきた。

 その後ろからは顔を隠した人物が一人ついてきている。


「よく来てくれたな! 歓迎するぞ!」


 女性の後ろにいる人物。

 金ピカの甲冑を着こんだ、おそらく一昨日のおっちゃんと思われる人物がそう声を上げた。

 昨日一日中寝込んでいたおかげでだいぶ復調しました!

 かわりに投稿が遅くなってしまいましたが……。


 昨日投稿予定だったもう一つの連載作品『若返ったおっさん、異世界でハーレムを目指す』の方は執筆完了までにもう少しかかりそうです。

 もし、そちらの方も読んでくださっていて昨日投稿されるのを心待ちにしてくれていた方がいたら申し訳ありません。

 今夜か、遅くても明日の朝には投稿できると思います。

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