表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/375

今後について相談

 最近、やけにだるいなぁと思っていたら風邪を引いてたっぽいです。

 寒くなってきましたので皆さんもお体には気を付けてお過ごしください。

 目を覚ましたフィナンシェとシフォンと一緒に朝食を食べる。


 今朝のメニューは果実と干し肉だ。

 もちろん、これだけでは物足りない。

 あくまでもこれは朝起きてから飯を売る屋台が開くまでのつなぎだ。


 すでに日が昇ってから二十分以上経過している。

 あと十分もすればこの宿の前の通りでもパンやスープなんかを提供する屋台が開かれるはずだ。

 テッドとフィナンシェの食いしん坊コンビがいる以上、朝食の追加購入は必須。


 屋台が動き始めるまでのあいだに現状の確認をしておくか。


「シフォンを襲ったやつらが姿を見せないが、そのことについて二人はどう考えているのかきかせてくれ」


 とりあえず、まずは二人の意見を聞いておきたい。


「うーん、たぶんだけど、トールとテッドがいるから迂闊に近づけないんじゃないかな?」

「どういうことだ?」


 先に声を出したのはフィナンシェだ。

 言いたいことはなんとなくわかるが、念のため訊き返す。


「シフォンちゃんが私たちと一緒にいることは相手もわかっているはず、っていうのはシフォンちゃんと出会った初日にも話し合ったことだし、前提条件だよね?」

「ああ、そうだな」

「相手はシフォンちゃんの居場所を知っている。でも近づいてこない。ということは、シフォンちゃんに近づかないんじゃなくて、近づけないんじゃないかなって」

「つまり、相手は俺やテッドの情報を入手しているから動けないということか?」

「うん。気配を全く感じられないのは、トールたちを警戒して近づくことができないからなんじゃないかな。そうじゃなきゃ気配くらいは感じ取れてると思う」


 要するに、俺やトールに近づくことを嫌がってるから相手は姿を現さない、ということか。

 そうでもなければテッドかフィナンシェがとっくに相手の気配を感知している、と。


 たしかに、フィナンシェの警戒にも引っかからないということは相手は俺たちを監視できるような距離にすら近づいてきていないということだ。

 居場所を知っているのに動向を探ってくる様子はない。

 その不可解な行動の理由がテッドや俺にある可能性は高い。


「私も同意見です。トール様とテッド様の実力が未知数であるため近づいてこないのだと思います」


 他人の耳のある外では「さん」づけだが、他人に聞かれる心配のない宿の部屋の中では「様」づけ。

 相変わらず、何度聞いても自分が「様」づけで呼ばれることに慣れない。

 なんとかして部屋の中でも「さん」づけで呼んでもらえないだろうか。


「おそらく、街の中では何もしてこないと思います」


 シフォンが言葉を続ける。


「もし、まだ私を狙っているのなら、私が街を出た後に襲ってくると思います。街中では私はトール様たちと一緒にいますから。そうでなくても、トール様たちのことを知り得ているならば街中で騒ぎを起こすような真似はしないと思います」


 たしかに、スライムがいる街の中で悪目立ちするような真似はしないだろう。

 しかも、相手は俺たちがシフォンに協力していることを知っている。

 全く近づいてこないことを考えると、テッドの情報もまず間違いなく掴んでいる。

 スライムの感知能力が優れていることは有名な話らしい。

 もしかしたら、相手はこの街全体がテッドの感知範囲内だと思っている可能性もある。


「私が狙われるとしたらブルークロップ王国へと帰還する道のりでしょう。この街を出てしまえば、トール様たちと私は別れるかもしれない。私が相手の立場ならそう考えます。そして、街の外で待ち伏せをするのならば、トール様たちから距離を置くこともできますし、罠を張ることもできます。この街から王国までの道のりには、人目が少なく待ち伏せしやすい場所が三ヶ所ほどあるので、そのいずれかで狙われる可能性が高いでしょう」


 シフォンは敵が機会をうかがっていると考えているようだ。


 相手は俺たちがシフォンから離れるのを待っている。


 もちろん、俺たちがシフォンと一緒に王国に行く可能性も考えているだろう。

 街の外で罠を張っているのだとしたら、俺たちがシフォンと別れていないと想定した上で張られていることだろう。

 つまり、スライムにも通用するかもしれない罠を用意しているはず。

 この世界のスライム用の罠を俺たちがどうにかできるとは思えない。


「シフォンの予想通りならその三ヶ所のいずれかで待ち伏せされてるってわけか。その三ヶ所を避けてブルークロップ王国に帰ることはできないのか?」

「不可能ではないですが、難しいです。その三ヶ所を避けようとするとかなり危険な道を通らなくては行けなくなりますので」


 帰還ルートの変更も難しいのか。

 そうなると、相手がシフォンの予想通りの動きをしていた場合、こちらがかなり不利になるな。


「トールはどう考えてるの?」

「ん、俺か? 俺はそうだな……」


 フィナンシェからの質問に答えようとするも言葉が出てこない。


 今回の一件についてはフィナンシェとシフォンに丸投げしていたからな。

 一応、多少は考えてはいたものの、フィナンシェとシフォンの意見を聞いていたら自分が何を考えていたのか忘れてしまった。


 パッと思いつくのはシフォンがもう狙われていないのではないかという考えだ。

 しかし、シフォンが狙われているにせよ狙われていないにせよ、狙われている可能性が少しでも残っているうちは警戒を怠ることはできない。

 俺たちが安心できるのは、この件が完全に解決したとわかるか、シフォンをブルークロップ王国の王城まで送り届けたときだ。


 現状では相手の情報も少なすぎる。

 シフォンがもう狙われていないかもしれないなどという考えてもわからないことに頭を悩ませるのはムダだな。


「俺も、二人の言う通りだと思う。今のところ、相手が近くに来た様子はない。接触どころか接近すらしてこないのは、俺たちのことを警戒しているからだと思う」


 ただ、やはりもう少し情報が欲しいな。

 危険だが、シフォンが滞在していたという屋敷の様子でも見に行った方がいいのかもしれない。


 あるいは、ギルド長にシフォンのことを話して協力してもらうか。


 一昨日、蚤の市で俺を襲ってきたのは物盗りかなにかだろうということで話がまとまった。

 アイツがシフォンを襲ったやつらと関係がないのなら、街の上層部がシフォンを狙っている可能性もまだある。

 もしかしたらギルド長も今回の一件に関係しているかもしれない。


 しかし、ギルド長はテッドのことを恐れている。

 俺とテッドにはイエロースライム撃退という実績もある。

 表立って俺たちと敵対することはないはずだ。


「シフォンが滞在していたという屋敷に行ってみないか? それか、ギルド長に相談して屋敷やシフォンの捜索状況に関する情報を集めてもらわないか?」


 俺が思いつくくらいのことだ。

 この案については、フィナンシェたちもとっくに考えたはず。

 その上で提案してきていないということは何か実行しない方がいい理由があるのかもしれない。

 もしそうなら、その理由を聞いておきたい。


「私もそれは考えたけど、危険の方が大きいと思うんだよね。もしシフォンちゃんの護衛さんたちが敵になっているのだとしたら屋敷の中も安全じゃないし、屋敷の周辺に何か仕掛けてる可能性もあると思うんだ」


 フィナンシェの言う通り、屋敷に近づこうとするのは危険だろう。


「それに、トールには言い忘れてたんだけど、実はシフォンちゃんと出会った最初の夜に、もうこれいじょう他人を巻き込まないって話し合ってたの。だから、ギルド長にもできれば相談したくないかな、って」


 ばつが悪そうな顔で少し目を逸らしながらそんなことを言ってくる。


 シフォンに目を向けると、びくっとした後に少し俯いてから「申し訳ありません」と伝え忘れていたことを謝るかのような態度を見せられた。


 シフォンと出会った初日の夜。

 俺が寝た後に決めたことなのだろう。

 ギルド長に相談すると、ギルド長やギルド長から調査を依頼された者が巻き込まれる。

 だから相談はしないということか。


 狙われてるシフォン本人がそう決めたのなら口出しはできないな。

 ギルド長が敵でないと判明してるわけでもないし、相談はしない方がいいか。


 結局、その後も良い案が浮かぶことはなかった。


 フィナンシェの腹がくぅぅと一鳴きしたのとテッドの『腹が減ったぞ』という念話を契機に会話は打ち切られ、朝食を買いに行くことになった。

 話し合いの結果、今後も昨日までと同じように周囲を警戒しながら自由に過ごすということに決まったが、本当にこれでよいのだろうか。

 話が進まなくて申し訳ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ