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プレゼント

 また更新遅くなってしまった。

 今日は昨日よりも早く家を出ないといけないので執筆時間短めです。そのため文字数も短めになっています。

 蚤の市見学は予想していた以上に面白かった。


 雑多な露店に道行く人々の話し声。

 商人と客のやり取り。

 綺麗な品や変な品。

 人魔界では見たことのない物の数々に生まれて初めて触れる雰囲気。


 最初こそ人の多さに気後れしてしまったものの、慣れてくると様々なモノを見ることができて楽しかった。


 まだ全ての露店をまわれたわけではないが、まもなく宿に戻る時間だ。

 日が傾き始めている。


 ここから宿までは結構な距離があるが、この街にはワープゲートがある。

 ワープゲートをつかえば移動なんて一瞬だ。

 このすぐ近くにも一つあるようだし、日が沈みきる前には宿に帰れるだろう。


 なんにせよ、夜になると襲撃される可能性が高まる。

 その前に宿に戻るためにはそろそろ見学を終わらせないといけない。


 フィナンシェも似たようなことを考えたのか、興味深そうに眺めていた木彫りの像から目を離した。


「もう夕方になっちゃったね。そろそろ帰ろっか!」


 満足した様子のフィナンシェが俺とシフォンに振り向きながらそう言う。


「そうだな。帰るか」

「ええ、そうですね。帰りましょうか……」


 俺とシフォンも宿へ戻ることに賛成の声を上げる。

 ただ、シフォンは少し名残惜しそうだ。


 蚤の市を一番楽しんでいたのはシフォンだからな。

 満足はしているだろうが、その分ここから離れるのも辛いのだろう。

 王族という身分は随分と窮屈らしいし、こういう場所にはもう二度と来られないかもしれないとでも思っているのかもしれない。

 ひょっとしたら、本当に二度と来られない可能性もある。


 そう考えると、もっと良い思い出として記憶に残してやりたいと思える。

 名残惜しさを残したまま帰るのではなく、楽しい気分のまま帰れた方が良い思い出となるだろう。


 なにかシフォンの気を紛らわせられるものはないだろうか。


 そう思いながら周囲を見回すと、一つの露店が目に入った。


「悪い。ちょっと待ってくれ」


 二人に一声かけてから俺一人でその露店へと近づく。


 俺の目の前にあるのは金色の細い三つの指輪。

 細く長い鎖に通された指輪が三つ綺麗に並べられている。


 こういう場合は鎖ではなく「チェーン」と呼ぶのだったか。

 俺の持っている懐中時計のように首や腕にかけられるようになっているそのチェーン付き指輪を三つ購入し、フィナンシェたちのもとへと戻る。


「三人で来た記念に、皆でこれをつけないか?」


 そう言って二人に指輪を差し出す。


「いいの!? ありがとう!」


 と言いながら指輪を受け取り、さっそく左手首に巻きつけたフィナンシェが「どう?」と訊きながら左腕を見せつけてくる。


 正直、うーん、といった感じだ。

 チェーンに通されているのが指輪のせいか、少し不恰好な気がする。

 これが指輪ではなく、カルロスたちが持っていたような両翼のついた盾みたいな細工なら格好いいんだが。

 いや、でも似合っていないわけじゃないな。

 フィナンシェの見た目の良さが腕に巻きつけられた指輪の不恰好さを緩和しているのだろうか?


 とりあえず無難に褒めておくか。


「似合ってるよ」

「ありがとう!」


 フィナンシェのとびきりの笑顔がまぶしい。

 この笑顔を向けられるのは初めてではないが、夕日に照らされているせいか、いつもと違った印象を受けるな。


 たぶん、フィナンシェの左手首に巻きつけられたチェーンと指輪のせいだろう。

 夕焼けの色を反射して光っているせいか、プレゼントしたばかりのチェーンと指輪がどうしても目に入ってきてしまう。

 そのせいでいつもと違う印象なのだろう。


 俺からのプレゼントを心から喜んでくれている女の子。

 しかも、夕焼け色の綺麗な輝きを放つそのプレゼントを身につけ、屈託のない笑顔を向けてくれている。


 なんだか、少しドキドキする。


 自分と同じ年齢の異性相手にドキドキするのはこれが初めてかもしれない。


 ローザさんのような女性を前にしたときのドキドキとは少し違うドキドキだ。

 なんというか、不思議な感覚だ。


 この感覚をもう少し味わっていたいとも思うが、今はドキドキしている場合ではない。


 無邪気にはしゃいでいるフィナンシェはこれでいいとして。

 問題はシフォンだ。


 シフォンの名残惜しさを少しでも和らげてやろうと思って買ってきたのに全く受け取ってくれない。

 というか、俺が指輪を差し出したあたりから動きが止まってしまっている。

 突然のことに困惑でもしているのだろうか。


「シフォン?」

「え、あ、はい!」


 慌てた感じだが、返事はある。

 立ったまま寝ているとか、そういう器用なことをしていたわけではなさそうだ。


「どうかしたか?」

「えと、あの、その……そちらの指輪を、私もいただいてしまってよろしいのでしょうか?」


 緊張した声音だが、その声の中にはわずかな期待も含まれている。

 その声に、内心で首を傾げる。


 シフォンはどうしてこのような態度なのだろうか。

 王族は物を贈られることに慣れているはずだ。

 それにもかかわらず困惑しているということは、俺がなにか贈り物をする際の作法を間違えてしまったのだろうか。

 とはいっても王族相手のプレゼントの仕方なんて知らないしな。

 声に期待が含まれてるということはいらないわけではないみたいだし。

 とりあえず渡してしまうか。


「ああ。これはシフォンの分だ。受け取ってくれ」

「……っ、で、ではっ、ありがたく受け取らせていただきます!」


 少し震えた手でおずおずと手を伸ばしてくるシフォンに指輪を手渡す。

 この指輪は安くもないが高くもない。

 おそらく、シフォンの持っている指輪の中でも一番質の低いモノとなるだろう。


 それなのに、まるで大事なモノであるかのように丁重に扱ってくれている。

 そして、チェーンに首を通した後、「これでお揃いですね」と俺とフィナンシェに嬉しそうに話しかけてきてくれた。


 俺も買ってきた指輪をかばんの金具につける。


 テッドの分の指輪はないが、まぁいいだろう。

 そんなことを気にするようなやつではないし、俺とテッドは一心同体だ。

 そう思うも念のため、俺とテッドの間に挟まっていることの多いかばんに指輪をつけることにした。

 これでこの指輪は俺とテッドの共有財産だ。


 指輪をつけ終えたあと、楽しそうに笑い合っているフィナンシェとシフォンを見る。


 なにに緊張していたのかはわからないが、嬉しそうに口元を緩ませているシフォンを見て少しほっとした。

 プレゼントは成功だったようだ。

 今のシフォンからは名残惜しさは感じられない。


 シフォンの心の内を表すかのように、シフォンの胸元では指輪が綺麗に輝いている。


「じゃあ、今度こそ帰ろっか!」


 フィナンシェのそんな声で、蚤の市見学は終わりを告げた。

 明日は早い時間に投稿したい……。

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