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買い物と疑問

 仮眠のつもりが爆睡してしまった。

 起床後、急いで執筆したためなんとか外出前に更新できました。そのかわり、誤字脱字やおかしな文章が多いかもしれないです。

 フィナンシェに手伝ってもらい、無事にローブを着ることのできたシフォンを連れて宿を出る。

 シフォンは茶色のローブでドレスと身体を覆い、ローブのフードを深く被ることで顔を隠している。

 履いている靴はフィナンシェの予備の靴。

 胸の部分が多少盛り上がってはいるが体型もほとんど出ていない。

 顔を覗き込まれでもしない限りシフォンだとはわからないだろう。


 宿を出て右に進む。

 この街に来てから数十日。

 時折すれ違う、顔なじみになった者たちに挨拶をしながら通りを歩く。

 まず買いに行くのはシフォンの服。

 シフォンには、街中にいても目立たない普通の服装に着替えてもらう。


 襲われてからまだ一日。

 そのため、シフォンは追っ手がいないかどうか不安なのだろう。

 身体の動きが硬い。

 だが、街中で襲われることはおそらくないだろう。

 相手もフィナンシェの情報くらいは掴んでいるはず。

 フィナンシェはいろいろな人から感謝され、信頼されている。

 味方になってくれる人も多い。

 そのフィナンシェがシフォンを守るように行動しているのに、わざわざ街中で仕掛けてくるなんてことはないだろう。

 相手だってむやみに敵を増やしたくはないはずだからな。

 もしテッドや俺の情報を掴んでくれているならもっと良い。

 スライムが近くにいるとわかれば相手は手出ししてこない。

 俺とテッドが近くにいるあいだはシフォンが襲われることはなくなる。


 一応、警戒はしていたが特に何も起こることなく服屋に辿り着いた。

 そこで女性冒険者用の服を上下三着ずつとワンピースを一着購入。

 シフォンの今の格好は冒険者用の丈夫で地味な服の上に俺のローブだ。

 意外と似合っている。

 シフォンは俺たちの着ているような服を着たことがなかったらしく着心地に違和感があるみたいだが、なぜか嬉しそうな顔をしている。


 さっきまで着ていたドレスの方が上等な仕立てだったのに、数段質の劣る服を着て嬉しそうにするなんて不思議なやつだ。

 着心地も悪くなっているだろうに。

 そんな考えが表情に現れていたのか、俺の顔を見たシフォンが急にしゅんとしてしまった。


「すみません。私のせいでトール様たちにご迷惑をおかけしているのに、初めて着る服に浮かれ、はしたなくはしゃいでしまいました」


 どうやら、シフォンの笑っている姿を見て俺が気分を害したと勘違いしたみたいだ。

 怪訝な顔をしていた自覚はあるが、まさかそのように誤解されるとは。


「着ている服の質が落ちたのにどうして嬉しそうにしているのかと思っていただけだ。べつに不愉快だとは思っていない」


 むしろ不安や緊張が薄れたようでよかったと思っていたくらいだ。


「そうでしたか。それならよかったです。勘違いしてしまい申し訳ありませんでした」


 あからさまにホッとした様子で息をつくシフォン。

 その姿を見て、俺は悪い方に誤解されてしまうような顔をしているのだろうかと不安になった。

 おそらく、俺が強いという勘違いからくる俺への恐怖のせいだとは思う。

 あるいは、庇護してもらっているという思いからくる遠慮のようなものだろうとは思う。

 しかし、シフォン以外からも俺がちょっとしたことで不機嫌になるようなやつだと勘違いされているかもしれないと考えると少し悲しくなった。

 いや、筋肉ダルマのパーティメンバーや仲良くしてくれている他の冒険者からはそのような雰囲気は感じられなかった。

 大丈夫なはずだ。

 俺は誤解されやすいような顔はしていない。

 そう思っておくことにした。


 その後は俺が変な風に誤解されるということもなく、買い物は順調に進んでいった。

 誤解されて以降、積極的にシフォンと話すようにしたおかげか、少しはシフォンと仲良くなれた気がする。

 途中で、様付けは不自然だという話になり、呼び方をトールさん、テッドさん、フィナンシさんに変えてもらった。

 敬称が変わっただけでだいぶ距離が近づいた気がする。

 これで誤解されることがなくなればいいのだが。

 そう思うばかりだ。


 防具屋で急所や関節を守る最低限の防具と靴を購入した後、武器屋では杖を購入した。

 ブルークロップ王家では代々、棒術を習うしきたりがあるらしい。

 シフォンも幼い頃から棒術を叩き込まれているという話だった。

 装備をそろえた後は生活に必要なものと夕飯を購入して宿に戻った。


 最近は外食することが増えていたため、宿の部屋で夕飯を食べるのは久しぶりだ。

 シフォンが襲われる心配がなくなるか、俺たちとシフォンが別れるまでは部屋での食事が多くなるだろう。

 そう思いながら、平たく茶色い焼き物を口に運ぶ。

 オコノミヤキとかいう料理らしい。

 歯ごたえが足りないが悪くない。

 上にかかっているソースが美味い。

 科学魔法都市・リカルドの街では科学魔法の力のおかげで穀物や野菜の生育が早い。

 その利点を活かし、言い伝えや文献に残された情報をもとに、製法の失われた料理の再現なんかが研究されている。

 このオコノミヤキという料理も最近再現に成功したばかりの大昔の料理らしい。

 他にもトーフやチャーハンなんていう名前の料理も再現に成功しているらしいので今度食べてみたいと思う。


 夕飯を食べ終わった後はシフォンがテッドに慣れる練習だ。

 テーブルの上にいるテッドに近づこうとしたシフォンが床に座り込むという光景が何度も繰り返される。

 恐怖に震え続けるその姿は不憫だが慣れてもらわないと困る。

 緊急時に三メートル以上離れていたり、テッドに近づいただけで動けなくなったりなんて状況にはなりたくないからな。

 シフォンを守るという目的を果たすためにも早くテッドに慣れてもらわないといけない。


 その後、夜が更けるまで続けたが、シフォンがテッドに慣れることはなかった。

 もともと一日で近づけるようになるとは思っていなかったが、早く慣れてもらわないとテッドへの恐怖で衰弱という本末転倒なことになってしまう。

 フィナンシェは出会った初日から、テッドの三メートル以内に近づいてしまっても歩くくらいのことはできていた。

 あれは冒険者としての経験があったからなのだろうか。

 それとも、やはりフィナンシェが特別だっただけで普通はスライムの発する嫌な感じに慣れるなんてことはないのだろうか。

 そんな考えに頭を悩ませながらベッドに寝転ぶ。


 昨日の話し合いでは、シフォンがいなくなったことで街中の兵士の数が増えたりするかもしれないという話だったがそんなことはなかった。

 今日一日過ごした感じだとシフォンの捜索は行われていなかった。

 隣国の王女がいなくなったにしては街の対応がおかしい。

 シフォンは六人の護衛の他に数名の付き人とともに街中に用意された屋敷で生活していたらしい。

 俺たちは、昨日シフォンが襲われた時点で屋敷も襲われ、屋敷に残っていた付き人がカード化させられた可能性も考えた。

 その場合はシフォンがいなくなったという連絡が街に届けられることはない。

 しかし、屋敷には毎日のように街からの使者が訪れ、シフォンに便宜を図っていたと聞く。

 もし屋敷が襲われシフォンの付き人がカード化させられていたとしても、使者がその異変に気付かないはずがない。

 そもそも、シフォンの使用していた屋敷は選りすぐりの者たちによって警護されている。

 ただの賊が屋敷に手を出せるとは考えにくい。


 王族はカードコレクターに狙われやすい。

 町中で狙われることは滅多にないらしいが、街から町への移動中なんかは特に危険らしい。

 だからシフォンはお忍びでこの街に来た。

 狙われる危険を少しでも減らすために自分の情報が漏れないように細心の注意を払っていたらしい。

 しかし、狙われた。

 護衛と分断され一人になったところを狙われたということはある程度計画的な犯行だ。

 王族相手にそのようなことをする者は相応の権力者か頭のイカれたカードコレクターしかいない。

 シフォンが捜索されていないことを考えるとシフォンを狙ったのはこの街の権力者である可能性が高い。


 この街で王女がいなくなったとなれば隣国やこの領の領主様から責任の追及や処罰があることは容易に想像できる。

 おそらく死罪になるだろう。

 だが、それでも行動を起こした。

 つまり、相手は隣国や領主から逃れられる手段を用意している。


 そこまで考えたところで俺は思考を止めた。


 危なかった。

 今回は相手の正体を探るのはフィナンシェたちに任せると決めていたのに変に考え込んでしまった。

 相手の姿を勝手に想像してその幻影に惑わされるところだった。

 俺は目の前で起こった問題を片付けるだけでいい。

 余計なことを考えてはいけないのだ。

 俺たちが気付かなかっただけで極秘裏にシフォンの捜索が行われていた可能性もある。

 この街の者が犯人だと確定するまでは疑うべきではない。


 シフォンがこの街を離れる予定日まであと七日。

 事態は進展せず。

 相手の正体も目的も一切不明なままである。

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