岩場の朝 とりあえずの行動計画
次話との文字数の関係でちょうどいい切りどころが見つからなかったのでちょっと短めです。
白み始めた空。
若干肌寒く感じる空気。
日没前と何も変わらぬ景色。
「……朝、だな」
『そうだな』
「うん。何事もなく迎えられてよかったよね。これ食べて今日も頑張ろう!」
「ああ。ほらテッド、朝食だ」
『またこれか。別のモノはないのか?』
《文句を言うな。昨日お前が食べすぎたせいだろ》
『まぁこれも嫌いではないがな』
警戒していた夜襲はなく、生き残りのオークたちの鳴き声一つ聞こえなかった夜が明け、朝。
フィナンシェから渡された堅パン四つをテッドと分け合い食べながら周囲の確認をするも、見渡す限りの岩、岩、岩。
怪しいモノも見当たらなければ何かが動いている気配も感じられないし……フィナンシェの言うように無事に朝を迎えられたことは良かったとは思うんだが結局のところ夜のあいだに得られた情報は一つもなし。
強いて挙げるなら、望遠鏡らしきモノが本当に望遠鏡だったという確認がとれたことくらいだろうか。
ただしそれもフィナンシェの見立てでは何ら特徴と呼べるもののないありふれた望遠鏡の一つだということであったし、この望遠鏡の出処なんかから望遠鏡の所有者を探ることは不可能。
というより、そもそもこの望遠鏡の販売元に辿り着くことさえ困難だろうことを思えば、やはり新たに得られた有益な情報は何もなし。
望遠鏡と一緒に拾ったカードに関しても――
《テッド、カードの色はどうなっている?》
『見ればわかるだろう』
《……やっぱり見間違いじゃないのか。朝まで待てばどれか一枚くらいは緑に変わると思っていたんだが……》
手元にある六枚のカードは何度目を落としても赤か黄の二色のみ。
一枚赤から黄に変わったものもあるとはいえ緑になっていなければ意味がないしな。
…………いや、そうでもないか。
カード化の法則ではカード化してから十二時間は再カード化できない。
加えて、待っていればカード化中は驚く速さで身体の修復が行われていく。
だからカードが重傷以上を示す黄色か赤色のうちはカードを戻すことが推奨されていないだけで、別に赤や黄色のうちに戻しを行ってはいけないと定められているわけではない。
そう考えると、俺とテッドがこの六枚のカードを見つけた時点からすでに十二時間以上。
黄色は命に別状はない程度の重傷を示す色であると聞いているし、赤色のカードとは違い黄色のカードなら戻してからしばらくは意識を失うこともなく話を聞き出すこともできるはず。
そしてそうであれば、黄色のカードを戻すことには何の問題もないはず。
あとは黄色のカードのヤツらが発声に必要な部位を損傷していないかという心配はあるが……まぁ、黄色のカードは四枚もあるからな。誰か一人くらいはまともに話せる状態のヤツがいるだろう。
となれば、善は急げだな。
こうしているうちにもこのカードや望遠鏡を落としたヤツは逃走を始めているかもしれないし、情報を聞き出すのなら早い方がいい。
……とはいったものの俺が気づいてないような問題もあるかもしれないから、実際にカードを戻すかどうかはフィナンシェに相談してみて何も問題がないことを確認してからになるか。
とはいえ、かなりの高確率で戻すことになるだろうからもし戻すことになった場合には夜のあいだに赤から黄に変わった操糸魔法つかいのカードは最後に戻すとして……そうだな。まずはコイツから戻してみるか。