安心? 危険? 戦闘後
少し短め。
たぶん次回更新も3日後になると思います。
オークたちの謎の集団行動や突如現れた何かの仲間らしき流動体。
これらの事態に【カディル】の関与があったかもしれないと知り気分が落ち込んでから、どれくらいが経ったのか。
『おい、戻らなくてもよいのか?』
《どういうことだ?》
相手が【カディル】の関係者かどうかは別にしても、この場にカードや望遠鏡らしき物を落としていった俺たち以外の何者かがいたことは確か。そしてその何者かはまだ近くに潜んでいて俺たちを仕留めるために襲撃の機会をうかがっているかもしれないと警戒していたところに届いた、テッドからの意図が掴めない謎の念話。
戻らなくてもよいのかとは一体どういうことなのか。
そもそも戻るというのはどこに戻ることを指しているのか。
そんな疑問ばかりで埋め尽くされた頭に解答をもたらしたのは、テッドからの新たな返事……ではなく、テッドからの念話に首を傾げ周囲の状況を知ろうと耳を澄ました瞬間気づいた、一つの違和感。
《……静かだな》
『だから言っている。戻らなくてよいのか?』
いつから聞こえなくなっていたのか。
さっきまではたしかに聞こえていた岩が砕けるような音や、何か重い物が地面にでも落とされたかのような腹に響く大きな音。
おそらくはオークたちを取り込み力を増していた流動体がフィナンシェを排除しようと暴れることで聞こえてきていた、戦闘音。
それが聞こえなくなっているということは、まさかとは思うが最悪の事態になっている可能性も――――
《急いで戻るぞ。何か発見したらすぐに教えてくれ》
『わかった。索敵は任せておけ』
妙に激しく脈打つ鼓動と、言い知れぬ不安。
焦る思考の中、冷静さを失いながらもカードや望遠鏡らしき物を落としていった者のことを忘れずにいられたのは普段の思考訓練の賜物か。
……とはいえ、ここにいたヤツのことなんて今はどうでもいいか。
フィナンシェと流動体の勝負。
勝ったのはフィナンシェか、流動体か。
勝ったのがフィナンシェであったなら何の問題もないが、もしも万が一にもフィナンシェが負け、流動体がまだ健在であったとしたのなら、そのときは俺とテッドで流動体を――
もしも流動体が残っていたのなら。
フィナンシェでも勝てなかったヤツを俺とテッドで止めなければいけない。
しかし、そんなことが本当に可能なのか。
フィナンシェと戦って全く弱っていないということはないと思うが、それでもフィナンシェを倒したようなヤツを相手に俺とテッドに何ができるのか。
そう思い全力で引き返すこと二十分弱。
震えそうになる脚を必死で動かしやっとのことで見えてきたフィナンシェと別れた地点付近の小岩の上には――
「あ、おーい! トール! テッド! 何か見つかったー?」
戦闘後の休憩でもしていたのか飲んでいた水筒を口から離し呑気にこちらに声をかけてきたフィナンシェの姿と、何故かその横に置かれているどこから持ってきたのかと言いたくなるような推定一メートルを超える巨大な四角い岩の箱。
元気そうなフィナンシェの声を聞き急速に広がる安堵の気持ちと弛緩していく身体の隅々。
とりあえずフィナンシェが無事に流動体を倒せたらしいことや俺たちがあの流動体と戦わなくてすんだらしいことはよかったと言えるが、激しい戦闘が行われたことが容易に想像できる砕けた岩や抉り取られたかのように凹み削れている地面が広範囲に見受けられる一帯の中、わずかに残った無事な岩の上に腰を落ち着けているフィナンシェの横に置かれているあの四角い物体はなんなのか。
『無事みたいだな』
《ああ、そうだな。大した怪我もなさそうなんだが……あの岩の塊か岩の箱のように見えるアレはいったいなんだ?》
『箱?』
《ああ、あと数十秒もすればテッドの感知範囲にも入ると思うが、フィナンシェの座っている岩の横に岩でできた箱みたいな何かが置かれているのが見える。大きさも一辺一メートルくらいはありそうだし、いったいどこからあんなものが現れたのか……。まさかフィナンシェか流動体がそこら辺の岩を削って作り出したってわけでもないだろうし……》
まぁ、詳しいことはフィナンシェから話をきいたりテッドに調べてもらったりすればすぐにわかるか。
そんなことよりも、フィナンシェは無事、俺たちも無事。となれば、こんなどこに敵がいるかもわからない岩場の中、そろそろ完全に日が沈みそうだということの方が問題だな。
フィナンシェとテッドは暗闇の中でも状況を把握できるかもしれないが、この不安定で危険な足場に、至る所に障害物となりうる岩が存在しているこの岩場。
今から移動するのも危ないしここで夜を越すのは確定として、魔光石をつかったとしても周囲の岩々のせいで見える範囲は狭いものになるだろうし、もしここで夜間に襲撃を受けたとすれば、少しやばいことになるかもしれないな……。