そこに落ちていたものは
更新が遅れてしまい大変申し訳ありません。
ちょっと体調を崩してしまい療養していました。無事回復したので本日より更新再開です。
打ち鳴らしたカスタネットから発生した爆音の反響もある程度おさまり、静かになった岩場に響く物の落ちる音。
耳に入ってきたその情報からなんとなくの位置を割り出し近づけば、そこにあったのは……。
《なんだ、これ?》
『カードと筒だな。筒の方は望遠鏡とかいうやつではないか?』
《なるほど、望遠鏡か。たしかに、離れた場所から流動体を観察するにはもってこいの道具だな……って、そうじゃなくて。知りたいのはここに落ちているカードの枚数のことなんだが……》
音を聞いた地点から前方に三十メートルほど。
途中あったいくつかの岩を乗り越え、迂回し、発見した、落下音の正体だと思われるカードと筒。
正確には壊れた筒状だった物っぽい何かと、地面に広がっている三十枚以上はありそうなカード。
壊れ、破片を飛び散らせているこの筒状のモノが遠見道具の一種であることは流動体を観察している者がいるかもしれないという推測と矛盾しないし、テッドもそう言っているのだからその通りだと考えていい。
しかし問題は、カードの枚数とその散らばり方。
おそらくは望遠鏡と一緒にそこの大岩の上から落ちてきた物だとは思うが、それにしては一ヶ所に綺麗にまとまりすぎている。
この数十枚のカードが十メートルくらいはありそうな高さのその岩の上から落ちてきたのだとして、そのほとんどが直径一メートルくらいの円の中に収まるようにして落下するなんてこと、ありえるのだろうか?
カードはそんなに重い物でもないし、もしあそこから落ちてきたのだとしたらこんなふうに重なり合ったりするんじゃなくもっとバラけるのが自然だと思うんだが……。
《もしかして、罠か何かか?》
不自然にカードが固まっているのは俺の動揺や混乱を誘うため。望遠鏡らしき物の残骸が転がっているのも俺の意識を足元やこれらが落下してきた可能性の高い大岩の上に釘付けにするための撒き餌のようなものだとすれば――――
『罠の可能性は低いな』
――――これを仕掛けたヤツは頭上か後方から襲ってくる!!
そう思い、敵からの襲撃を警戒しバッと後ろを振り向き上下左右を確認すると同時。
伝わってきたテッドからの念話通り、矢や魔法、岩等が降ってくる様子もなく、ノエルのつかう魔術のように地面が変形するようなこともなく。静かな岩場。変わり映えのない景色。
十秒、二十秒……とテッドの感知範囲十五メートルよりも外を注意深く観察してみても、怪しい気配は一切なし。
俺たちの注意をカードや筒の残骸に惹きつけ増えた死角から攻撃を仕掛けてくるのが相手の狙いだろうという考えは見当違いな思い込みだったのか……、そもそもこれが罠であるという考えやこれらを持っていた者が敵であるという考え自体が間違っているのか……。
《……まぁ、そうだよな。罠ならもっと早く仕掛けてくるよな》
というかそれ以前に、これらを持っていたヤツが俺たちを倒そうとするのであればわざわざ自分の居場所を俺たちに教えるような真似をする理由がない。
ここにカードや残骸が落ちているということは何者かがこの方向にいるという考えは正しかったのだろうし確実にその何者かにも近づけていたのだとは思うが俺とテッドが向かっていたのはこの大岩からは少しズレた方向であったし、なにより痕跡を見逃さないために俺は忙しなく周囲に目線を送りながら移動をしていた。首も身体も上下左右に忙しなく動かし続けていたのだからここにいた何者かからすれば俺がただ闇雲に行動していることは簡単に見て取れたはず。
それにもし俺の動きを敵の油断を誘うための演技かもしれないと疑ったとして、相手が俺たちには見つかりたくない事情があったのだとしても完全に見つかったと断じられるような状況でなかった以上は身を隠して俺とテッドがどこかへ行くまでやり過ごした方が見つかる危険性は低かったはず。
ということは、このカードは偶然まとまった状態で落ちてきただけで罠でもなんでもない。
カスタネットの爆音に驚いた何者かがそこで壊れている望遠鏡らしき物と一緒にこの大岩の上から大量にカードを落としてしまい、そのカードがあまり散らばることもなくただ普通に地面に落下しただけ。
そう考えるのが自然で、状況証拠的にも最も可能性が高い。
だからもしかすると相手には俺たちと戦うような意思はなく、敵対行動をとってくるようなこともないのかもしれない。
そうは思いつつも、警戒は緩めず。
念のため、ゆっくりと、ゆっくりと近づき、浄化魔法で浄化してから手に取ってみたカードと筒の残骸にはやはり見覚えもなく……いや、カードに描かれた姿絵の方にはなんとなく見覚えがあるような……?
《テッド。このカードの人物、どこかで見覚えがないか?》
油断することなくしっかりと三分はかけ一枚ずつ慎重に検め拾い集めた人間六枚魔物四十二枚の計四十八枚のカードの内のたった一枚。
このカードに描かれている姿絵の人物になにか見覚えがあるような気がするんだが、一体どこで見たのだったか。
さすがに人魔界から渡ってきた人物であるということはないだろうから俺とテッドがこの世界に来てからの一年と少しのあいだにどこかで関わった人物の誰かではあると思うんだが……ダメだな。思い出せそうにない。
――と、諦めたのも一瞬のこと。
『この魔力。糸を操りお前を攫おうとした男のモノではないか?』
質問からたった数秒。
テッドから返ってきた答えで繋がる点と点。目の前と姿絵と過去にダララの森であった男の姿。
《ああ、アイツか。言われてみればこんな顔をしていたような気がするな》
たしか、操糸魔法とかいう希少魔法だかなんだかといった魔法を操る男だったか。
かなりの実力者であるということであったし、あの男ならこの場所まで来れてもおかしくはないかもしれない。とは思うが……。
《しかし、あの男の身柄はカードの状態で厳重に保管されることになっていたはずじゃなかったか? このカードの男があのときの男と同一人物だったとして、どうしてこんなところに? それに、このカードの他に落ちていた残り四十七枚のカードはいったい……?》
四十八枚のカード中六枚が人間のモノ。さらにその内一枚が知っている人物のモノ――それも国が厳重に保管しているはずの人物のモノかもしれないというのは、どうにも嫌な予感がして気持ち悪い。
これでまだこのカードの男があのとき俺とテッドを攫おうとしたヤツでないというのなら話は別なんだが……テッドはカードから出ている魔力の波長を見てあのときの男だと判断したようだし、望みは薄いか。
顔や背格好と違って魔力の波長は簡単に変化させられるようなものではなく、希少魔法の使い手ともなればその波長も他とは一風変わった独特なモノ。ノエルが言っていたのだからこれらの情報に間違いはないだろうし、そんな独特な波長をテッドが見間違えるとも思えない。
ということは、この大岩の上にいたヤツは最低でも六枚の人間のカードを所有していたおそらくはカードコレクターだと思われる者で、国が厳重に保管していたカードも盗み出せるようなヤツ。……なんというか、巨大カードコレクター組織【カディル】の関与を疑わずにはいられない状況だな。
しかも【カディル】内には俺とテッドを狙っているカードコレクターがたくさんいる可能性も高いから、もしもこの大岩の上からこのカードや望遠鏡を落としたヤツが俺やテッドのことを知っているカードコレクターだったとするなら今もどこかから俺たちのことを観察し攻撃の機会を窺っているとみていい。というより、そう考えていた方がいい。
……本当に、どうしてこの男のカードがここに落ちてしまっていたのか。
《これがあのときの男のカードでなければ――》
――そうすれば、【カディル】の関与を疑ってこんなに沈鬱な心境に陥ることもなかったはずなのに……。
ずっと寝込んでいた関係でやらなくてはいけないことが溜まってしまっているため次回更新は13日か14日になると思います。
また、次回以降、更新時間を19時に固定したいと思いますので、夜7時に更新がなかった場合その日の更新はないものと考えていただければ更新確認をする手間も省けるのではないかと思います。
今後も、本作『その最弱、最強と勘違いされる!』をどうぞよろしくお願いいたします。