なぜ追われるか
気が付いたら連載開始から一か月以上経過していてびっくりしました。
予想通り、イエロースライムをフィナンシェたちから引き離すことができた。
フィナンシェたちやリカルドの街から離れるように走る俺の後ろをイエロースライムが追いかけてくる。
イエロースライムの動きは遅い。
攻撃さえされなければ何日だって逃げ続けられる。
問題はこのあとどうするかだ。
考えられる最悪の状況は七人全員がカード化してしまっていることだ。
カード化したままの状態で十五日以上経過してしまうとかなり高い確率で精神が崩壊してしまい廃人になってしまうという話だった。
誰か一人でも生き残っていればその一人が他の六人をカードから戻してくれるはず。
だが、もし七人全員がカード化してしまっている場合は俺が戻す役割を担う必要がある。
そう考えると、最低でも十四日以内には先ほどの場所に戻らなくてはならない。
しかし、イエロースライムを連れたままフィナンシェたちのところに戻るわけにもいかない。
テッドの感知があればカード化したフィナンシェたちを見つけるのは難しくないとは思う。
それでも、カード化した後に攻撃の余波で飛ばされている可能性を考えると捜索に半日はかかると思った方がいい。
半日ものあいだイエロースライムから逃げつつフィナンシェたちを探すのは大変だ。
見落としの可能性も増す。
もしまたあの辺りで攻撃でも繰り出されたらたまったもんじゃない。
俺とテッドがその攻撃を避け、生き残れたとしてもフィナンシェたちのカードはどこかへ飛ばされてしまう。
割れた地面の隙間に落ちたり瓦礫の下敷きになったりする可能性もある。
イエロースライムの移動速度は遅いといっても、人間の歩く速度とあまり変わらない。
この速度なら何日だって逃げ続けられると先ほどは思った。
しかし、少し前から身体が痛い。
ひょろ長たちとの戦闘で傷ついた身体と消耗した体力ではそう大きく引き離すことはできない。
七日かけて遠くまで移動し、そこから引き返して六日半以内にフィナンシェたちのもとに戻る。
これができれば半日追いつかれないくらい引き離すこともできると思うがたぶん無理だ。
俺の体力がもたない。
そもそもカード化から十五日というのは限界のラインだ。
できるならばもっと早く戻してやりたい。
食料の問題もある。
荷物を増やしすぎないように最低限の食料しか持ってこなかったため、かばんには十日分の食料しか入っていない。
もともとはフィナンシェと一緒に現地調達しながら行動する予定だったが、いまはそのフィナンシェがいない。
フィナンシェがいなければ何が食べられるのかわからず食料を調達することができない。
カード化による精神崩壊、体力、食料。
問題は山積みだ。
やはり、スライムをなんとかして早めにフィナンシェたちのもとに戻るしかない。
どうして俺たちを追いかけてくるのかわかればなにか解決策も見つかるかもしれないんだが……。
《この状況の打開策はないか?》
『ない』
《イエロースライムと会話したりとかは?》
『できん』
《なんでもいい。なにか思いつかないか?》
『考えてはいるが、何も思いつかん』
テッドに聞いてみても何もわからない。
イエロースライムから数百メートルくらい離れたタイミングで手に持ったままだった枝に瓶一本分の薬をかけ、その枝と残りの薬瓶九本を地面に置いてみた。
枝と薬瓶の置いた場所はイエロースライムから見て左側。
俺はその場所から離れるようにイエロースライムから見て右側に全力疾走した。
その結果、イエロースライムは進路を右に変えた。
イエロースライムが薬に引き寄せられているのではないかと期待しての行動だったが、そんなことはなかった。
この行動の結果はっきりしたのはイエロースライムの狙いは俺かテッドということだけだった。
まだなにかに使えるかもしれないと思い、とりあえず枝と薬瓶を回収に戻ってから再び逃走を開始した。
狙いは俺たち。
ということは、スライムであるテッドに引き寄せられているか、俺たちがこの世界の者ではないからか。
このどちらかの理由で追いかけてきている可能性が高い。
スライム同士が引き寄せ合っているなんて情報は聞いたことがないことを考えると、おそらく後者が正解。
俺たちがこの世界に来てから十数日。
イエロースライムがリカルドの街に向かって移動し始めてから数十日。
俺たちが来る以前からリカルドの街に向かっていたことを考えると、最初はなにか別の理由で街の方向に向かい始めたが途中で俺たちを追いかける方向にシフトした可能性がある。
その場合はこのまま街から引き離すだけでは根本的な解決にはならないかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
まずはフィナンシェたちを助けることが優先だ。
イエロースライムに関しては街から引き離すだけでも時間稼ぎにはなるし、そのあいだに何か別の作戦を考えればいい。
ひとまずこの状況をなんとかしなくては。
イエロースライムをどうにかできないかと考えながら足を動かし続ける。
両足ともまだ動いてはいるが限界は近い。
痛い、思い、ダルいの三重苦。
先ほど一度転んでしまったときは身体が重く、起き上がるのが辛かった。
フィナンシェたちを助けたい一心でなんとか起き上がることができたが、もしフィナンシェたちが無事な状況であったなら起き上がる気力すら湧いてこなかった。
そろそろ一度目の休憩を入れたい。
しかし、イエロースライムが休憩しそうな気配はない。
カルロスが観察していたときは日に五時間ほどは動かないときがあったらしいがその五時間がいつ訪れるかわからない。
身体が限界を訴えてきているのに無理をしてしまっている。
もしかしたら俺が動けるのはあと数時間かもしれない。
残された体力は少ない。
スライムをなんとかする方法を早く思いつかないといけない。
そう思い、俺たちが異世界の者だから追いかけられているという予想が正しいと仮定して、なぜ異世界の者を追いかけてくるのかその理由を考えているのだがそれらしい答えがまったく思い浮かばない。
一番それらしいのは、今までに感知したことない反応があったから興味を持ったという仮説。
しかし、テッドに聞いてみても人魔界の人間とこの世界の人間とで感知したときの反応に違いはないらしい。
テッドがあのイエロースライムを感知したときも違和感なんかはなかったらしい。
世界最強とまでいわれるくらいだからテッドとは色々と違うのかもしれないが、近づくと嫌な感じがするという点はテッドもこの世界のスライムも共通している。
そのことから考えると、この世界のスライムも目の代わりに魔力を使用している可能性は高い。
おそらく、テッドと同様に魔力で周囲の状況を感知しているはず。
感知によって得られる情報がテッドより多いのだろうか。
それとも、感知とは別に俺たちがこの世界の者でないと判断できるような能力でも備わっているのだろうか。
テッドとイエロースライムの共通点と相違点。
何が一緒で、何が違うか。
そう考えたところで、一つの考えが頭に浮かんだ。