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高みは遠く、芽吹きは近く

 ――仰向けに倒れたオークがいれば喉にひと突き入れ、うつ伏せに倒れたオークがいれば骨を避けつつ首に二~三度振り下ろす。


 テッドの魔力に倒れたオークの末路。

 喉にぽっかり空いた穴と、首の左右に入ったスッパリとした斬り込み。


 身体さえ動けば、オークの相手など赤子の手をひねるようなもの。


 走り、接近し、首を断つ。


 たったそれだけで、四体のオークは数分のうちにカード化する。


『二分二十七秒。圧勝だな』

《内訳は?》

『走り出してから一組目を倒すまでが一分三十二秒。二組目を倒すまでが五十五秒だ』

《上出来だな。テッドのおかげが大きいとはいえ、俺にしてはよくやれたんじゃないか?》


 二分二十七秒でオークを四体。

 これだけの早さでオークを四体もカード化できたのはオークたちがテッドの魔力にビビって倒れてくれたおかげと、フィナンシェがオークの最適な倒し方を見せて(教えて)くれたおかげ。


 オークの首は太いせいか可動域が狭く、カラダも重いせいか横向きに倒れることは極めて稀。

 ゆえにオークが倒れた際の体勢は、仰向けか、うつ伏せか。

 倒れ伏したオークへの攻撃策も、基本的には二つだけ。

 仰向けに晒された首にぶすりと一突きか、うつ伏せの首に左右から斬り込みを入れるか。

 釣り出し作戦の最中、フィナンシェがそうやってトドメを刺していたのだから間違いない。

 実際、その方法で苦労もなく四体のオークをカード化できたしな。


 とはいえ――


『我だけでなくお前の力も大きかったのではないか? 一年前に比べると、だいぶ洗練されているぞ』

《それはまぁ、そうかもしれないが。それでもやっぱり、テッドの魔力の働きが大きかったと思うぞ》

『当然だ。オークを倒す程度、我にかかれば造作もない』

《言葉通り、本当に造作もなかったな》


 ――これはテッドなりの励ましだろうか?


 たしかに、この世界に来てから俺の力はだいぶ向上している。

 金に困らなくなったことで訓練時間は増え技術も上がり、人魔界の物よりも重いこの世界産の剣を使用したり浮遊魔術を使用してもらいながら馬に引っ張られるメルロを握りしめ続けたりと身体にかかる負荷も増え食生活も改善されたおかげで筋力も大幅に増している。

 しかしやはり、力が増して技術が向上したからといってテッドの魔力の補助なしにオークと戦えばたとえ倒せたとしても一体につき二~三分はかかるだろうし、ましてや二体同時や四体連続なんて想像もしたくない。


 だからもしもこの世界の剣が重いことや俺の力が増したことがオークの首に素早く致命傷を与えることへの助けとなっていたとしても、それはやはりテッドの魔力によってオークたちが無防備に倒れていてくれたおかげ。


 俺一人で相手をしていたら確実に息も絶え絶えになるほど疲弊していたし、最悪の場合、というか高確率で、四体を倒しきるまえに死んでいた。


 息も絶え絶えどころか息絶える。

 それができるだけ客観視してみた、現在の俺の実力。

 オーク四体を討伐成功なんて今の俺一人では数十回に一回あるかないか。

 未だ目の前で戦闘を繰り広げているフィナンシェのようにオークジェネラルの振り回す棍棒のような巨大な石棒や拳を避けつつ的確に関節や急所を突くなんて真似、俺ではオークが相手でもできそうにない。


 ……とはいったものの、そんなことは実際に岩場でオークと戦ってみるまえから知っていたし、べつにそのことを嘆いたり悔やんだりもしていないからテッドに励ましてもらう必要もないわけなんだが……まぁ、褒められて悪い気はしないな。

 テッドはたとえ励ましでも嘘は言わないからテッドから見ても明らかにわかるほど成長していると知ることもできたし、特に引け目からくる悔しさなどではなく、フィナンシェへの憧れやただ純粋に上を目指したいという前向きな気持ちからもっと強くなりたいと思っている今の状況下で自分の成長をしっかりと自覚できたことは俺にとってかなり大きかったような気もする。

 何か一つ殻を破れたような、そんな感じ。

 少なくとも自信がついたことだけはわかる。


 …………まあそれでも、フィナンシェのように自分の何倍も大きい魔物を相手に堂々と戦えるような気はしないが。



「フィナンシェの方も、これで終わりだな」



 執拗な関節狙いからの急所狙い。

 丸太のように太いあの脚や腕を切り崩し倒れ込んできた目や口に真正面から正確に剣を突き入れるとか……もはや人間業ではないな。


 あの度胸と技量。


 あれを目標とするには、少し次元が離れすぎているかもしれない…………。

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