一五〇の犠牲と二〇五の目的
まだ姿の確認できていない五体の上位種。
その上位種たちがいるであろう岩山やその向こう側にはなるべく近づきすぎないように気をつけつつ、たまに場所を変え、オークたちを誘き寄せ討伐し、二時間。
『百四十四体目』
今の百四十四体目で岩山よりもこちら側にいたオークはすべてカード化できたようにも思えるが、しかし、ここまでオークの数が減らされいるのに上位種の一体も出てこないとなると――
「フィナンシェ」
「うん、たぶんそう。こっち側にはもういないと思う」
「なら、急いだ方が良さそうだな」
「うんっ!」
岩山よりこちら側にはもうオークはいない。
そして、最後に倒したオークは岩山のすぐ近くから食料の匂いをかぎつけ、今俺たちのいるこの場所までやってきた。
ということは、ここに置かれている肉や果実の匂いは岩山までしっかりと届いてしまっていたはず。
であれば、相手は魔物だから断言はできないとはいえ、少なくとも四日前まではオークたちの巣として利用されていたあの岩山がまだ拠点として機能しているのであればあそこには最低でも五体の上位種のうち一体は存在していて、何者かがオークたちを排除していることにも気がついているはず。
それなのに、オークたちに俺たちを排除しようという動きが見られない。
これはつまり、あの岩山はもう拠点としての役割を失い放棄されたか、俺たちの存在に気づいていながらも無視をきめこんでいるか、本当にまだ俺たちの存在や仲間が減っていることに気づいていないか。
ただ、相手はオークの上位種。
上位種というくらいなのだから当然オークと同等以上には鼻が利くのだろうし、オークたちを統率できるだけの知能を持っていて俺たちの存在どころか仲間が減らされていることや肉や果実なんかの匂いにすら気がついていないということは考えにくい。
そう考えれば、可能性としてありえるのは前に挙げた二つ。
あの岩山はすでにオークたちの巣としては利用されてなくてオークの上位種ももうあそこにはいないか、オークの上位種はまだあの岩山近くにいて何者かがオークの数を減らしていることにも気づいているが、そんなことよりも岩を砕き運ぶことの方が重要だと考えそちらの作業を優先させているか。
『いない可能性の方が高いと思うがな』
《俺もそう願いたいが、どちらにしろ大変なことには変わりないぞ》
オークやオークの上位種との戦闘に備えできるだけ体力の消耗を抑えつつの、急ぎ足。その移動の最中、フィナンシェに置いて行かれないよう気をつけながらの考え事と、テッドとの念話での相談。
もしもオークやオークの上位種がすでに岩山にいないのであればそれはそれでなにか大変なことが起こっていそうで面倒くさいが、もしオークの上位種がまだ岩山にいるにもかかわらず俺たちを攻撃してきていなかったのだとしたら、その方が面倒くさい。
上位種はまだあの場所にいて、俺たちにも気づいていて、オークたちを統率して俺たちを襲うこともできて、なんなら上位種単体で俺たちを排除しようとすることもできて……いろいろと可能性は考えられるのに、それでも俺たちを無視して作業をし続けているのだとすれば、考えられるものとして一番可能性が高いのは――俺たちなんて気に留める必要もないくらいに、オークたちの作業が進行してしまっているということ。
ギルドが時限式映像記録装置から送られてきた映像を見て、数え、予測したオークの総数は三五〇弱。
そして俺たちが倒したオークの数はそのおよそ半数。
それだけの数のオークがカード化されているというのにそれでもまだ俺たちを無視しているのだとしたらやはりオークたちは何か目的があってどこかへと岩を運ぶという作業を実行していて、その目的のためならオークが何体犠牲になろうとかまわないとも考えていて、それでいて、その目的はもう達成間近ということなのだろう。
だから、オークたちが何体消えようとも俺たちには見向きもせず作業を優先させている。
――と、もしこの想像が正しいのだとして、オークたちの叶えようとしているその目的が人間に対して害を及ぼすようものなのだとしたら……。
「オークを止められるのは、今がラストチャンスかもしれないな」
「うん、そうだね。私たちで絶対に止めないと」
意気込む俺とフィナンシェ。
まだ遠く見えるあの岩山の中に、上位種はいるのかいないのか。
本当ならこんなときこそノエルの力が必要となってくるんだが……まぁ、いないものは仕方がない。
オークたちの真意が何であれ止められるものなら絶対に止めた方がいいということはたしかであるし、阻止するのなら今しかないという直感もおそらく当たっている。となれば、泣き言はなし。
残るは上位種五体にオークが二百体。
広範囲攻撃や遠距離攻撃、高速移動手段を持っているノエルなしでこの数を殲滅し予想もできないほどの長距離を移動しなければいけないというのはかなり骨が折れそうだが、なんとかやってみるしかないか。