先手必勝
魔法玉を渡され、それを投げろと言われてからの改めての作戦説明。
『――理解できたか?』
《バッチリだ》
すぐ目の前にはオークが三体。身体は動かない。
残された時間もおそらく数秒~十数秒程度の、絶体絶命のこの窮地。
作戦を二度聞く余裕はなく、一言一句聞き逃してなるものかと集中して頭に叩き込んだ作戦はテッドがこの土壇場で告げてくるだけあって単純明快。
『二度、物を放るだけだ。それならお前にもできるだろう』
《そうだな、簡単だ》
『ではやるぞ』
《オークがこれ以上近づいてくるまえに仕留めないとだからな》
俺にも理解しやすく、実行も容易い作戦。
俺のすべきことといえば、モノをたった二回投げるだけ。
攻撃を仕掛けるタイミングやらなんやらはすべてテッド任せ。俺はそのたった二回モノを投げることに全身全霊を注げばいいだけだから、この作戦であれば俺が焦って失敗する可能性も限りなく低くて安心だな。
そう思いながら、テッドと念話しつつ進めていた作業。
先ほど必死になって集めた岩の欠片を薄く燃えやすい布に包み、中身が出てこないよう包みの口をきつくしばった瞬間――
『――今だ、いけッ!』
「こっちを向け! オークども!!」
作戦を聴き終え、安堵を感じ、意識を研ぎ澄まし始めてから、一秒もあったかというほどわずかな時間の後。
まずは一投。
もう声を潜める必要もなく、むしろオークたちの気を引くために叫んだ声。
その声に引きつけられ完全にこちらに顔を向けた三体のオークたちと俺たちのあいだ、上方斜め四十五度、オークたちの顔よりも少しだけ高い位置に向かって、人間の頭よりも少し小さい程度――テッドくらいの大きさまで膨らんだ大量の岩の欠片入りの包みを、全力で投げつける。
そしてすかさず二投目。
放り投げた布包みのすぐ後方、包みよりも頭一つ分ほど高い位置に向かって、ゴブリンをビビらせる程度の威力しかない小爆発を発生させる――《小爆撃》の魔法玉を投げつける。
《ここまでは上手くいったな。テッド、あとは任せたぞ》
『無論だ。安心して座っていろ』
座っていろ、というより、座るか寝るかしかできない身体状態。
上半身しかまともに動かせない中、岩の欠片入りの重い包みを高く投げるために無理してひねり痛めた右腋から脇腹までのラインを左手で軽くさすりながら、オークたちに目を向け作戦の結果を座して待つ。
直後。
投げる直前に流した魔力が魔法玉の起動部に達し、ボンっと小爆発。
それと同時、作戦通り――とはいえいつのまに投擲していたのか。
テッドの投げた、《小爆撃》の魔法玉より少し高めに上げられた《強風》の魔法玉が、小爆発に息吹を送り込みその爆発を何倍にも加速させる。
『燃えたな』
《ああ、成功したな》
送られた風によって一瞬にして勢いを何倍にも膨れ上がらせた爆発の威力と、その爆風と強風に押され、燃え尽きた布の中から飛び出し斜め下方、オークたちに向かって凄まじい勢いで飛散する熱せられた大量の岩の欠片たち。
目にもとまらぬ速度で下降したその熱せられた欠片たちは容易にオークの分厚い肉を切り裂き、抉り取り、あるいは突き刺さり……。
爆発の寸前、こちらの声に気を取られ宙に投げられた包みに目を奪われていたオークたちは文字通り目を、鼻を、口を、腕を、手を、足を、カラダの自由を奪い取られ。
一体は即座にカード化。
残りの二体も見るからに瀕死の重体。
残った二体のうち一体は腕も脚も両方やられてしまったのかロクに動く気配もなく、もう一体は右腕と左脚は辛うじて動くらしく必死にもがいているが倒れたまま起き上がることもできない様相。
オークがこの状態なら、テッドの魔力に触れ発狂したとしても大した脅威にはならない。
テッドの魔力でオークの動きを牽制すれば簡単に倒せるはず、と思ったのも束の間。
『いけるか?』
《腕をつかって這うのと、何度か両腕で剣を振り下ろして首を落とすくらいならなんとか……》
テッドからの確認と、それに対する返事。
その後は想定外のことも起こらず、宣言通り、弱って動くこともできないオークにトドメを刺すこともそれほど難しいことではなく――
「はぁ……はぁ……なにか爆発したのが見えて急いで戻ってきたんだけど、なにかあったの?」
フィナンシェが戻ってきたのは、オーク三体を倒してから八分後のことだった。