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なんというか

 思いついたのは手の届かないほど遠くにある岩の欠片を手元まで引き寄せ、利用する手段。

 周囲に散乱している細かい岩の欠片を利用し、活路を見出す一策。


 注入した魔力量に応じて長さを変える可変式金属棒メルロの最長は百二十センチ。

 この百二十センチに俺の腕の長さとメルロの先に輪っかになるように両端を結びつけた縄の長さを合わせればえーっと……よくわからないが、大体二百センチくらい先までは手が届くようになるだろう。


 あとはこの輪縄つきメルロの輪縄部分ができるだけ遠くまで届くように思いっきり振りかぶって、振り下ろして、引っ張れば――


《――あれ?》


 瞬間、止まったようにも感じられた時間の中。

 テッドに送ってしまった呆けるような念話と、焦る内心。


 生死を賭けた試みの結果は失敗か成功か。

 予想通り遠くの地面の上に綺麗に落ちた輪縄と、予想と異なり全く集まらない岩の欠片。


『こんなときに何をしている? ふざけているのか?』

《いや、予想だともっとこう上手く引き寄せられていたんだが……》


 思い描いていたのとは違う光景に、残念な手応え。


 予想では遠くまで伸ばした輪縄を引っ張り引き寄せればその輪に引っかかった岩の欠片がここまで手繰り寄せられてくる――と、なるはずだったんだが……。


《縄の重さが足りなかったか? 太さも足りていないかもしれないな》


 縄の重さが足りないのか岩の欠片の上を乗り越えるようにして通り抜けていってしまう輪縄や、縄に引っかかったかと思えば引っ張る勢いに負けたのか縄の上を転がるようにして輪の外へと零れ落ちていってしまう岩の欠片たち。


 明らかに縄で手繰り寄せられそうにない大きさの欠片や岩は避け、できるだけ小さな欠片が大量に散乱している場所を目掛け急ぎ五回ほど同じ行動を繰り返してみても、集まったのはバラバラな幅をした指の関節一つ分~三つ分くらいの長さの欠片が数十個程度。


《本当なら欠片がもっと大量に集まって、それを使っていくつかの小山を形成。その山を踏んだオークたちが転倒したところにトドメを刺す、となる予定だったんだが、この量だとそれはできないな》

『お前は。こんな状況でまたそんなバカなことを考えていたのか』

《バカとはなんだ》


 ――と、言い返しては見たものの。


 岩の欠片を集め、積み重ね、小さな山を形成。

 それをオークたちの進路上にいくつか設置しておくことでオークたちが踏んだ瞬間にその山は崩れオークたちも転倒する。

 あわよくば岩の欠片で足を傷つけてくれれば好機到来、動きの鈍ったオークが相手ならなんとか倒せるかもしれない。

 ……などという考えはよく考えてみればこんな場所で暮らしているオークたちの皮膚が岩の欠片を踏んだりその上に転倒したりした程度で傷つくとも思えないし、そんな見え見えの罠をオークたちが踏んでくれるとも限らない。


『そもそも、集めた欠片をどうやってオークの進路上まで運び積み重ねるつもりだったのだ?』


 それにテッドの言う通り、遠くから欠片を引き寄せる方法は考えていたが遠くに欠片を設置する方法までは頭が回っていなかった。


 俺は欠片を集めたあとどうやってこの動かない身体でオークの進路上にいくつもの山を形成するつもりだったのか……。

 というより、欠片が集まらなかった時点でバカな考えだったことはすでに証明されてしまっているか。


《たしかに、バカな考えだったな……。それでテッド、何か妙案はないか?》


 それでも、今は反省よりも生き残る方法を模索することが優先。

 ここで生き残れなければ反省したところで何の意味もない。


 とはいえ――


『残念ながら、時間切れだ』


 もっと早くに失敗を認め別の案を模索すべきだったのか、四メートルほど正面、オークたちとのあいだにあった最後の大岩が右へと動いていき、顔を覗かせる三体のオークたち。


 この距離まで近づかれてしまってはもうオークを倒せる策を考える時間もないし、決着までは数秒。

 こうなったら一か八かでテッドをオークたちの中心に投げ込んでみるしかないか。


 ――などという悲壮な覚悟やオークを倒すための考えなんかもすべて必要なかったのか……。


『さて、オークどもを倒すぞ。お前はそれを投げろ』


 先ほどの時間切れという言葉はなんだったのか驚くほど簡単にオークを倒すと言ってのけたテッドといつの間にかかばんから出されていた一つの魔法玉。


 今のこの気持ちをなんと表現すべきか。


 なんというか……。


《策があるのならもっと早く教えてほしかったんだが……》

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