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一計とも言えぬかすかな思いつき

 どんなに頑張っても持ち上がらない身体、立ち上がらない足。


《悪い。立ち上がれない》


 動かせるのは腰から上、上半身のみ。

 装備は防具一式に剣一本。

 他に手の届く範囲にあるものは道具が詰め込まれている背負いかばんと、周囲の岩から削り落ちたと思われるいくつかの岩の欠片。


『どうするのだ?』

《どうするって訊かれても……ここで迎え撃つしかないだろ》


 テッドからの質問にも、そう答えるほかなく。


《可能性があるとすれば、テッドの魔力くらいか……》


 この局面を打開する方法としてすぐに思いつくのは、テッドの魔力によってオークたちを怯えさせることのみ。


《とはいえ――》


 オークの肉は分厚く頑丈。

 その分厚い肉の鎧を貫けるのであればオークを倒すことも難しくはないが、今の俺の力ではそれは不可能だと思った方がいい。


 となると、狙うべきは肉による守りの薄い部分、首や目、鼻、口あたり。

 その首から上のどこかを狙えればいいんだが、俺の身長でオークの首を狙うのは立っているときでも難しい

 そう考えると、ただでさえ高さで負けている俺がこの座った状態から見上げるほど高い位置にあるオークの首から上を狙うなどほぼ不可能。


 カスタネットは他のオークを呼び寄せたりフィナンシェが近くまで戻ってきていた場合にフィナンシェにダメージを与えてしまったりする可能性があるから使えないし、メルロや剣でオークの足を狙って体勢を崩そうにもメルロや剣が足に当たる距離まで近づかれた時点で俺たちの命はないも同然。

 かばんの中にある魔法玉を使ってもオークをカード化するまでは及ばないだろうし、魔法玉で上手くオークを転ばせオークの首を目の前まで持ってきたとしても、立ち上がられたり他の二体が加勢してくる前に倒しきれなければそれで終了。

 そもそも三体のオークすべてを転ばせることも、ちょうど俺の剣が届く位置にその三体すべての首を持ってくることも難易度が高すぎて現実的でない。


 そんな実現可能性の低いことをするくらいであれば、一か八かテッドにこっそりとオークたちに近づいてもらうか、オーク三体がテッドの半径三メートル以内に入るような位置に俺がテッド投げ込んだ方が、まだオークを制圧できる可能性が高い。

 とはいえ――


《それもまた、可能性が低すぎるか……》


 正面に見える岩の向こう。オークとのあいだにいくつの岩があるのかは知らないが、テッドが感知できる距離まで近づかれてしまっているからにはオークたちも俺たちのことをで感知している可能性が高い。

 テッドが言うには俺たちに向かってまっすぐ近づいてきているということでもあったし、いくら岩があいだにあるとはいえオークたちが俺たちを避けるように進路を変更するとも思えない。

 となれば、遭遇は必至。戦闘も必至。


 どうせやらねば死んでしまう状況なのだから実現可能性が低いとかそんなことを気にしている場合ではないかもしれないが、一度それでいいと決めてしまえば他の案を思いつく可能性は限りなく狭まってしまう気もするし、もっと生存率の高い策を思いつく可能性が残っている以上はまだここで思考を止めるべきではない。


 と、そう考えればこそ、テッドをオークに近づけさせるという案はオークがテッドの魔力への恐怖による脱力ではなく発狂による暴走状態になってしまった際にテッドや俺が無事でいられる保証がないことや脱力したオークがテッドの上に倒れ込んでしまった場合にテッドの命がないことから当然却下。


《俺やテッドもカード化できるとわかっているのならその選択もできなくはないんだが……》


 現状この世界にとって異物である俺たちの扱いが不明である以上は、不用意にどちらかの生命が失われるような真似はできない。


 ……とはいったものの、俺もテッドもできるだけ安全な状況でオーク三体をカード化できる策なんてそう簡単に思いつくとも思えないし、そもそもそんなものが存在するのかどうか。

 さっきから聞こえてきているズズズッ、ガガッと何か重い物が動くような音やブモブモというオークたちの鳴き声からしてもオークたちはもうかなり近くまで来ているようであるし、考える時間もあとどれほど残されていることか。


『せっかく岩がたくさんあるのだ。それを利用してみてはどうだ?』

《岩を利用……と、言われてもな……》


 テッドは岩を使ってみてはどうだと訊いてきているが俺には岩を動かすような力もなければ身体を動かせないこんな状態で岩を有効的に利用できるような方法も思いつかないし……。


 せめて身体を自由に動かせるならばかばんの中に入れてある縄なんかを岩にくくりつけて罠を張ることもできるとは思うんだが、今この状態でできることといえばそこら辺に落ちている岩の欠片を投げつけるくらいか?

 しかし、それでオークに傷を与えられるとは……それに俺の力でも持てそうな岩の欠片も、手の届く距離に落ちているのは数えるほどしか……。


 ………………いや、待て。

 かばんの中に入れてあるメルロと縄。

 その二つを使えば案外……そうと決まれば手始めにかばんからメルロと縄を取り出して、大きな輪ができるように縄の両端をメルロの先に結んでからそうしてできあがったこれを――


《テッド、オークたちは?》

『残り八メートル、岩を退けながら一直線にこちらに進行中だ』


 メルロと縄をつかった作業と併行しつつ、テッドへの確認。

 先ほどから聞こえていたズズズッやガガガッという音は岩を動かしている音だったのか、オークとの距離は思っていたよりも遠く、まだ八メートル。

 この調子であれば、オークがここに来るまであと一分はあると考えていい。


 これなら、なんとかなるかもしれないな。

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