いない仲間と厄介な来訪者
背中に感じる硬い感触と、わずかに明るい外の世界。
瞼をゆっくりと持ち上げれば、目に入ってくるのはまだ昇り始めたばかりと思われる日の光と、薄黒い雲の浮かんだ空。
どうしてこんなことになっているのだったか?
…………頭が重い。身体もダルい。
「うぅ……ここは……?」
『ようやくお目覚めか。今回は随分と長かったな』
「お目覚め? 長かった? ……ああ、そうか」
昨日馬に乗って意識を失って、それでいまやっと目が覚めたということか。
となると、この背中に感じる硬い感触は岩肌の感触……右を見ても左を見ても岩ばかり目に入ってくるし、なんとか無事にロックブロックの岩場に辿り着けたみたいだな。
《というか》
昨日馬に乗ったのが夕方頃で今が朝ということは……。
《もしかしなくても、半日くらい眠っていたか?》
あるいはもっと長く、一日半とか二日半とか眠ってしまっていた可能性も……。
『半日と一時間程度だな』
「……はぁ、よかったぁ」
『どうした? 何がよかったのだ?』
さすがに俺も、少し馬に乗っただけで一日以上寝てしまうなんてことにはならなかったか。
何が起こるかわからないからという理由で急いでここまで来たのに俺のせいで一日以上無駄にしたなんてことになっていたら目も当てられなかったからな。
寝てたのが半日だけで本当によかった。
「なんでもない。それよりもフィナンシェは?」
近くにはいないのか、姿の見当たらないもう一人のパーティメンバー。
俺の睡眠時間についてはもういいとして、フィナンシェはどこに行ったんだ?
テントも出ていなければ近くの岩陰に隠れているというわけでもなさそうだし、フィナンシェも俺同様に毛布にくるまって寝ていたのかフィナンシェが使ったものと思われる毛布はすぐそこに落ちているが……まさか、一人でオークたちの様子でも見に行ったのか?
もしそうだとするなら、万が一にも戦闘になっていたりはしないよな?
『そろそろ帰ってくるのではないか?』
帰ってくる。
ということは、やはりどこかに行っているのか。
「どっちに行ったかはわかるよな? 何をしに行ったのかはわかるか?」
『食材を持って七時の方角に行ったぞ』
「食材?」
『ああ、食材だ』
ここから七時の方角というと太陽の位置から考えて……オークたちの巣とは反対方向か?
そこに食材を持って行った? どういうことだ?
『オークは鼻が利くのだろう? だからではないか?』
鼻が利く……食材……。
この場で寝ていた俺。
そしておそらく付近にオークの姿はなし。
あとはテッドが言い忘れただけでおそらく食材だけでなく調理器具も……。
と、これらの情報から考えられることは――
「つまり、オークが食材の匂いにつられてここに来てしまうことを懸念して、オークの巣のある方向から距離を取ったということか?」
『おそらくはな』
今日はこれから大量のオークと戦うという大仕事。
オークの中には上位種も数体いて、気は抜けない。
だからそのまえに、美味い食事を食べて英気を養おうということか?
それに――
「身体を動かすためには栄養が必要。そしてその栄養を摂取するためには食事が必要……」
栄養には種類があって、食材ごとに有している栄養が異なるとも聞いたことがあるしな。
「オークとの決戦に臨むために必要な栄養を摂取するには強い匂いを発する料理をつくる必要があったと考えれば、フィナンシェが食材を持ってここを離れたというのも不思議ではないか」
とはいえ……。
「テッド」
『正面に三体。向かってきているな』
こちらに向かって近づいてくる何かの気配とテッドからの返事。
匂いに惹かれてきたと決まったわけではないが結局のところ三体ものオークがこちらに向かってきてしまっているみたいであるし、結果的にはフィナンシェにはこのそばで調理してくれていた方が助かったかもしれない。