表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
355/375

無駄な祈り

 …………いや、ないな。


 各地で発見された中規模以上の魔物の巣とこの先の岩場にあるオークの巣。

 ギルドや国を騒がすこの一連の騒動の首謀者とも犯人とも呼ぶべき人物がノエルであるなんてことは現実的に考えてまぁないだろう。

 人に迷惑のかからない場所に魔物の巣をつくって魔物を相手に魔術や魔法の実験をしていたということは魔術に対するノエルの情熱を見ている限りありえなくもないが、俺たちと一緒に行動していた数十~数百日間にノエルがどこかにフラっと消えて何かをしていたようなそぶりはなかったし、これまで一緒に行動してきた感じノエルはそういったことをする人物ではなかった。

 世界一の魔術師になるという目的のことを考えても悪評が広まりかねないようなことをノエルがするわけがない。


《今の言葉は忘れてくれ。ノエルが犯人というのはさすがになかったな》


 そもそも各地に魔物の巣をつくっている人物が本当に存在したとして、そんなことが一人で行えるわけもない。

 よく考えてみればこの先にあるオークの巣と各地で発見された中規模以上の魔物の巣に関連性があるかどうかもまだ不明だが、この際それは気にしないとしても誰かが魔物の巣をつくったというのならばそれは何か目的があっての行動のはず。

 魔物の巣をつくることそれ自体が目的であり巣をつくったあとはもう関与することもなく放置しているというなら話は別だが、そうでないならある程度の管理や監視はしているだろうし、それには人数も必要となってくる。

 そして、どこかの国が主導で大々的に魔物をつかった何らかの実験を行っているというわけでもなく、何の公表もせずにこっそりと各地で危険な魔物の巣をつくっていたということはその組織はロクなものではないだろうし、その目的もかなりの確率で善からぬことに決まっている。

 そう考えれば、基本的には他者と群れることを好しとせず悪事も嫌いなノエルがそんな組織に属しそんなことを行っているわけがない。


 というより、狙って魔物の巣をつくるということは上位種を含む魔物たちを大量にカード化してそのカードを人の立ち入らなそうな場所に運んでから戻している可能性が高いし、そんなことができそうで且つそんなことを仕出かしそうな組織といえばカードコレクターたちの集まる組織【カディル】くらいしか思いつかない。


《テッド、この魔物の巣騒動に【カディル】が関わっている可能性はどのくらいあると思う?》

『高くもないが、低くもないといったところではないか?』

《まぁ、そうだよな》


 テッドもその可能性は低くないと考えているようであるし、あくまでも一連の魔物の巣騒動が人為的に行われたものであり発見された魔物の巣のほとんどに何らかの同一組織が関与しているという前提があってのことではあるが、もしもその前提が正しかったとして本当に【カディル】が魔物の巣をつくっていたのだとしたならその目的はいったい何なのか。


 可能性の一つとして、俺やテッドを狙うための駒作りというのが考えられるが…………しかし、そのまえに。


「あ、やっと霧を抜けられたね! この勢いでパっとここも抜けちゃおう!」


 一気に開けた視界の先、日の高さと馬の様子を確認して元気よく宣言するフィナンシェ。


 俺としてもこの眼前に広がる毒々しい色の池や沼の点在する毒持ち魔物たちの縄張りをすぐに抜けるということには賛成だし、明日馬に乗ってその疲労を完全に残したままオークたちの巣に攻め込むよりかは今日中に馬に乗ってしまって一晩休んでからオークたちの巣に攻め込みたいという気持ちはある。

 いくらオークたちが周囲の岩を砕き集めまわっているとはいえ、毒持ち魔物たちの縄張りを抜けてすぐの岩場地帯ならまだオークの手も届いていないだろうという確信もある。


 というかそもそもこんな魔物の徘徊している地で安全に休めるわけもないし、休息をとるのであればこの縄張りを抜けることは必須。

 毒持ち魔物たちの縄張りを抜けてからロックブロックの岩場に着くまでにはほとんど時間もかからず距離もないとはいえ、オークたちの巣があるのはロックブロックの岩場の中でもかなり奥地であるし、フィナンシェが映像を確認してからたった三日やそこらしか経っていない今ならこっち側の岩場は安全。

 むしろ、日暮れまえのこの時間にここまで来てしまったからにはロックブロックの岩場まで行く以外に今日これから安息を望む方法はない。


 と、わかってはいるんだが。


《だがやはり、確実に気分が悪くなるとわかっていて馬に乗るというのはどうにも気が進まないな》


『つべこべ言わずさっさと乗れ』

「トール、もう準備できたよ! 日が沈んじゃうまえに早くここを越えちゃおう!」


「……わかった。今乗る」


 ……どうせムダだとは思うが、気分が悪くならないよう天に祈りでも捧げてみるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ