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一考の価値あり

 なんとなくテッドならそんなこともあるんじゃないかとは思っていたが、本当にあるのか。オークたちの行動の心当たり。


『厳密には、オークどもが奇妙な行動をとり始めたことへの心当たりではないがな』

《どういうことだ?》

『忘れたか? 孤児院でもよく言われていたことだぞ』


 孤児院で?

 よく言われていたことといえばいくつか思い当たるものはあるが、いったいどれのことだ?

 何かオークたちの行動の手がかりになりそうな言葉が孤児院で……。


 …………と、こんなことを考えている場合じゃないな。


《悪いがそろそろ霧を抜けそうだ。心当たりがあるなら早く教えてくれ》


 数歩進むごとに霧が晴れ、見通しが良くなっていく景色。

 霧を抜けたあとはすぐに馬に乗って会話もできない状態になってしまうことを考えると、フィナンシェと話せる時間は残りわずか。

 テッドにしてはやけにもったいぶった言い方をしているのが気になるが、何かあるなら今のうちに話して検討しておかないとまずい。


『わからないのならば仕方ない。失敗をしていたときによく言われていたあの言葉だ』

《ああ、あれか。原因のやつか》

『それだ』


 ――何かが起こったときには現在ではなく過去に目を向けなさい。


 誰かがイタズラをしたり失敗をしたりしたときによく言われたが、テッドが言っていたのはこの言葉のことだったか。


《しかしあれは、何かをしてしまったときにはやってしまったことを悔いるだけじゃなくそうなってしまった原因についてもしっかり考え反省しろという話だったよな? 今はオークたちが行動を始めた原因がわからないから困っているんだが……》


 チビたちや自分がやってしまったことならしっかりと会話をしたり思い出したりすればそうなってしまった原因に辿り着くこともできるが、オークたちがどうして岩を砕き運び始めたのかなんて記憶は俺にはないしオークたちと会話が成立するわけもない。

 自分がやったことでもなく、どうして岩を砕き運んでいるのか訊けるわけでもなく、現在判明している情報からその原因を推測することもできない。

 だから困っているというのに、テッドはそのことを理解していないのだろうか?


『そこではない。もう一歩想像を膨らませろ』

《もう一歩?》

『もっと過去に遡れと言っているのだ。どうしてオークどもがあんな場所にいるのか考えろ』


 ……テッドは何を言いたいんだ?

 というより、早く結論を教えてくれないと本当に霧を抜けてしまいそうだしこんな謎解きのようなことをしている場合ではないんだが。


《どうしてもなにも、そんなのあそこに巣があるからじゃ――》

『聞いていなかったのか? どうしてあんな場所に、と言ったのだ』

《それは聞いていたが。どうしてあんな場所に、か……》


 どうして、どうしてあんな場所に……どうして……どうしてあんな場所……。


《ん? あんな? どうしてあんな場所……? んん?》

『何か気づいたか?』

《いや、なんとなく……気づいたような、気づいてないような。何か違和感が……》


 どうして、どうしてあんな場所に。

 あんな場所…………あ。


《そうか、あんな場所か。たしかに、どうしてあんな場所にオークたちの巣があるんだ?》


 ロックブロックの岩場は濃霧の黒土地帯とその内側にある毒持ち魔物の縄張り、それとぐるっと内界を囲んでいるスライムの縄張りによって区切られた隔離地帯。

 地図上に半円を描くような形で描かれていた濃霧の黒土地帯の両端はスライムの縄張りにくっついていたし、その内側にある毒持ち魔物の縄張りもスライムの縄張りには接していなかったもののほとんど濃霧の黒土地帯に沿うような形で拡げられていた。

 ということはその二つの危険地帯を越えなければさらにその内側にあるロックブロックの岩場には辿り着けないわけで、しかも辿り着いたとしても待っているのは食べるモノの存在しない不毛地帯。

 草木のないあの岩場で食べるモノといえば毒持ち魔物か共食いくらいしか思い浮かばないが毒に耐性のあるオークなんて聞いたことがないし、共食いをしていたのであれば数は次第に減っていくはずだから前回の調査時点で大規模なオークの巣が発見されているなんて話は聞かされていない以上オークが以前からあの岩場に住み着いていたという可能性はほとんどゼロ。

 オークたちがいつロックブロックの岩場に来たのかは知らないが、あんな場所に巣をつくる意味もなければあんな場所で巣を維持できるわけもないだろうし、たまたま辿り着いた少数のオークが数を増やしてあの巣ができたということも考えにくい。


《つまり、そもそもどうしてオークたちがあんな場所にいるのか……》


 どうしてオークがあんな場所に大量に存在しているのか。

 もし目的があってあの場所にいるのであればその目的とはなんなのか。


 結局のところまた考えるべきことが増えただけで事態は何も進展していないような気もするが、もしもオークたちがあの場所にいる理由がわかればオークたちがとり始めた謎の行動の理由もわかるかもしれない。


《これは、一考の価値がありそうだな》


 とはいえ、フィナンシェやギルドもこのくらいの疑問はとっくに思いついているだろうしオークたちが何をエサとしているかなんてことは時限式映像記録装置から送られてくる映像で確認済みだろうが……。


 フィナンシェもなんでもいいからわかったことがあれば教えてくれって言ってたしな。

 とりあえず言うだけ言ってみるか。

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