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出発を急いだワケと一つの予感

「すまん、聞いてなかった。もう一度説明を頼む」


 話を聞いていなかったのかというフィナンシェからの質問にどう答えるべきか数秒悩んだ末の、苦渋の決断。


 謝罪すること自体は別になんともないが、フィナンシェが説明してくれていたのに聞いていなかったという罪悪感でまた胸が……。


「もう、しょうがないなぁ。今度は聞き逃さないように気をつけてね」


 しかもあっさり許してくれるところがさらに辛い……。

 今ばかりはフィナンシェの優しさが胸に刺さって心が痛い。


「まずは三日前私が宿を出たあとギルドに行って何を見聞きしたかなんだけど――」


 とはいえ、心が痛いからとまた話を聞き逃したら本末転倒。

 フィナンシェに対する罪悪感やなんかは一旦隅においておくとして、今度はしっかりとフィナンシェの話に耳を傾けておかなければ。






「――と、いうわけなんだけど……今度はちゃんと聞いてたよね?」


 一度聞き逃してしまっているという前例があるせいで不安そうに訊ねてくるフィナンシェからの確認の声。

 その気持ちもわからなくもないが、さすがにこの短時間に二度も聞き逃すなんてヘマはしない。


「ああ、バッチリだ」

「よかったぁ。それで、トールは今の話を聞いてどう思った? 何か気づいたこととかない?」


 気づいたこと、か。


「今のところは何も。いや、意見をまとめたいから少し考えさせてくれ」

「うん、わかった! 些細なことでもいいから何か気づいたら教えて!」


 今度こそ聞き逃すまいと余計なことは考えずに集中して聞いたフィナンシェの話。


 さっきの説明はどこまでが真実でどこからが憶測なのか、どこかおかしなところはなかったか。

 今一度、一からしっかりと思い返してみるか……。


「まずは三日前私が宿を出たあとギルドに行って何を見聞きしたかなんだけど、実はギルドに行ったらすぐにギルド長室に通されて、そこでまえに私たちが設置してきた時限式映像記録装置から送られてきたっていうロックブロックの岩場の映像を見せられて……」


 たしか始めはこんな感じだったか。

 とりあえず、ここまではまだ実際にあったことしか語られてないから真実だと断定できる。

 おかしなところもない。


「トールも知ってると思うけどあの時限式映像記録装置は記録した映像を毎日決められた時間にリカルドの街に向かって発信するように設定されてて、対になる時限式映像受信装置と同時に短時間だけ映像の送受信用魔力を放出することでこれまでは不可能だった長距離連絡を可能にしてるでしょ?」


 これに関しては全く知らなかったがフィナンシェが言っていたのだからそうなんだろう。

 送信用の科学魔法道具と受信用の科学魔法道具を同じ時間に短いあいだだけ起動し連動させることで放出する魔力の無駄を省き長距離間での使用も可能とした、といったところなのだろうか?

 たしかに、魔力の放出時間を正確に合わせるというのは時計が合って初めてできる芸当。

 それが時計の機巧を組み込んだ新しい映像記録装置の為せる業ということなんだろうな。


 まぁそんなことよりも、さも念のためとでもいったように始められた説明が予想以上に長く詳しかったことでフィナンシェが俺の記憶力についてどう思ってるのかがよくわかったわけだが……。

 しかも、実際憶えてなかった時点で情けなさしか浮かばないわけなんだが……。

 まぁこの際、俺の記憶力についてはどうでもいいか。

 問題となってくるのはこのあとの言葉。

 映像の受信時間が夕方前だったことと、フィナンシェが見てきた内容。


「私が見たのは三日前送られてきたばかりの最新の映像だったんだけど――」


 ――その映像ではオークが周囲の岩を砕いてはある方向へと運んでいた。

 ――そして、その方向にあるのは内界と外界を隔てるスライムの縄張りただ一つ。


「だから、ギルド長はオークたちが暴れているのはスライムをおびき寄せるためなんじゃないかって言って。もしそうだったら大変な事になっちゃうから私たちも急いでここに来た……と、いうわけなんだけど……」


 前日までは確認できなかった奇妙な行動とまるでスライムに対して何かをしているかのような動き。

 オークたちがその行動をとり始めたのは四日前の映像が送られてきたあと、三日前に映像が送られてくるまでのあいだ。

 三日前に送られてきた一日分の映像では四日前の夜まではオークたちに変わった様子はなく夜が明けたら行動を始めていたということだから、夜のうちに何かがあったことは間違いない。

 時限式映像記録装置はオークの巣全体が映るように設置していて、逆に言えばオークの巣の外の様子は全く記録されていないからオークたちがスライムの縄張りの方へと岩を運んでいったことやスライムを誘き寄せようとしているという話は記録されていた映像から推測されたフィナンシェやギルド側の憶測でしかない。

 しかしそうはいっても、あんな場所で岩を砕いて運んでまさか巣を拡げているというわけでもないだろうし、オークの巣の荒れ具合から予想されたオークたちの行動開始時間は夜更け直後ということだったから朝になってもオークたちが生存していた時点でオークたちがスライムに襲われているという可能性は極めて低い。

 それなのにどうしてオークたちはそんな奇行を行っていたのか。


 …………ダメだな。

 フィナンシェの説明を思い返してわかっている情報を並べてはみたが俺の頭じゃさっぱり何も思いつかない。


《テッド、オークたちが奇妙な行動をとり始めた理由に何か心当たりはないか?》


 こういう頭を使うことに関しては俺よりもテッドの方が上だしな。

 あるいは種族は違えど同じ魔物であるテッドなら何か気づくことも――


『一つあるぞ』


 ――とは思ったが、本当にあるのか、心当たり。


 まぁ、テッドならそんなこともあるんじゃないかという予感はしていたか……。

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