罪悪感で胸いっぱい
ここまで来てまだ確認していなかった、ここに来た原因。
「フィナンシェ、オークたちはいったいどんなふうに暴れているんだ?」
暴れているオークたちを俺たちで止めるという目的は聞いているが、具体的にオークはどのように暴れていて、俺たちは何をすればいいのか。
よく考えれば、俺は一番大切な部分をまだ聞いていない。
「あ、そっか。トールにはまだちゃんと説明してなかったね」
ちゃんと説明してなかったというか……。
正確には、俺がずっと馬酔いで倒れていたせいで詳しく説明できる機会がなかったからな。
なんだかフィナンシェが説明を怠っていたような言い方をしていたが、フィナンシェに落ち度はない。
今回重要な情報が共有されていない原因と責任はどう考えてもすべて俺にある。
「もう少し早く聞いておくべきだったんだが、すまん。すっかり失念していた」
「ううん、私も気付かなかったし。トールだけの責任じゃないよ。だから二人とも悪かったってことで、この話はおしまい! 説明を始めちゃうね」
いや、悪かったのは俺だけだと思うが……まぁ、目的地を目前にして不毛な言い合いをするわけにもいかないしな。
フィナンシェがこれでおしまいと言うのならそういうことにしておくべきか。
「そうだな、頼む」
「うん、任せて! まずは今回の依頼の目的からもう一度おさらいするとね、目的はズバリ! オークの鎮圧! たぶんオークを百体以上倒すことになると思うんだけど、状況によっては私がトールたちから離れてトールとテッドには本気を出してもらうなんてことになるかもしれないから、そうなったときはお願いするね」
「え?」
「あ、もしオークを倒さずに止められる方法とか効率良く依頼を達成する作戦とか思いついたら遠慮せずバンバン教えて! 私もいろいろ考えてみたんだけどいい考えがなかなか浮かばなくて……一応、オークを統率してる上位種は最後に倒そうと思ってるんだけど、このままだと手当たり次第にオークを倒していくことになっちゃうからっ!」
……なんというか、アレだな。
信頼が痛いという感じだろうか?
フィナンシェからの信頼が厚すぎて、胸が痛い。
《やっぱり、フィナンシェには俺たちの本当の実力を教えといた方がいいだろうか?》
もしこのまま進んで俺とテッドに本気を出すように言われてもフィナンシェの想像しているような凄い力は俺たちには秘められていないし、今回が大丈夫でも次回次々回がまたあるかもしれない。
そんなとき想像の中にしか存在しない俺たちの本気をアテにされても困るし、状況次第では取り返しのつかないことにもなりかねない。
本当のことを伝えるなら、何かが起こるまえ。
フィナンシェがカード化してしまった際の情報漏洩を危惧して伝えることを避けていたが、フィナンシェがカード化するようなことはそうそうないだろうということももう十分わかっている。
ここなら他に誰もいないし、伝えるなら今かもしれない……。
『お前が決めろ。我に意見を求めるな』
《それは、テッドの声は俺以外には聞こえないし最終的な判断は俺がすることになるが、意見を聞くくらい――》
『何度も言わせるな。お前が決めろ』
……本当ならテッドの意見も聞いてからにしたかったんだが、ここまで拒否してくるなら仕方ないか。
《わかった。俺が言いたくなったら言うことにする》
言いたくなったら、ではなく、言っても大丈夫だと判断できたらと言った方が正しいかもしれないが……。
というか、フィナンシェもフィナンシェでどうして俺たちの本当の実力に気づかないんだ?
休息日以外ほとんど毎日俺と模擬戦をしているはずなのに。
テッドはともかくとして、俺の実力に対しては多少の疑念を持ってもおかしくはないと思うんだが……この世界の人間にとってはそれだけスライムと一緒にいることの衝撃が大きいのか?
俺がテッド一緒にいるから、俺の実力も疑わない。
それともやはり俺たちのことを信頼しているから、俺がフィナンシェに嘘を言うはずがないと疑うこともしないのか?
……なんにせよ、フィナンシェを騙しているという罪悪感で胸が痛いな。
自業自得ではあるし、さっさと伝えてしまえば楽にはなれるんだが…………。
「――だからオークたちが暴れているのはスライムをおびき寄せるためなんじゃないかって……って、トール聞いてる?」
出口が近いのか薄くなってきた霧の中、いつのまにか進んでいた説明と霧が薄くなったことでこちらの様子に気づいたのかそんなことを訊いてくるフィナンシェの声。
《テッド、この質問にはどう答え――》
『知らん。お前が決めろ』
こんなときはテッドにと思い訊ねるもすげなく返される寄る辺のない返事。
…………………………まずいな。何も聞いてなかった。