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ここにいる理由

 まさか月曜から徹夜することになるとは……。

 突然のスライムの襲来。


 スライムが接近してきていることを事前に知っていた俺とフィナンシェ以外の者の目には、目の前の光景がそのように映っていることだろう。


 怯えている筋肉ダルマたちを見てそう思う。


 スライムに怯えているところ悪いが、こうなってしまった以上は筋肉ダルマたちにもスライムを止める手伝いか、それが無理でも森付近の村の住人への避難勧告をお願いしたい。

 そのためにまずは怯えているフィナンシェたちを落ち着かせてその後に俺やフィナンシェがここに来た理由の説明を、と思ったのだがその必要はなかった。


 七人がある程度落ち着いてきたところで俺、テッド、フィナンシェがスライムに関する依頼を受けてここに来たことを説明しようとしたら話を遮られた。

 話を遮ったのは筋肉ダルマとカルロス。


 筋肉ダルマはこう言った。


「俺たちのパーティがここに来たのはお前等のサポートをするためだ。状況は把握してる。手伝えることがあるなら何でも言ってくれ」


 続いてカルロスが言った。


「スライム接近の報告をしたのもトールたちに依頼を出したのも俺たちだ。俺とケインにも説明はいらねぇ」


 俺は言った。


「もう少し詳しく説明してくれ」


 その後は筋肉ダルマやカルロスたちがどうしてここにいるのかを聞くことになった。


 先に説明してくれたのは筋肉ダルマ。


「四日前の夕方、いつもなら依頼完了報告に来るはずの時間になってもお前等が来ねえからおかしいと思ってな。周囲を探ってみたらお前等の近くでこそこそしていたはずのそこの無愛想な奴もいなくなってやがったからこりゃ何かあったと思ってギルドでお前等の行先を調べて追いかけて来たんだ」


 途中、ケインの方を睨みながらも事情を説明してくれた筋肉ダルマ。

 クライヴからの補足説明では、まずギルド職員に俺の居場所を知らないかを尋ね、街の外に依頼に行ったという情報は得られたがどこに行ったか等は教えてくれなかったためギルド長を詰問。

 時間はかかったがギルド長からなんとか行先と依頼内容を聞き出した筋肉ダルマは俺たちのサポートをするという内容の依頼を発行してもらうことでギルドから馬を借り、急いで準備をして俺たちを追いかけ、追いついたところで俺たちが襲われているのを目にして戦闘に加わってくれたということだ。。

 ギルド長を詰問した際に、俺がスライムを連れていることやスライムが接近してきているという情報をパーティメンバーに教える許可をもらい、しっかりと説明を受けたうえでクライヴたちは筋肉ダルマについてきたという情報も教えてもらった。


 要するに、俺たちのことを心配して追いかけてきてくれたというわけだ。

 ありがたい。


 筋肉ダルマのパーティはギルドから信頼されていて戦闘能力も高いということだったから、きっと何かの役に立つと思ってギルド長がこちらに寄越してくれたのだろう。

 クライヴたちも筋肉ダルマの独断でこんな危険な場所に連れてこられたというわけではないみたいだし遠慮なく手伝ってもらおう。

 そう考えたところでカルロスたちが何故ここにいるのかという説明が始まった。


「まず、俺たちの正体を明かす。これを見てくれ」


 真剣な顔でカルロスが取り出したのは、両翼のついた盾が象られたペンダント。

 それを見て、俺以外の全員が息をのんだ。


「これは……領主様んとこの紋章じゃねえか。ってことはあんたら領主様の使いの者か?」


 声を上げたのはクライヴ。

 今もカルロスの首から提げられているあのペンダントはカルロスたちが領主の関係者であることを示すものらしい。

 ケインも同じものを首に提げていた。


「そうだ。俺たちは領主様からの命を受けここにやって来た。今は時間もないから詳しい名乗りや説明は省くが、俺たちは予言者と呼ばれる未来を見ることのできるバアさんからスライムがリカルドの街に接近する未来が見えたという情報を得て、それを止めるためにリカルドの街にやって来た。街に着いてからはスライムの気を引く手段や対抗する手段の準備を行いながらスライムの様子を観察するという日々を送っていたんだが、そこでスライムを連れた少年の話を耳にしてな。なんとか協力を願えないかと接近してみた結果が今の状況だ」


 カルロスとケインはこのカナタリ領の領主がスライムをなんとかするために送ってきた精鋭だった。

 しかし、二人は交渉事は苦手。

 まさかスライムを連れた少年が街中に現れるなんて予想もしておらず、かといってスライムをなんとかしたいこの状況でその少年とスライムに協力を願わないわけにはいかず、なんとかして俺とテッドを仲間に引き入れたいと思った二人は少ない知恵を絞って交渉に当たろうとした。

 そこで問題となったのが俺の実力と人柄がわからなかったこと。


 二人は、少年はスライムを連れてはいるが強くない可能性もあると考えた。

 実力の一端を見るだけでいいなら実力のたしかな者と戦うところを見るだけでもいいが、少年が実力者と戦うことになる可能性は低く、また、カード化させられる可能性もあると知った状態で誰かに少年と戦うよう頼むのは気が引けた。

 自分たちが戦い、実力を測るという考えはなかった。

 任務遂行のためには怪我を負うわけにはいかず、極秘任務を受けている身で目立つようなことはしたくなかった。

 少年に本気を見せてほしいと頼むことも考えたが、いきなりそのようなことを頼むのは怪しいという理由で却下。


 人柄に関してはそこまで心配していなかったらしい。

 二人はフィナンシェに関する情報を持っていた。

 極秘任務とはいってもスライム接近という未曾有の出来事。

 当然、町の幹部連中や冒険者ギルド長には話を通している。

 その過程で、任務を手伝ってもらえそうな者たちの情報も集めていた。

 収集した情報の中にはフィナンシェに関する情報も含まれてた。

 そして、フィナンシェに関する情報の中に「人を見る眼がずば抜けている」という情報があった。

 フィナンシェの人を見る眼は相当信頼できる。

 それならそのフィナンシェと一緒にいた俺は悪い人物ではない可能性が高い。

 そう結論づけた。


 とはいっても、実力と人柄はしっかりと見極めたい。

 素性を明かすことができれば一番手っ取り早いのだが、極秘任務ゆえに人柄のわからない者に自分たちの素性を明かすわけにもいかない。


 そう悩んでいたところで筋肉ダルマを発見、筋肉ダルマがフィナンシェを恨んでいることを情報として掴んでいた二人は俺がフィナンシェと一緒にいたことを利用して俺と筋肉ダルマを戦わせ、俺の実力や人柄を確かめようとした。

 この時の行動が俺や筋肉ダルマに不信感を抱かせる原因となってしまったが、カルロスたちはあのときはそれが一番いい方法だと思ったと語っていた。


 その後は、スライムに効果のあるかもしれない薬を作るのに必要な薬草の採取依頼を俺たちが受けたのをこれ幸いとし、その依頼をきっかけに俺たちに接触を図ってきた。


 実は、ダンジョンに薬草を採りに行った時にも俺たちのことを観察していたらしい。

 二人が近づくたびに俺が二人の方を向いたせいで直接俺の戦闘を見ることはできなかったが、二人の気配に気づく能力と、フィナンシェとスライムが一緒だったとはいえ二人と一匹でダンジョン奥地から無傷で生還した事実からその実力の高さは窺えたと言っていた。

 カルロスとケインが近づくたびに俺が二人の方を向いた、と言われたところで「ん?」と首を傾げたが、よく考えてみると俺たちが薬草を採りに行った日のダンジョン奥地には人がたくさんいた。

 テッドが人の気配を報告してくるたびに「ダンジョン奥地に訪れる人はほとんどいないという話だったけどそんなことないみたいだな」なんて考えながら気配があると報告された方向に視線を向けていた。

 たくさんいると思われた人の気配はすべてカルロスとケインだったということだろう。

 俺がなんとなく視線を送っていたのを二人は自分たちの存在がバレていると勘違いし、その勘違いのために俺たちの戦闘している姿を確認できる距離まで近づけなかった。

 実際にはダンジョン奥地では戦闘行為を一切していないが二人はそれを知らないために無傷でダンジョンを出た俺たちを見て相当な実力者だと勘違いしてしまったのだろう。


 薬草採取で俺たちの実力を確認した二人は俺たちと直接会って話してみて、それで人柄も問題なさそうならスライムの進行を止める手伝いを頼もうとしていたらしい。

 話した結果、協力してもらおうということになったはいいがそこで筋肉ダルマが登場し言い争いとなり、交渉事に慣れていない二人はまた別の日に話をした方がいいと判断してしまいその場を立ち去った。


 しかし、その夜に俺たちはカードコレクター配下の二人組に襲われてしまいカルロスたちへの警戒が強まってしまった。

 襲撃者が一人カード化してしまったのもいけなかった。


 俺たちと話した翌日から、カルロスはスライムの現在位置を確認するため一旦街を離れてしまった。

 ケインよりもカルロスの方が相手の気配を探ることと自身の気配を隠すことは得意だった。

 そのため、スライムの位置を確認するのはカルロスと決まっていた。

 スライムの移動速度は遅いため、居場所の確認は十数日に一度でよかった。

 しかし、スライムの居場所はまだ街から遠く、往復に十日近くかかる。

 強い魔物の多い辺境まで足を運ばなければいけないという理由から、生半可な実力の者をスライム観察の任につけることもできず、カルロスが直接確認しに行くことになっていた。

 カルロスが街から離れているあいだはケインが一人で街やその周辺でできることを進めていくという手筈だった。

 俺たちとの交渉もケイン一人で行うことになったのだがそれがいけなかった。

 

 カルロスたちの任務はスライムのリカルドの街接近の阻止。

 そのためにはスライムの居場所を把握しておかなければいけない。

 スライムの居場所を確認しに行くのは三度目だったが、スライムの進行が予想よりも速まっている可能性もあるため出発の予定日をズラすことはできなかった。

 自分以上に交渉事が苦手なケインを一人残していくことに不安はあったが俺たちに協力を頼むことはすでに決定しており、領主様からの使いであることも明かしていいと決めていた。

 身分を明かせばすんなりと交渉できるだろうと考え街を離れたカルロスだったがケイン一人が俺たちに近づこうとしていたことが余計に俺たちの不信感を煽ることとなってしまった。


 途中で口をはさんできたクライヴの予想だと、俺たちとカルロスが冒険者ギルドで顔を合わせた日、筋肉ダルマのデカい声のせいで俺たちとカルロスたちが揉めていたことがカードコレクターに伝わった。

 その情報を得たカードコレクターはいざというときに襲った犯人をカルロスとケインだと勘違いさせるために二人組をつかって俺たちを襲撃したんじゃないかということだった。

 たしかに、あの二人組の体格はカルロスとケインに似ていたが、あくまでもこれはクライヴの予想だ。

 単純に寝首を掻くだけなら二人で十分だと考えただけかもしれない。


 しかし、結果的に俺たちは襲撃者はカルロスとケインかもしれないと考えてしまった。

 その結果、俺たちにスライム接近のことを相談しようとしていただけのケインを疑い、近づかせなかった。


 スライムの居場所を確認して戻ってきたカルロスは、ケインから俺たちに事情を説明できていないことと俺たちから警戒されていることを聞き、直接接触することを諦めた。

 ギルドからの依頼としてギルド長が俺たちを説得するように働きかけ、俺たちが依頼を受けたと聞いたときは心底安堵したそうだ。


 本当は一緒に行動し作戦を立てられればよかったが、なぜか警戒されているためにそれは断念。

 俺たちがとってきた薬草から作られる薬の完成を待ってから街を出た二人は、森の中で俺たちが何者かと戦っていることを確認し、他に敵はいないかと気配を探ったところひょろ長を見つけ今に至るらしい。


 よく思い出してみると、はじめて会ったときカルロスたちは「リカルドの街の命運を左右する依頼」を俺たちに頼もうとしていた。

 つまり、俺が気付いていなかっただけで、カルロスたちの行動は最初から一貫していたのだ。

 俺たちが邪推してしまっていただけだった。


 俺たちが依頼を受けてここに来ていることを説明しようとしたら逆に筋肉ダルマやカルロスたちがどうしてここにいるのかを聞くことになってしまったが、そのおかげでカルロスとケインが敵でないことが判明した。


 そもそも、少し考えればわかることだった。


 ここはリカルドの街周辺ではない。

 リカルドの街から馬を走らせて数日の距離にある場所。

 この世界の馬は速く、体力もある。

 リカルドの街からここまでは徒歩で数十日の距離だ。

 しかもこの森は滅多に人が立ち入らないと聞いている。

 俺たちが馬を預けた森近くの村に住む者でさえたまに森の入口付近に立ち入る程度で、森の奥、それも森の出口が見えるような場所に顔見知りが偶然訪れるなんてありえない。

 ということは、筋肉ダルマやカルロスたちは俺たちと同じ目的でここに来たと考えるのが妥当。

 カードコレクターもここに来てはいたが、あれは俺たちを追いかけてきたか、あるいはどこかで俺たちの行先を聞いて先回りしていたのだろう。


 筋肉ダルマはまだ二人を疑っているような顔をしているが、話を聞く限りじゃ俺たちがカルロスたちを敵だと勘違いすることになった原因の半分くらいはこいつのせいだ。

 そのことをわかってはいるのか、筋肉ダルマもカルロスたちと一緒に行動することは認めてくれた。

 俺たちはそれぞれが用意してきたスライム対策を教え合い、作戦を立て、そして、まだ数キロメートル以上離れた位置にいるスライムに向き直った。


 正面に見えるは世界最強生物スライム一匹。

 対するは人間八人と暫定世界最弱生物のテッド。


 夕日が沈み、夜になる。

 地平線に残っていた茜色が消え去り、世界に闇が訪れたことを合図に、戦いの火蓋は切られた。

 カルロスたちの話はカルロスかケインの一人称視点で展開した方が面白くなるんじゃないか、とか色々考えていたら執筆始めるのが遅くなりました。

 本当は今回スライム(テッドじゃない方)に対しアクションを起こしまくる予定だったんですが、またいつもの急な予定変更によってこうなりました。

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