出発から二日、二度目の諦め
宿を出てギルドに向かえば用意されていた馬と最低限の食糧や荷物。
それらをギルドから受け取り、馬に跨ればすぐに出発。
「それじゃあお前達、頼んだぞ」
「フィナンシェさん、トールさん、お気をつけて」
馬の横に待機していたギルド長と宿から一緒にギルドまでやってきたコリスさんに見送られ目指すはオークたちが暴れているというロックブロックの岩場。
逼迫した事態。
大問題が起こっていることしかわからない状況の中、俺やテッドに何ができるのか。ノエルがいなくてもこの依頼を達成することができるのかという疑問も馬が走り出せばどこへやら。
「はい! 行ってきます!」
わずかに真剣味を帯びたフィナンシェの元気な声を合図に走り出した馬はあっというまに街を離れ、一寸先は闇。
未来はおろか手元すら見えない暗闇の中をフィナンシェの手綱さばきだけを頼りに馬は疾走していき、意識は段々と、しかし急速に薄くなっていき――
「ノエルちゃん、今どこにいるんだろう? ちゃんとごはん食べてるかなあ?」
「……ノエルのことだから、その辺は心配ないんじゃないか?」
気がつけば二日の旅程を終え辿り着いていたロックブロックの岩場前最後の町、最後の宿。
まだ気分が優れないなか、フィナンシェの質問に答える声も重く。
『この朝食はそこそこの出来だな』
《……そうだな》
『反応が鈍いな。食べるモノも食べねば力も出ないぞ』
直接頭に届くテッドからの念話すらどこか遠く聞こえるような気がするほどの絶不調。
「この朝食を食べ終わればまた出発か……」
「今回はノエルちゃんがいないから前に来たときよりも少し時間がかかるかもね! 気合を入れていかないと!」
この先の旅路と朝食後すぐ馬での移動が開始されることを思えば気分が良くなる可能性すら一分もなく……。
フィナンシェはどうしてこうも明るく張り切っていられるのか。
この先にある一つの山と二つの危険地帯。
山の方は浮遊魔術がないぶん前回よりも越えるのに時間はかかるだろうがただそれだけ。
馬に乗る時間が増えることは苦痛だが危険はほとんどないからまだ耐えられる。
しかし、そのあとに待ち受ける二ヶ所の危険地帯は浮遊魔術や結界魔術もなければ戦力がフィナンシェ一人と辛うじてテッドから三メートル以内のテッドの魔力くらいしかない現状、苦戦は必至。
片方は霧が濃く足元の脆い地形的要因の強い危険地帯だからテッドの感知とフィナンシェの目があればなんとかなるかもしれないが、もう片方の毒持ち魔物たちの縄張りは一歩間違えば全滅もありえるし、気分も最悪なぶん気が乗らないにもほどがある。
かといって、ロックブロックの岩場に向かうのにそれ以外の道があるわけでもないし……。
《なんとかして気分を前向きにする方法はないか?》
この先に進むことは避けられないのだから先へ行くのに気分が乗らないなどと言っている場合ではない。
低いモチベーションのまま進めばそれが原因で死んでしまう可能性すらあるのだから無理やりにでも気分を上向かせる方法があるのなら是非ともそれを実践したい。いや、実践しなければいけない。
そう、思うは易く、見つけるは難し。
『そんなもの簡単ではないか。いつものように眠っていればすぐ着くぞ』
テッドに訊いたのがバカだったのか。
目的地に無事に辿り着くため、道中何か力になるために馬の上でも意識を失わずに済む方法を訊いたというのに、返ってきた答えは眠っていればそのうち着くのではないかというなんとも他人任せな答え。
要するに、フィナンシェに任せておけば全て上手くいくということなのかもしれないが……。
「ごちそうさまでした! あ、トールも食べ終わってるね! じゃあもう出発しちゃおう!」
さすがにフィナンシェに任せきりというのはフィナンシェの負担が大きすぎる――そう考えた瞬間、そんなことを叫ぶフィナンシェの声。
「え、食べ終わって? ……あ、本当だ」
見れば、いつのまに食べ終わっていたのか目の前にある皿の上はたしかに空。
《まだこの先に進む心構えはできていないんだが……》
『だから寝ていればよいと言っているではないか』
「私、先に馬小屋に行って待ってるね!」
危険地帯をどう超えるかはまだ定まってないがフィナンシェも行ってしまったことだし、もう良い方向になるようになると信じるしかないのだろう……。