パートナーへの態度~次の行き先
テッドのせいで倒れベッドに寝かされているコリスさんと、コリスさんが寝てる間にテッドが食べ尽くしてしまったコリスさんの買ってきた料理の数々。
まさかテッドがテーブルの上の食べ物を、それも他人が買ってきた物まですべて食べ尽くしてからかばんに戻るとは……コリスさんが起きたらなんて説明すればいいのか。
というより、コリスさんが倒れてから結構な時間が経っているような気がするがコリスさんは本当に大丈夫なんだろうな?
テッドが見た限りではコリスさんの身体に何の異常も見つからなかったらしいが、フィナンシェもコリスさんが倒れたことをギルドに報告に行ったまま帰ってこないし、もし何か問題が起きていたとしても俺では対処できないぞ。
それに、今日は早めに街に戻ってきたからまだ日もあるとはいえ、そろそろ暗くなり始める頃だしな。
《テッド、コリスさんの様子は?》
『寝息は安定している。もうすぐ目覚めるのではないか?』
《……そうか》
コリスさんもギルド受付嬢。
夜遅くまで仕事をしてから帰ることもあるだろうし暗くなったからどうこうということもないだろうが……コリスさんが倒れてこんな時間まで寝ることになったのはテッドのせいだしな。
一応、すぐにも外出できるよう準備だけはしておくか。
『どこか出かけるのか?』
《出かけるかはまだわからないが、コリスさんを家まで送り届けることになるかもしれないから一応、な》
『なんだ。準備だけか』
《準備だけってお前な。念のため言っておくが、こんなことになったのはお前のせいだからな。もっとこの世界での自分の立ち位置を自覚してくれ》
『悪かったとは思っている。だから、そこで寝ている娘にもお前から詫びを入れておくよう頼んだではないか』
《それはたしかに、謝罪の代行を頼まれはしたが……》
コリスさんにはまだ謝ってもいなれば当然謝罪を受け入れてもらえたわけでもない。
なのにどうしてテッドはこうも強気な姿勢でいられるのか。
長く俺と居るせいか普段の言動は人間の言動と変わりないし、スライムだからそんな考え方になっているというわけでもないと思うんだが……。
《とにかく、迷惑をかけた相手に謝罪をするのは当然だ。孤児院でも毎日のように聞かされ続けてきただろ》
『待て。なぜ我が責められているのだ?』
《それはお前が――》
『我が悪いと感じているのはそこの娘に対してだけだ。お前にまで神妙な態度で接する必要はないだろう』
《いや、現在進行形で俺にも迷惑をかけているだろ》
コリスさんの心配やコリスさんが起きたあとの謝罪や対応やら。
テッドがかばんから出てきてコリスさんを気絶させてしまったりコリスさんの買ってきたものを食べてしまったりしたせいでどれだけの心労がふりかかってきていることか……。
『パートナーとはそういうものだ』
《都合のいいことを言うな。パートナーでも許容できることとできないことはあるぞ》
俺の方も今日の依頼中はテッドに助けられたとはいえ、それとこれとは話が別。
パートナーということを理由になんでもかんでも許されると思われたらこっちはたまったもんじゃない。
とはいっても――
『お前ならこのくらいは許容できるはずだ』
《そんな言葉で誤魔化されると思っているのか?》
『大丈夫だ。我はお前を信じている』
《いやそんな言葉で、って》
テッドに対してこんなことを言っても、もういまさらか。
「はぁ~……」
六年前、テッドと従魔契約を結んで以降もう何度こんなことがあったか。
頭が諦めた途端、口から出てきたのは大きなため息。
まぁわかってはいたが、俺に対しても少しは申し訳ないという気持ちをもってほしい……そんな些細な望みすら、テッド相手では叶うことはなさそうだな。
《俺への態度はもういい。そんなことより、フィナンシェはどうしたんだ? もう一時間くらいは経つと思うんだが、まさか何か――》
『いや、フィナンシェならすぐに』
「あれ、ここは……? トールさん?」
《――待て。これは何の音だ?》
人魔界にいた頃を含め何度目になるかもわからないテッドの意識改革を諦めフィナンシェを心配し始めた矢先、目が覚めたのか聞こえてきたコリスさんのものらしき声とテッドからの返事。
しかし、それらを遮り耳に届いたのは――
「トール、コリスさんが私たちのところに来た理由がわかったよ! 今すぐロックブロックの岩場に向かって出発しよう!!」
階段を駆け上がり勢いよく扉を開けながら部屋に飛び込んできたフィナンシェの、元気な声。
「…………とりあえず一度、俺にもわかるように説明してくれ」
フィナンシェがギルドで何を聞いてきたのかはわからないが、どうしてロックブロックの岩場に向かわなければならないのか、ノエルがいないいま遠出をするということは地獄の馬旅を覚悟しなくてはいけないのではないか……。
というより、今すぐというのはその……今これからということだろうか?