増えた品々の真実
《なぁテッド、購入した品……増えてないか?》
テーブルの上に置かれた料理の数々。
薄っすらと聞こえていた「トールたちがこんなに買ってくるなんてめずらしいね?」という声。
テッドは物を購入することができないからこれらを購入しここまで運んできたのは俺かフィナンシェのどちらかということになるが、さっき聞こえてきたフィナンシェの発言を考えればこれらを買ってきたのは俺ということになる。
だが、こんなにたくさん買った覚えもこんなにたくさんの品をここまで持ってきた覚えも俺にはないんだが……もしかして、自分が買った物の数や持ち運んでいる物の重量すらわからないほどの放心状態にでもなっていたのか?
今日の魔物との戦闘での大失態を後悔したり反省したり恥じたり情けなく思ったりしながら歩いていたような気もするから、ありえない話ではないな。
『増えてないぞ』
あるいはテッドには増えていないように見えるみたいだからこれらは俺にしか見えない幻か……いや、フィナンシェにも見えているみたいだから幻の可能性は低いか。
そして、幻ではなく、増えてもいない。
ということはやはりこれらは突然現れた正体不明の品というわけではなく、無意識のうちに購入し俺がこの手でここまで運んできた品々ということなのだろう…………と、いうわけでもなさそうだな。
《念のため訊くがテッド、もしかしてここに並んでいる食べ物はそこで眠っているコリスさんが持ってきた物か?》
まさか俺とテッドとフィナンシェ以外の者が部屋の中にいるとは思わなかったから気づかなかったがよく見るともう一人、冒険者ギルド受付嬢のコリスさんがフィナンシェのベッドの上で寝ているし、これらの品はコリスさんが持ってきた物だとすれば辻褄は合う。
『気づいていなかったのか? サラダを買う少し前から我々についてきていたぞ』
《やっぱりそうか。しかし、コリスさんがなぜここに?》
というより、なぜベッドの上に……って、そうか!
《テッド、早くかばんに戻れ! コリスさんが弱ってる!!》
この状況でコリスさんがベッドの上にいる理由はどう考えてもテッドに近づきすぎたことが原因。
俺たちと一緒に宿まで来たということなのになせかこのタイミングでベッドを借りているということはテーブルの上にいるテッドの魔力に当てられ倒れてしまったということ以外に考えられない……というかそれ以前に、コリスさんがいるのがわかっていてどうしてかばんの外に出て呑気に飯を食っているんだテッドは。
宿に入ったから気が緩んだのか?
『そういえばそうだったな。すまん。忘れていた』
いや、ただ単に自分の魔力が有害であることを忘れていただけか。
そんな重要なことうっかり忘れないでほしいんだが……今はテッドのことよりもコリスさんの体調の方が優先だな。あまり悪くないといいんだが。
「フィナンシェ、すまない。テッドのせいで迷惑をかけた。フィナンシェがコリスさんを介抱してくれたんだよな? それで、コリスさんの様子は……?」
「ううん、迷惑ってほどのことはされてないよ? コリスさんも少し休めば元気になると思う」
なるほど。
テッドのせいだしまだ心配ではあるが、ひとまずは大丈夫といったところか。
「そうか。それはよかった」
しかし、コリスさんは何をしにここに来たんだ?
テッドが言うにはかなり前から俺やテッドと一緒に行動していたみたいだが。
もしかして、フィナンシェなら何か事情を聞いて……。
「ところでトール、コリスさんはどうしてトールたちと一緒に?」
……フィナンシェも何も聞いていないようだし、これはコリスさんが目覚めるのを待つしかないか。