再・パーティ脱退?
結局、あの石碑と文字はいつ誰が残したモノだったのか。
「あ、トールとテッドいた!」
「なにハグレてんのよアンタたち。依頼はちゃんと進めてたんでしょうね?」
石碑からある程度離れたところでフィナンシェとノエルの二人とは簡単に再会でき、しかしなぜか石碑のある場所へと続いていたはずの道はいつのまにか消えていて……。
テッドの話を聞きながら見落としのないよう精一杯気をつけて作成した地図も役に立つことはなく、フィナンシェやノエルを石碑のもとへと連れていくこともできず……。
「今回はこんなものかしらね。さ、帰るわよ」
「帰ったらお腹いっぱい、おいしいもの食べようね!」
四日間に及ぶダンジョン探索はあっというまに終わりを告げ、石碑という謎を残したまま帰ることとなったリカルドの街。
「コイツが見たのが本当にユースファリの遺した石碑なら、それもありえると思うわ」
「そうだな。その証言を否定するには、ユースファリの実力が高すぎる。もしユースファリ・マ・ダッドが物語で語られるような魔術をつかえたってんならお前達だけが呼び出されたってのも考えられる話かもしれねぇな」
念のためギルド長に報告することになったユースファリが遺したかもしれない石碑については、ノエルとギルド長からも本物かもしれないという言葉をもらい。
報告の途中で確認した映像記録装置の映像には件の石碑そのものが映っていなかったものの、石碑を見たという話が嘘だと断定されることもなく。
ギルド長への報告から一夜明け、朝。宿屋の一室。
ベッドの横で装備の点検をしつつ目に入ってくるのは、ベッドに腰かけ何事かを呟いているノエルの姿。
ダンジョン内で再会した直後、ユースファリの名を聞いただけで興奮し詰め寄ってきたノエルも現在はすっかりと落ち着きを取り戻し、
「数百年経っても魔術が消えないということは周囲の魔力を吸収する術式でも組んでいると考えた方がいいわよね。けど、魔術の永続発動については何百年も研究が進められているのにいまだに成功例の一つも認められていない分野。ユースファリ・マ・ダッドはどこまで魔術の神髄を究めていたのかしら……」
落ち着きを……。
「それ以前にどうして石碑に導かれたのがアンタなのよ。魔法でも魔術でもアタシの方が実力も知識も上のはずよね? それなのにどうしてアタシじゃなくアンタが……! いいえ、きっとアンタが偶然迷い込んじゃっただけで特定の人物だけを誘導する魔術なんて初めからなかったに決まってるわ。そうよ。アンタが石碑に辿り着いたのは偶然! 絶対に偶然にきまっているわ!」
落ち着きを、取りもど……。
「アタシがアンタに劣っているなんてことは絶対にないわよ! ……けど、コイツじゃなくてスライムの魔力に反応して発動したということは考えられるわね。スライム……魔力……誘導魔術……やっぱり、魔力の質や強さで選別をしているのかしら? でもそれなら、アタシは何かが足りていなかったということよね? 他にも何か条件が……? わからないけど、ちょっと自分を鍛え直してくるわ! 三十日以内には帰ると思うけど、それまではアタシ抜きで頑張りなさい!!」
落ち着きを……取り戻し…………。
ダンジョン探索三日目の中盤以降は随分と鳴りを潜め落ち着いていたように見えたのに昨日の報告がきっかけで再発してしまったのか、腰かけていたベッドから素早く立ち上がり颯爽と部屋を飛び出していったノエルの姿を見送り、あとに残るはノエルが去った静けさと、パタンと扉の閉まる小さな音一つ。
「ノエルちゃん、行っちゃったね。明日からの依頼、どうしよっか?」
「……どうするもなにも、しばらく帰ってこないようなことを言ってたしノエル抜きで普通に依頼をこなせばいいんじゃないか?」
ノエルが去って少ししてから話しかけてきたフィナンシェの言葉にも生返事しかできず。
呆然というほどでもないがきっぱりと意見を言える状態にもなく。
『腹が減った。そろそろ朝食の時間ではないか?』
……ノエルがどこに行ったのかは知らないが、まぁとりあえず。
「そうだな。装備の確認をするような気分でもなくなったし、朝食にするか」
「やったあ、朝食! あ、でもノエルちゃんが……」
『今日は朝から店で食事をする日だからな。美味いものを期待しているぞ』
今日は休日であるし、明日以降のことは明日以降に考えよう。