重大なミス発覚とこれからのこと
朝日に照らされたベッドの上。
リカルドの街に戻り、初めてあの店に行った日から何日が経ったか……。
戻ってから三日間は休息日として朝に訓練を行い、その後は約束通り夜までテッドと飲食店巡り。
三日間の休息が終了してからも毎日戦闘訓練は欠かさずに冒険者として依頼をこなしつつ、依頼後時間が余ったときや五日に一度の休息日にテッドに付き合い、テッドを満足させるための飲食店巡り。
時限式映像記録装置の設置が功を奏したのか時計騒動もおさまり遠くへ行かなくてはいけないような依頼もないせいか最近は暇さえあればリカルドの街中の飲食店に足を運んでいたような気はしていたが……まさかこんなことになるとはな。
「テッド、飲食店巡りはしばらく禁止だ」
『どうかしたか?』
飲食店巡り禁止発言に対する、テッドからの疑問の声。
この場合、どうかしたというより、どうかしていたと言った方が正しいのだろうな。
「もうこれ以上、飲食店巡りに使える金がない」
『金がない?』
どうして気づかなかったのか、どうしてこんなにも使い込んでしまったのか。
「そうだ。お前の食べすぎと俺の管理不足のせいで、金がなくなった」
気づけば冒険者ギルドに預けていた金でさえ残りわずか。
たしかに、日々の宿代に朝昼晩の食事代、装備や装備の予備の買い替えや修繕や補充にかかる費用に各種道具代、それに加えてテッドとの飲食店巡りで飛んでいく大量の金貨や銀貨と……とりわけテッドとの飲食店巡りが原因でかなりの額の金がなくなっていってはいた。
正直、食事のたびに金貨や銀貨が手元から数枚消えていくのはおかしいと思ったことも何度かあった。
しかし、様々な依頼や褒賞によって得た金貨の量はギルドに預けていた分だけでも千枚、いや、千五百枚は確実に超えていたはず……。
リカルドの街では金貨一枚あれば一人が四十日はちゃんとした生活を送れるくらいの価値はあるから、金貨千枚で生活できる日数は………………よくわからないがおそらく数十年以上。
俺とテッド合わせて二人分だと考えてもこの世界に来てから一年と少しのこの時期に金が底をつくなんてことは普通に生活していれば絶対にありえない。はず、だったんだが……。
「俺もお前も、調子にのっていたんだろうな」
この世界に来てから解消された明日への不安と場の雰囲気に流された結果得ることになった多少贅沢をしたくらいでは底をつきない大金。
そこに人魔界にいた頃ではありえなかった贅沢を体験し、覚え、金の使い方もよく知らないままにあればあるだけ使い、注ぎこんでしまったのだからあの大金が一年と少しという短期間でなくなってしまったのも当然のこと。
要するに、貧困生活から脱却し、浮かれ、調子にのってしまっていたということなのだろう。
『薄々わかってはいたが、たがが外れてしまっていたか』
「だからこその自滅だ。しっかりと反省しないとな。……というか、わかってたなら言ってくれ」
もっと早くに注意されていれば、こんなことには……。
『一度伝えたぞ』
「……そうだったか?」
そんなことを伝えられたことはないような気がするが、テッドが伝えたと言うからには俺が覚えていないだけなのだろうか?
いや、そういえばギルド職員からも一度、引き出す金の量について何か言及されていたような……ということはこれは本当に、俺がテッドやギルド職員からの話を聞き流してしまったがゆえに起こってしまった事態ということか?
「つまり、一番悪いのは凄い勢いで金が減っていることにも気づかずににバンバン使いまくっていた俺ということか」
『そうなのか?』
「いや、まぁ、遠慮もせずに金貨千枚分以上の食べ物を自由に食いまくったお前の責任も大きいが」
それでも俺がしっかりとしていれば金欠になることはなかった。
どうしてもう数回、金を使いすぎだと注意してくれなかったのかとテッドに文句を言いたい気持ちもあるが、結局のところテッドに食料を買い与えていたのは俺であるし、テッドやギルド職員からの忠告が耳に入らないほど調子にのっていたのも俺が悪い。
「とにかく、二度とこんなことにならないよう金の管理はしっかりしていくぞ」
一度した失敗、それもこんな手痛い失敗を繰り返すなんてことはないと思うが、何事も油断は禁物。
金がもうない。
そう発覚したときは取り返しのつかないことをやってしまったと頭が真っ白にもなったくらいだ。
今は日々の依頼報酬だけでも充分暮らしていけるだけの金は稼げているということに思い至ったおかげで落ち着いているし不必要な出費さえおさえればたまに贅沢できるくらいの蓄えはすぐに貯まるという胸算用もあるが、俺がやっているのは冒険者という危険の伴う仕事。
この世界はいま何かと異変が起きまくっているようでもあるし、カード化できるか判明していない俺とテッドはこれから次第ではいつ死んだり大怪我を負って動けなくなったりするかもわからない。
まだあのオコノミヤキ屋らしき場所の正体も判明していないのに飲食店巡りをやめなければいけないというのは少し癪だが、今はなによりも節制が重要。
……というより、そもそもどうしてあの店にこれほど執着しているのか。
フィナンシェに連れられていって以降八回ほどあの店に行ったが八回中八回とも普通に料理を出されて普通に美味しく頂いて帰ってきているし、こちらから余計なことをしなければ無害で有用な店なのだから領主関係者の働いているオコノミヤキ屋らしきあの店のことはもう放っておいてもいいのかもしれない。
とりあえずいまは――
「目指せ金貨十枚。それまでは贅沢禁止だ」
『致し方あるまい』
金貨十枚を貯めるまでは贅沢禁止。
これを胸に、今日からの依頼は昨日まで以上により一層励んでいこう。