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眠る直前の思いつき

 夕飯のメニューはパンに肉に乾燥野菜たっぷりのスープ。

 用意されている量的には、俺とノエルと少女がそれぞれ一人前で、テッドとフィナンシェがそれぞれ三人前といったところか……。

 テッドとフィナンシェの分がいつもより少ないのは、少女とカード化中のもう一人の分も考えてのことなんだろうな。

 見たところ少女は食糧の類を一切持っていないようだし、少女たちの事情如何によってはナラナフ森林の調査と時限式映像記録装置の設置が完了してここから一番近い村に辿り着くまで、三~四日は少女たちの面倒を見ることになるかもしれないからな。


 とはいえ……。


「あのコとの話し合いは上手くいってないみたいだね」

「ええ。全然ダメね。まだ声すら聞かせてもらっていないわ」

「そっかぁ。スープもおいしくできたんだけどなぁ……」


 肝心の少女はフィナンシェのつくった料理には手をつけず、ジッとこっちを見つめてくるだけ。

 ノエルと睨み合いをしていたときのような険しい目つきではないが、それでもこちらを信用しているようには見えない。

 パンと肉とスープを目の前に置いたときでさえわずかに一瞥をくれただけですぐに料理から視線を外し、以降は目の前の食べ物にも目をくれずずっと俺たちの方を見てきているし……見知らぬ俺たちを警戒する気持ちはわかるが、警戒のされ方が尋常でない。

 とりあえず食事時だからと縄も解いて自由に動けるようになっていて、食事が安全だということも一応証明はした。

 そのはずなのに、食べ物に触れることもなく瞬きすら最小限にジッとこちらを見続けてきているのは何事なのか。


『今回もまた美味いな。この歯ごたえのよさそうな野菜の味が気に入った』

《……お前はもう少し場の空気を気にするようにした方がいいな》

『気にするもなにも、どうぜお前にしか聞こえていないだろう』

《それでもだ。俺が疲れるから、もう少し場の空気に配慮した発言をしてくれ》


 少女からは見えないテントの中。

 テッドだけは少女のことを気にかけることもなく普段通り自由気ままに食事を楽しんでいるみたいだが、もしかして、あの少女はノエル並に魔力感知が得意で、少女から六メートルは離れた位置にいるテッドのことを朧気ながらにも感知しているから、これほどまでに俺たちを警戒しているのではないだろうか?


 かなり高い可能性の一つとして、そう思わずにはいられないほどの警戒心。

 少女がテッドの気配を感じ取っているのではないかと思いながら見てみると、なんとなくその視線は俺たちではなくテッドのいるテントの方へと向けられているような気もしなくはない。


「――じゃあ、その人をカードから戻すの?」

「このままあのコが口を割らないならそうなるわね」


 フィナンシェとノエルはそのことに気づいているのかいないのか。

 少女がこちらを警戒してこのまま俺たちに何も話そうとしないようなら少女と一緒にいたもう一人をカードから戻そうという話をしているみたいだが、万全を期すならどこか近くの町まで行ってしっかりとした警備体制や審問官を揃えた上で完璧に情報を聞き出した方がいい。


 少女と一緒にいた男がカード化したのはつい数時間前のことであるし、しっかりとした審問のできそうな最寄りの町までは馬と浮遊魔術を併用して五日~六日ほど。

 人間がカード内で廃人化せずにいられる期間はおおよそ十五日だから、あと二日ほどナラナフ森林の調査を行い時限式映像記録装置を設置してから町に行ったとしても、充分間に合うはず。

 ……なんてことはフィナンシェやノエルの方が俺よりもよくわかっているはずだから、それほどあの少女たちがナラナフ森林にいたという事実が重いということなのだろうな。


 実際、俺たちを警戒しているのかやましいことでもあるのかあの少女は一言も事情を説明しようとせずにノエルに反抗的な態度をとり今もこちらを凝視し続けるという怪しい行動を見せているわけであるし、少しでも早く事情を問いただした方がよいというのは正しい判断なのだろう。


 俺としてもフィナンシェとノエルに負けないように考える努力を始めはしたもののまだそこまでの思考力は身についていないのだからここはフィナンシェたちの判断に従っておくべき。

 ノエルとフィナンシェがそうした方がよいと判断したのならカードから戻した男から聞き洩らすことなくすべての情報を聞き出せるよう、俺やテッドもしっかりと協力するべきだろう。

 と、なんとか頑張ってここまで考えてはみたものの、さすがにもう眠い……。


 夕飯もこの一口で終わり。

 今日の見張りはフィナンシェとノエルで頼むということも相談済み。

 食事中も頭をつかっていたせいか眠気もすごいし、今日はもう寝るか。


「あ、トールおやすみなさい」

「今日はアタシがアンタよりも完璧に見張りをこなしてあげるからアンタはこのノエル様に感謝しながらのんきに安眠してなさい!」

「……おやすみ」


 少女から反抗的な態度をとられ気でも立っているのだろうか?

 ノエルのテンションがおかしなことになっていたような気もするが……まぁいいか。

 早くテントに入って寝てしまおう。


「あ」


 ……そういえば、テッドの方がノエルよりも魔力を見ることが得意で、ノエルはその人の纏う魔力からある程度の人柄や能力なんかを推測することができるとかそんな話があったような……。


 魔力をもとにノエルがどこまでその人のことを知ることができるのかは今まで見せてもらったことがなかったが、ちょうどいいし、明日起きたらテッドの見た少女の魔力をノエルに伝え、少女の人柄や能力なんかを推測してもらうか……。

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