既視感の正体
「アンタ、名前は?」
「…………」
「アンタと一緒にいたもう一人の名前は?」
「…………」
「あの場所で何をしていたのか答えなさい。あの森林が危険なことくらい知ってるわよね?」
「…………」
「あそこにいたのは誰かの命令? それともアンタたちの意思?」
「…………」
「どうしてアタシたちから隠れるように息を潜めていたのよ」
「…………」
「アンタ、話せないの? アタシの言葉は理解できているのかしら?」
「…………」
ゆらゆらと揺らめく焚き火の前。
高圧的な口調と目つきで質問するノエルと、黙り込む少女。
ジッとノエルを睨みつけている少女の口が動くことはなく、質問をしては無視されを繰り返してもうかれこれ十五分以上。
随分と難航しているみたいだが、いつか使用していた洗脳魔術のような魔術はつかっていないのだろうか?
あの魔術をつかえば情報を聞き出すことなんて簡単だと思うんだが……。
「ラチがあかないわね。早く口を開きなさい」
「…………」
ノエルが催促するも、少女の態度や体勢に変化はなし。
どう見ても、何かを応えてくれるような様子ではない。
「アンタ、本当に何も話さないつもり?」
「…………」
「アタシたちの手にはアンタの仲間のカードがあるのよ」
「…………」
「あのカードを戻せばアンタたちの情報なんて簡単に手に入るの」
「………………」
「なんなら、今ここでアンタをカード化するのもいいわね」
「…………………………」
「わかったかしら? アタシたちにはアンタやアンタの仲間から情報を聞き出す手段なんていくらでもあるの。アンタをカード化していないのは、まだアンタが悪事をはたらいていたと決まったわけではないからってだけ。これ以上反抗的な態度を見せるなら、たとえアンタが善人だろうと容赦なく叩き潰させてもらうわよ」
「…………………………」
陰影濃く。真っ赤な火に照らされ見える二人の顔には暗い影が入り混じり。
ぶつかる視線。迸る火花。
パチパチと音を立て薪が燃え爆ぜるとともに、二人の瞳に宿る感情の火も片や静かに片や激しく燃え上がる。
ノエルが喋れば、少女が怒りを強め……。
よくわからないが、ノエルは少女を諭すことで口を開かせようとしていて、少女は少女自身に何の興味も持った様子もなく静かに淡々と事実を告げてくるノエルのそんな態度に怒りを燃やしているといったところだろうか?
少なくとも、こうして見ている分にはノエルによる尋問は完全に失敗。
ノエルが言葉を発するたび、少女の目つきがどんどん険しくなっていっている。
『少女の方はだいぶ怒りをあらわにしているな』
《起きたのか》
目覚めたばかりのテッドにもそれがわかるということは少女の怒りは相当なものだな。
尋問の経験がないからと、少女への対応をノエルに丸投げしてしまったのは間違いだったかもしれない。
『何を言っている。寝てなどいないぞ』
《さっき何度も話しかけたとき、返事がなかったが?》
『さっき?』
《縄で縛られた少女が詰問されている光景に既視感があるとかこんな小さな少女があんな森にいるとは思わなかったと話しかけたんだが、反応がなかったぞ》
少女が怒りを強めている一方で、寝惚けているのかとぼけているのか、自分は寝ていないという態度をとるテッド。
そんなテッドの姿と、森、縛られた人という要素がかみ合ったからだろうか?
《……あ。思い出した》
『何を思い出したのだ?』
《この既視感の正体だ。この光景、ダララの森で攫い屋二人を捕縛したときの光景に似ているんだ》