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いつか見た光景

 向こうに隠れているヤツのカード化した理由は結局不明のまま。

 しかし、テッドから聞いた話をもとに状況を判断するならば――


「フィナンシェ、ノエル。一旦ここを離れるぞ」

「ちょっと! 何がどうなってのよ!」


 危険な毒を持った魔物が潜んでいるかもしれない以上、すぐにこの森林から離脱した方がいい。

 そう考え可能なかぎり声を抑え発言した離脱宣言に、器用に小声で叫びながら現状の確認を迫り返してきたのはノエル。


「木の向こうに隠れているヤツが一人カード化した。危険な魔物が近くにいる可能性がある。とにかく一度この場を離れるぞ」

「待ちなさい! それならそのまえに残った一人の顔を拝んでから行くわよ!」


 できることなら返事に応じることもせずノエルを引きずってでも今すぐにこの場を離れたい。

 そう思いつつ現状の説明を優先した言葉に、またしても返ってくるのはノエルからの反論のような提案。


 魔物か、正体不明の人間か……。

 危険度でいえば、木の向こうにいた二人組の片割れをカード化させたと思われる魔物の方が高い。が、しかし、優先度でいえばこの場からの離脱も正体不明の二人組の素性の確認も、どちらもそう変わらないような……。

 というより、二人組は一人がカード化して一対三。

 一人で俺たち三人に挑んでくるとも思えないし、仮に挑んできたとしてもフィナンシェとノエルがいる現状こちらに被害が出るとも思えない。

 そして、人が立ち入らないことで有名なこの森林にいた二人組が怪しいということは、変えようのない事実。

 気持ちを加味するならば今すぐこの場を離れたいところだが、理屈でいうならばこちらに危害を加えてくる可能性の低い怪しい人物の顔を見ることもせずにこの場を離れることの方が愚策。

 何の情報もなくこのまま取り逃すくらいであれば、せめて相手の顔くらいは知ってからこの場を離れた方がいい。


 ――と思うが早いか、そう考えた後の行動は迅速。


《テッド。木の向こうにいるヤツまでのあいだに罠のようなものや毒を持った魔物は確認できるか?》

『毒持ちの魔物はわからないが、罠はないな』

「それなら、できることなら木の向こうにいるヤツも連れてこの場を離脱。それがかなわないようなら木の向こうのヤツの顔だけでも見てからこの場を離れるぞ」

「決まりね! じゃあ行くわよ!」


 テッドに罠や魔物の有無を確認し、罠が仕掛けられてないとわかれば即座に正体不明人物の人相を確認することに決定。

 ノエルの浮遊魔術によって一瞬で木の向こうにいる人物の近くまで移動が完了し――その勢いのまま、木の向こうにいた人物にもノエルが浮遊魔術をかけ、誘拐するかのようにその人物も連れて森から脱出して…………。






 日が落ち、真っ暗となった景色の中。

 野営用に設置したテントのそばで焚かれた火に照らされ見えるのは、縄で縛られた状態で座らされている小柄な少女とその近くで少女を威嚇するように仁王立ちしているノエルの姿。


《この光景。なんとなく、どこかで見覚えがあるような気がするんだが……》


 今はまだナラナフ森林で何かをしていた少女への詰問中。

 ノエルを邪魔するわけにはいかないから声に出すことはできないが、一体いつどこでこんな光景を目にしたのだったか……。


《テッドはこの光景に覚えはないか? ……というかそれ以前に、二人組のもう一人がこんなに小さな少女だとは思わなかったぞ?》


 テッドから聞いていたのは二人組の存在と、二人組のうちもう片方の人物を背負っていた者がカード化したということだけ。

 背負われていた方の性別や背格好についての言及は一切なかったし、あの状況ではそこまで必要な情報でもなかったからテッドからその説明がなくてもおかしくはないとはいえ……。


《まさか、ノエルよりも小さい少女があの森にいるなんてな》


 かなりダボついたローブを着ている上に火の明かりもそれほど強いものではないから正確な大きさは計りにくいが、縄で縛られ座らされている少女はおそらく年の頃十歳ほど。

 俺たち三人の中で一番小さいノエルよりも一回りは小さいように見える。


 というより、


《おい、テッド? 起きているか?》


 先ほどからテッドからの返事がないのは、もう眠ってしまったからなのだろうか?

 ノエルは少女の詰問中でフィナンシェは夕飯の支度中のいま、テッドが話し相手をしてくれないと少し寂しい上にかなり退屈なんだが。


《おい、テッド?》


 とりあえず、テッドから返事がこないあいだはいつどこでこんな光景を目にしたのかでも考えて時間を潰すことにでもするか……。

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