対処の前に
《どうすればいいと思う?》
『話しかければよいのではないか?』
《いや、まぁ、そうなんだが……》
正体不明の二人が隠れているという木に意識を割きつつ、隣で視線を交わし意思疎通を図っているノエルとフィナンシェを横目にテッドと念話。
テッドの言うように、結局は話しかけないという選択はないのだから躊躇したりせずにいますぐ話しかけてしまってもよいのではないかという考えもなくはないが……。
《相手は俺たちを狙ったカードコレクターかもしれないんだぞ? 最低限の準備は必要じゃないか?》
滅多に人が近寄ることのない危険な森林内にいた謎の人物たち。
なぜか俺たちから身を隠すようにして木の陰に潜んでいることも怪しいし、俺たちを追ってきたカードコレクターである可能性はかなり高いように思う。
それにもしカードコレクターでなかったとしてもこんな場所でコソコソと行動している時点でかなり怪しい人物であることに違いはない。
話しかけて即戦闘になるとは思いたくないが相手がその気であったならすでにこの辺りに罠を仕掛けられている可能性もないとは言いきれないし、相手が有利に立ち回れないようにする策の一つや二つくらい用意してから話しかけた方がよいのではないだろうか?
『心配するな。相手はカードコレクターではない』
《どうしてそう言えるんだ?》
『相手の所持品を見ればわかる。どちらもカードを一枚も所持していない』
《カードを持っていないからカードコレクターではないということか》
確実……とはいえないが、相手がカードコレクターかどうかを判断するための指標の一つとして相手がカードを所持しているか否かというのは結構いい線をいっているように思える。
加えて、相手に他に仲間がいないということが前提にはなるが、もしそこの木の陰に隠れているヤツらがカードコレクターで俺たちを狙っているのだとすれば相手は俺が【ヒュドラ殺し】と呼ばれていることやフィナンシェやノエルの実力、場合によっては俺がテッドを連れていることも知った上でたった二人で追いかけてきたということになる。
つまり、相手がテッドの存在を知らず俺の本当の実力に気づいていたとしても、フィナンシェとノエルの二人に対して相手も二人。さらにはそこに俺も加えれば、三対二。
カードを持っていないということは相手の戦力がこれ以上増えることもないし、そう考えるといくらなんでも無謀がすぎる。
相手もバカではないだろうから、俺たちと相手の人数差から考えてもそこにいる二人はカードコレクターでないと判断してしまって問題ない、か……。
《だが、依然として相手が怪しい人物であるということに変わりはないぞ?》
相手がカードコレクターでないということは信じるとしても、だからといって相手が悪人でないという証明にはならない。
人の来ないこんな危険な森で何かしていた以上その二人が怪しいことに変わりはないし、警戒を怠るわけにもいかない。
『敵意は感じられないから大丈夫だ。ともかく、まずは話しかけてみろ』
しかし、テッドの言うことも一理ある。
テッドが敵意を感じないというのなら現時点では相手は俺たちに何かするつもりはないのだろうし、そもそもフィナンシェとノエルの二人がいてこちらが遅れをとることは考えられない。
であれば、とりあえず警戒もそこそこに話しかけてみるというのも間違いではないのだろう。
ただ……。
《まずは話しかけてみろと、そう言われてもな……》
こういった場合の判断は冒険者歴も長く経験豊富なノエルやフィナンシェの方が長けている。
フィナンシェたちがまだ話しかけるという選択をとっていないのに、俺が勝手に相手に話しかけるわけにもいかないだろう。
《俺とテッドとしては今すぐ話しかけても問題ないということは伝えるが、最終的にどんな対処になるかはフィナンシェとノエル次第だぞ》
『そこまでは知らん。判断は任せる』
とはいえ、フィナンシェたちの方も考えがまとまっているみたいだな。
横を見れば、二人組の隠れている木の方を指差し、顔を向け、声を出すような身振りや場合によっては戦闘か撤退を選択するというような身振りや素振りをしてくるノエルの姿。
とりあえず不用意には近づかず、この場所から声をかけてみて様子を見るということなのだろう。
頷きを返せば、すぐにノエルが行動を――
『一人、カード化したぞ』
――ノエルやフィナンシェが相手に向かって声をかけるまえ、テッドから告げられたのは、相手のカード化報告。
それを聞いてすぐ、声を出そうとしていたノエルの手で口を塞ぐ。
詳細は不明。
どうしてカード化してしまったのか……。
状況がよくわからないが、どうやらあの木の向こうで何か問題が起こったことだけはたしからしい。