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緩む思考と必然の発見

 今しがたノエルの指摘によって自身の未熟さが判明したばかりであるし、現在目の前に見えているナラナフ森林の樹木の見分けとこの森林も関係しているかもしれない同時期魔物の巣多重発生の原因究明は柔軟な発想を育む練習台としてお誂え向き。

 心身共に余裕もある現状、ギルド長からの依頼に支障が出ない程度にならその二つについて真剣に考え、自身の思考力の底上げを図ってみるのもよいのではないだろうか。


 ――と、考えてから五時間。


 森林の樹木と樹木型魔物の見分けについては両者の細かな違いからなんとなく識別することもできるようになってきたが、通常であれば形成されにくいはずの中規模以上の魔物の巣の同時期大量発見についてはフィナンシェやノエルにも原因がわからないだけあってやはり俺の頭では答えに辿り着けそうにない。

 とはいえ、今の目標は正解に辿り着くことではなく別の視点からモノを考えたり知り得た情報から何かを閃いたりと、正解へ続く道を探せすために必要な力を身につけること。

 ……つまり、これは今の俺に不足している力を鍛えるための訓練。

 現在の俺にそれほどの思考能力がないことなんてはじめからわかっているのだから、上手く正解に辿り着けなかったからといって悲観するようなことでもない。


「むしろ、より真剣に訓練(これ)に取り組まないとな……」


 剣の腕がいきなり成長するなんてことはない。

 であれば、短期間で強くなるためには頭を鍛えるのが一番手っ取り早い。


 俺に思考力が足りていないということは今日一日で身に染みるほどよくわかったし、訓練(これ)を続け思考能力を鍛えれば俺は確実に強くなれる。

 そしてそうなるためには現在発見している差異の他にも木と樹木型魔物を見分ける方法はないかどうか、魔物の巣が同時期に異常なほど発生している原因は何なのかといった、今までの俺であればかなりの確率で他人任せにしてしまっていたような考えごとでもしっかりと自分の頭をつかって正解を模索していくことが重要となってくる……はずだ。


「……え? トール、何か言った?」

「どうせくだらないことでしょ? あんなやつ放っておいて早く魔物の巣を探しちゃいましょう」

『より真剣にと言う余裕があるのならば初めから全力で取り組んでおけ』


 ……考えを声にでも出してしまっていたのだろうか?

 疑問の声を上げただけのフィナンシェ以外、ノエルとテッドからはひどい言われようだが……これも物事を客観視する際の参考にはなるな。

 何を発言したかは覚えていないもののノエルとテッドの発言からはさっきの俺の姿や発言がどのように他者の目に映っていたのかという推論を得ることができるし、おそらく普段からそういった視点を持ってモノを考えるように心がけていればきっといざというときにも主観に寄らない思考をすることができるはず。

 特に、『こういった場合ノエルやテッドならこう考えるだろう』といったノエルやテッドをはじめとする他者の思考を真似しやすくなれそうなのが良い。


 ――他者の考えを知り、他者のモノの見方を知り、他者の視点に立ってモノを考える癖を身につける。


 そうすれば、考えを知った他者の分だけ思考に多様性が生じ、考えの幅が広がった分だけ心と身体に余裕も生まれる。

 結果、最適な行動をとれる可能性が高まり、ますます窮地からの脱出や勝機の発見といった生存確率の上昇が期待できるようになる。


「――と、いうのは机上の空論。所詮は俺がそうなってほしいと願っているだけの話か……」


 実際には今想像したように他者の思考をそこまで完璧に取り込むなんてことできないに決まっているし、何か他に俺の気づいていない利点や欠点もあって然るべき。すべてが想像通りに上手くいくなんてことはありえないだろう。


 しかし、他者の思考を追おうとする意思自体は間違ってないはずだ。

 他者の視点を取り入れようとすることで得られるものは確実にあるはずだし、もし想像通りに事が運べば俺のとれる行動の選択肢は格段に、それこそ桁違いに増えることだって予想できる。


 とにかく何事も挑戦してみるのが一番。

 まずはやってみなくては何も始まらないし、何もわからない。

 やってみてダメだったなら適宜修正していけばいいだけの話だろう。


「……トール?」

「アンタ、何しにここに来たのよ。魔物の巣を探すことにちゃんと集中しなさいよ」

『口が緩んでいるぞ』


 …………また何か考えが声に出ていたのかフィナンシェから純粋な目を向けられノエルからは呆れを含んだ視線でキッと睨まれるように一瞥され、テッドからは一言簡潔に口から言葉が漏れているぞとの指摘。


 ついつい口から言葉が出てしまうのは何故なのか。

 ノエルからの視線やテッドからの指摘を受けそう思いながらも様々な物や音や匂いを注意深く観察していたのがよかったのだろう。


「あ、いまあそこで何か動かなかったか?」


 広く捉えていた視界に小さく感じた一つの違和感。

 まもなく日が沈むという頃、森の奥で何かがゆらりと揺らめいたような気がした。

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