パーティ内での役割
ガラガ湖にて魔物の巣を探しまわること半日。
「テッド、どうだ?」
『何もないぞ』
「ということは、予想通り、この辺りには魔物の巣はなさそうだな」
日が暮れるギリギリまで粘ってみても魔物の巣はおろか魔物の巣へと続いてそうな道や魔物が地中を通った跡すら発見できず。
地上にないのなら地下。ということでテッドの感知能力とノエルの浮遊魔術を合わせて地面すれすれを高速で飛行しつつ探してみたはいいものの……結局、何も見つからなかったな。
「そっかあ、トールとテッドでも見つけられなかったなら間違いないね」
「なら今日はここで野営して、明日起きたらすぐにナラナフ森林に向かいましょ。魔物の巣がないならこんなところにもう用はないわ」
こうなった以上、魔物の巣がなさそうだと聞いてフィナンシェが納得の声を上げたこともノエルが今後の行動について提案してすぐさま野営の準備にとりかかろうとしていることも想定の範囲内。
地中では魔力が拡散してしまいやすいのかなんなのか、自身の放出した魔力がモノに当たって跳ね返ってくることではじめて周囲の状況を認識・感知することのできるテッドはもともと地下方向への感知が苦手なうえにそもそも感知が完全に行き届いていたとしてもテッドの感知範囲の外、地中十五メートルよりも下に魔物がいた場合にはテッドがそのことを知り得ることはないからこの周辺に絶対に魔物の巣がないということにはならないが、とりあえず近くに大きな魔物の巣はなさそうだということなのだからここで野営をするという選択もありえないものではない。
というよりむしろこんな荒れ果てた殺風景な場所で気が休まるかどうかは別として見晴らしは良いし、その見晴らしの良さのおかげで異変の発見や発見した異変への対処もしやすそうであることを考えるとここで野営するというのはわりと良い選択なのではないだろうか。
少なくとも、地中に魔物の巣があった場合の第一候補となっていた昨日の野営地まで戻って野営するという選択よりかは時間も体力も節約できていいように思う。
「……というかそれ以前に、ノエルもフィナンシェももう野営の準備を始めてしまっているしな。今さら野営地を変更するなんて選択肢は存在しないか」
「え? トール何か言った?」
「アンタなに突っ立ってんのよ! さっさと動かないと夕飯抜きにするわよ!」
小さな独り言のつもりだったんだが、二人の耳まで届いてしまったか。
特に、ノエルに見咎められてしまったのが面倒くさいな……。
「いや、なんでもない。俺はノエルを手伝ってくるからフィナンシェはそのまま調理に集中しててくれ」
「うん、わかった! おいしいご飯を用意するから期待しててね!」
フィナンシェの前にある鍋から漂ってくるこの匂い。
これは、コンソメスープとかいうスープの匂いだったか?
今朝の野菜スープや昨日のシチューもどきも美味しかったが、フィナンシェの言う通り今夜の食事もまた期待できそ……。、
「遅いわ! さっさと動きなさいって言ったのが聞こえなかったのかしら? もっときびきびと動きなさいよ!!」
「すまん。今行く」
働かざる者食うべからず。
スープの匂いに釘付けになっている場合ではなかった。
ノエルがテントを張り終わるまえに何か手伝っておかないと本当に夕飯抜きにされてしまうからな。
コンソメスープを食べ損ねないためにもしっかりと働かなくては。
『美味かったな』
「ああ、美味かった」
食事後の一休み。
ふぅ、と息を吐きながらテッドと夕飯についての感想を軽く語り合う。
今日はいつ現れるとも知れない魔物を警戒してずっと地中や地上に対し気を張り続け、地面すれすれを飛行していたあいだは身体の制御をノエルの浮遊魔術に任せていたがために何かあった際に自力だけでは回避行動をとれないという緊張感もあったたからだろうか?
思った以上に疲労していたカラダに沁み入るようにして伝わってきたスープの温かさと美味しさが、普段以上の食後の満足感を与えてくれているのがわかる。
正直、このままこの満足感に身をゆだね素直に眠ってしまいたい気持ちもある……が。
――だがしかし。
「今日も俺とテッドで交代で見張りをしておくから、二人はゆっくり休んでいてくれ」
今回の依頼。俺は未だにいいところが一つもないからな。
せめて野営中の見張り番くらいは引き受けないと、俺がこの場にいる意味がなくなってしまう。
…………とはいえ、ノエルが周囲に結界を張ってくれているおかげで見張り番が必要ないのではないかというくらい安全で快適な野営が行えているわけだが……。
《あ、テッドももう好きなときに寝ていいぞ。昨日や一昨日と同じように見張りは俺一人で充分だ》
さて、今日は何をして夜の長い時間を潰そうか……。