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言われてみれば

 面倒くさい。

 面倒くさすぎて面倒くさい。

 正直、もう考えるのも面倒くさい。


 そんな、思考のすべてが面倒くさいという言葉と感情に埋め尽くされる中――


「つってもまぁ、お前達にちょっかいかけるヤツなんかそうそういないだろうから安心しろ」

「は?」


 唐突に聞こえてきたギルド長の言葉に、小さく首を傾げる。


「俺たちにちょっかいをかけるヤツがいないって、それはどういう意味だ?」


 さらに一拍おいて、ギルド長の言葉をもう一度呑み込んだところで今度はしっかりとした意味を伴った言葉での質問。


 ギルド長は当たり前のように言っているしフィナンシェやノエルもギルド長の言葉の意味を理解しているのかギルド長の謎の発言に対して疑問を持った様子はない。

 しかし、まるで放っておいても俺たちが問題に巻き込まれるようなことはないとでも言いたげな今の物言いはどういうことだろうか?

 ギルド長とドルブのおっちゃんの話を信じるならば時計の存在はブルークロップ王国ですら無視できないほど大きな問題を生じさせる危険性をはらんでいうようだし、そんな大問題にただの冒険者である俺たちが巻き込まれないはずはないんだが……。


 もしかして、俺たちが時計の製作に関わったことがバレないようにギルドやおっちゃんたちが何かしてくれたのだろうか?

 問題の原因となった時計との関係さえ疑われなければ俺たちが巻き込まれることはないからな。

 それなら納得はできる。

 いやしかし、そうなると今度は緊急事態という伝言をわざわざラーゼの護衛騎士が届けにきたことに説明がつかなくなるか……。


 面相くさいという思考を追い出しいざ考え始めてみれば思った以上に頭はよく回る……が、それでもギルド長の発言の真偽を確かめられるような説明は浮かんでこない。


《テッドは何かわかるか?》

『わからんな』


 テッドに訊いても反応は芳しくないし、やはり、真剣に考えてみても国が俺たちに手を出してこない理由なんてそうそう思いつかない……あまり頭を悩ませているそぶりを表に出したつもりはなかったが、そんな心情を見抜かれたのだろうか?


「……トール、もしかしてお前、本当にわかってないのか?」


 なぜか質問に返事をすることもなく探るような目つきで静かにこちらのことを観察していたギルド長が、何かおかしなものでも見るような目をして神妙な顔つきで顔を覗いてくる。


「トールからしたら国なんて脅威にもならないからあんまり深く考えてないだけなんじゃないかな?」

「アンタのすべてを歯牙にもかけないような、そういうところがムカつくのよ。早く直した方がいいわよ? あと、早くアタシをライバルと認めなさい!」

「トールおめぇ、凄い言われようしてんな。それとそっちの嬢ちゃんは魔力を引っ込めてくれ。怖いから」


 さらにフィナンシェからのフォローはフォローになっておらず、ノエルからは事実無根の言いがかりと謎の逆ギレ。

 魔力を利用する道具を作ることもあるからか魔力感知が得意らしいドルブのおっちゃんはノエルから漏れ出ているらしい魔力にビビって若干及び腰。


 フィナンシェに悪気がないことはわかるんだが今の発言、フィナンシェは俺のことを凄い大物と思っているのかそれとも凄いバカだと思っているのか。

 ノエルにいたっては周囲から持ち上げられることが多かったおかげか最近鳴りを潜めていたライバル病が再発してしまっているし……というか、ノエルは俺より実力が上だということを証明したがっていたはずなんだがそれがどうしてノエルより明らかに実力が下の俺に対してわざわざ対等なライバルになってくれとでもいうようなことを言ってくるのか……。

 おっちゃんに関してはご愁傷様と言うほかにあとは俺のパーティメンバーがすまなかったと謝るくらいしかできることはない。


 というより、フィナンシェからのフォローになってないフォローやノエルが喧嘩腰になっていることなんてどうでもいいからギルド長は早く俺たちにちょっかいがかけられない理由を教えてくれ。


 そんな想いを視線に込めたのが良かったのだろう。


「フィナンシェとノエルは何年か前から、トールは最近からだが、お前達の名前は近隣国にもよく知られている。それに、非公式ではあるがお前達ととある国の要人の仲が良いことも大抵の国は知っているだろう。二度のヒュドラ討伐とついこの間のラシュナのダンジョン潰しのことも有名だし、そんなヤツらに手を出そうとする奴がいると思うか? 少なくとも、身の安全に関してはお前達は心配しなくていいだろうな」


 ドルブのおっちゃんがいるからか色々とボカされてはいたが、言外に「特にお前とそのスライムに手をあげる奴なんていないだろ?」とでも告げるようにテッドの入っているかばんと俺とのあいだを行き来した視線を受ければその意図は容易に伝わってくる。


「言われてみれば、そうかもしれないな」


 頭からすっぽり抜け落ちていた周囲からの俺やテッド、フィナンシェやノエルへの評価と、俺たちがシフォンと仲が良いという情報の持つ各国への影響力。

 それらを加味すれば、たしかに俺たちに変なちょっかいをかけてくるような国はないように思う。が、しかし、いつのまに……。


 なるべく平静を装いなんてことはないように返してはみたが、さっきの返事、俺の声は震えてはいなかっただろうか?


 最近は忘れがちだったしあまり自覚もなかったが、どうやら俺も国から恐れられるほどの危険人物として名が広まってしまっていたらしい。

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