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内界を揺るがす大問題

「ギルド長、その工房主っていうのは誰のことだ? あと、俺のしたすごいことっていうのは何のことだ? その工房主とやらが来るまえに少しでも事情を知っておきたいんだが」


 部屋に入り面会するなりいきなり告げられた、ギルド長からの断片的な言葉。

 俺たちがリカルドの街に呼び戻されることになった緊急事態と関係があるのかないのかは知らないが、いま誰かが呼びに行っているらしいどこかの工房の工房主と俺のしてしまったすごいことというのは俺たちを呼び戻す原因となった緊急事態と同等かそれ以上に早急に対処しなければならない問題ということなのだろう。


 それならば、街に戻ってきたばかりの俺たちはこの街で何が起こっているのか何も事情を知らないわけであるし、少しでも話を円滑に進め理解を深めるためにもその工房主とやらが来るまえにある程度の内容を把握しておきたい。


「うーん、面倒くさいから説明はすべて工房主(アイツ)に任せようと思ってたんだが……まぁただ待たせるだけってのもあれだし、俺にもギルド長としての責務があるからな。いいだろう、簡単な説明くらいはしてやろう」

「おい」


 今このおっさん、説明が面倒くさいから丸投げしようと思ってたとか言わなかったか?

 仕事だけはちゃんとするやつだと信じてたんだが、こんなのがギルド長で本当に大丈夫なのか、このギルド。


「ん? なんだ、どうかしたか?」

「いや、なんでもない……」


 よく考えたらノエルを強引に俺たちのパーティにねじ込むような真似をしてきたおっさんだしな。

 ノエルに脅されたのかなんなのかは知らないが俺たちの承諾もなしにパーティメンバーを無理やり増員させようとするような適当なおっさんがまともに仕事をしているわけがないか。

きっと他のギルド職員たちが頑張ってこのおっさんとギルドを支えてくれているのだろう――


「その冷めたような顔が俺に向けられてるのが少し気になるが、まぁいい。説明を始めるぞ。お前達に出した伝言にも大いに関わってくることだからな。心して聞いてくれ」


 ――と思ったが、一応やるときはやる男なのだろう。

 説明を始めると言った瞬間、ギルド長の目の色が変わった。

 さらに次の言葉を発っするために改めてギルド長が口を開きかけた直後、ダァァンッという激しい音を響かせギルド長室の扉が勢いよく開かれる。


「トールが帰ってきたってのは本当か!?」


 それと同時、扉が開くと同時に大声を上げながら入室してくる一人の男。

 見覚えのあるこのおっちゃんは……。


「おお! 本当にいるじゃねえか! 久しぶりだな!! 元気にしてたか!?」

「久しぶりだな、おっちゃん。そっちも元気そうだな」

「あたぼぅよ! そう簡単に身体を壊すようなやわな鍛え方はしてねぇからな! トールも嬢ちゃんも元気そうで何よりだ! ……っと、もう一人の嬢ちゃんは初めましてだな。俺はカラク工房の工房主をやってるドルブってんだ。よろしくな!」

「アタシはノエル、いずれ世界一の魔術師になる女よ。よろしく」

「おお、若ぇやつはやっぱそのくらいの気概がねぇとな! いいじゃねぇか、世界一の魔術師! 応援するぜ!!」

「おう、挨拶はそのくらいにしてこっちに来てくれドルブ。これから話をするところだったんだ。ちょうどいいからお前の口から説明してやれ」

「おう、わかった! ちょいとお邪魔させてもらうぜ! そうだな、じゃあまずは事の経緯から――」


 挨拶を交わしこっちに寄ってきてすぐに説明を始めるおっちゃん。


 呼び出し中の工房主が誰か、なんて聞く意味もなかったな。


 カラク工房のドルブ。


 俺と関わりのある工房主なんてこのおっちゃんくらいしかいなかった。

 こんなこと、少し考えれば初めからわかったことだ。


 ……というか、やっぱりこのギルド長はダメなおっさんなのだろうか?

 ドルブのおっちゃんが入ってきた瞬間から目の色が元に戻って、結局は説明もすべておっちゃんに丸投げしてしまっているんだが……。

 ギルド長の責務とやらはどうなっているんだ、いったい?






「――と、まぁ説明は大体こんなところだな」

「じゃあ、ギルド長からの伝言にあった緊急事態っていうのは……」

「このことだな」

「やっぱりか」


 おっちゃんからの説明も終わり、ギルド長からの伝言にあった緊急事態がおっちゃんの説明した内容そのままだということもわかった。

 だが、これは……。


「つまり、ドルブさんがトールの懐中時計を再現したものや懐中時計の機巧を応用してつくったもののことをかぎつけた一部の貴族や商人がドルブさんのところを訪れて、さらにはその貴族や商人の誰かが情報を漏らしちゃったのかさらにたくさんの人がこの街に押しかけているせいで街の中や街の外が大変なことになってるっていうことだよね?」

「そうだ。時間を正確に計れるなんてその有用性は言うまでもないからな。欲しがるやつはいくらでもいる。これは内界全体に革命をもたらすほどの発明だぞ。いま、利権関係を巡って色々と問題が起きているところだ」

「……それで、俺たちもその問題に巻き込まれるかもしれないと」

「そういうことだな。耳聡い者ならドルブが開発に着手したきっかけがお前の持ち込んだその懐中時計だと知っていてもおかしくないからな」


 おっちゃんの説明の途中、確認のためと言われ取り出した懐中時計を指差しながらギルド長がそう告げてくる。


「はぁ……」


 いまの話を聞き、懐中時計を眺め出てくるのはため息ばかり。


 まさか軽い気持ちでほんの二十分程度懐中時計を預け調べさせたことがあるだけなのにこんな大事に巻き込まれることになるとは思いもしなかった。

 聞けば内界に存在するほとんどの国が懐中時計やその機巧を応用した道具に注目し動き出しているということであるし、内界一の大国であるブルークロップ王国がこの街の者やこの街の存在するカナタリ領の領主と協力してこの件を主導しようとするほどの大事になってしまってもいるらしい……正直、国家レベルの問題など巻き込まれたところで俺たちにはどうしようもない。

 ギルド長は俺たちにこんな話を聞かせてどうするつもりなのか。


「コイツのしたことのせいで問題に巻き込まれるなんてアタシはごめんよ。アンタが原因なんだからアンタがなんとかしなさいよ」

「そんなこと言わずに事態が鎮静化するまで一緒に頑張ろうよ、ノエルちゃん」


 ノエルは協力してくれそうにないし、本当に、どうすればいいのだろうか……。

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