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それっていったい何の話し?

 リカルドの街へと向かう大量の馬車が並ぶ、長蛇の列。

 とりあえず、俺たちもこの列に並ぶべきなんだろうか?

 それともギルド長の方から兵士たちに話が通っていて名前を告げれば列を無視して街中に入れるように手配されていたりとかするのだろうか?


 他国の王女であるシフォンがいれば優先して入れてもらえたんだろうが、今はいないからな。

 もし並んで入ることになった場合、この列の長さだと街に入るまでに何時間かかることか……。


「私が行って事情を聴いてくるから、トールとノエルちゃんはここで少し待ってて」

「それならアタシとソイツはそこに隠れておくわ」

「うん、わかった!」


 まぁ、全員で話を聞きに行く必要もないからな。

 フィナンシェが聞いてきてくれるというなら俺も異論はない……が、しかし、残された俺たちはどうして隠れなければいけないのだろうか?

 もう少し進めば列の最後尾に並べる位置まで行けるのだから、俺たちはそこまで進んで列に並んで待っていればいいと思うのだが……。


『フィナンシェ一人で聞き込みに行き、我等はここで待機か』

《ああ。今聞いた通りそういうことになったんだが、おかしいよな? どうしてフィナンシェ一人だけを行かせて俺たちはここで待機なんだ? それもコソコソと隠れるようにして》

『いや、そう不思議でもない。思い出してもみろ、我等は緊急事態の対処のために呼び戻されたのだぞ? 街が健在ということは裏で事態が動いている可能性が高いということだ。ならば、敵からの監視や襲撃を警戒するのは当然だろう』

《……つまり、テッドの言う敵とやらが本当にいたとして、この近辺で名前と顔が売れてしまっている俺たちはその敵から警戒されている可能性があるということか? だから不用意に近づくことはせず、まずは様子見でフィナンシェが街に近づいたと?》

『そういうことだ』


 なるほど。

 それならフィナンシェが俺たちにここで待つように言ってきたことにもノエルが幾本かの木の陰に隠れようと言ってきたことにも納得ができる。

 もし敵とやらが実在していて俺たちの帰還を警戒しているのだとしたら、まだ街からはそこそこの距離があるこの場所に隠れ様子を窺うというのが正しい選択なのだろう。

 俺としては街に入るまでは危険もないだろうから早く街に入るためにも列に並んだ方が良いのではないかなどと安易に考えてしまったが、フィナンシェやノエルはすでに危険な場所に踏み入っているかもしれないと考え警戒したと。

 いや、もしかしたらフィナンシェたちはもっとずっとまえから警戒し、観察を行っていたのかもしれない。


 これが、俺とフィナンシェたちとの経験の差か。


 テッドに言われるまで二人の意図に気づけなかったというのは情けないが、だからこそまだまだ学ぶべきことがたくさんあるということなのだろう。


《もっと頑張らないとな》

『よくわからんが、志を高くもつのはいいことだと思うぞ』


 俺のためにも、パーティのためにも、俺は多くのことを二人から学び、少しでも二人に追いつかなくてはならない。

 そのためにも、とにかく今は俺も警戒を強め列や街の様子を窺っておかなくては。

 少しでも不審な点があったらすぐにノエルやテッドに知らせた方がいいだろ――


「トール、ノエルちゃん、確認してきたよ! あのたくさんの馬車については街に入ってからの説明で、街には今すぐ入れるって!」


 ――う?


 …………予想以上に早いお戻りだな。


「わかったわ。さ、アンタもぼさっとしてないでさっさと行くわよ」

「あ、ああ」


 戻ってくるのが早すぎて、不審な点を捜す時間もなかった……。






「それでは、冒険者ギルドにてギルド長がお待ちしておりますので」

「はい、わかりました」


 商人やどう見ても貴族といった風貌の者たちの横を素通りし、街中へ。

 案内の兵士たちがついていてくれたとはいえ、貴族たちよりも優先されて街に入るというのは少し緊張したな。

 何事もなくすんなりと街に入れてよかった。


「じゃ、冒険者ギルドに行きましょ」

「そうだな」

「うん!」


 それと気になることが一つ。

 二人は凄く気を抜いているように見えるが、敵とやらへの警戒はもういいのだろうか?

 街に入るときはどのみち街には入らないといけなかった上に二人が行こうと言っていたから普通に街道を歩いて普通に街に入ったが、裏で何者かが動いているとするのなら真に警戒すべきは街の外ではなく中なのではないのだろうか。


 ……いや、だからこそのこの自然体か。

 敵がギルド長から俺たちに伝言が届けられたことを知らないのであれば街に戻ってきて早々周囲を警戒している俺たち(ヤツ)を見て不審に思わないはずがない。

 もし伝言のことを知っていたとしても、俺たちが警戒している様子を見せなければ伝言の内容は敵とやら(自分たち)とは関係のないものだったと判断……あるいは、俺たちが敵とやら(自分たち)のことを知っていて油断を誘うためにわざと隙を作っていると思ってくれる、か?


 フィナンシェたちの考えを正確に読み取れているとは思えないが、とりあえずは俺も普通に気楽にしていた方がよさそうだな。

 久しぶりの帰還でもあるし、今はこのリカルドの街の雰囲気を楽しんでおこう。






 街に入ってから十数分。

 久しぶりのリカルドの街並みを堪能し、歩き、久しぶりの冒険者ギルド、久しぶりのギルド長室。


 俺たちが帰還したことはすでに知らされていたのか、待っていたと言わんばかりのギルド長から開口一番。


「トール。お前、すごいことをしてくれたな? 問題となった工房主も呼ばせに行かせたから、その工房主が来るまで少し待ってろ」


 語られたのは少し待てという言葉と身に覚えのない内容。


 てっきりギルド長室に入ってすぐ緊急事態の内容について語られるものだとばかり思っていたのに待ってろとは、それにすごいことや工房主とはいったい……?


 ギルド長はいったい、何の話をしているのだろうか?

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