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リカルドの街の長い蛇

 届けられた伝言。

 急ぐ旅路。


 緊急事態。至急帰還せよ。


 そんな旨の報せに従い移動すること七日。

 ノエルの魔術で移動速度を上げ、移動時間を延ばし、移動距離を稼いだおかげで通常なら帰還までに十日以上はかかる距離の八割ほどを予定よりも早く走破することができたが、完全な走破まではあと一~二日はかかる。

 そして、そんな距離まで近づいたというのにこの町でもリカルドの街の緊急事態に関する情報は一切なし。

 ギルド長がわざわざ短い伝言を送り、その緊急事態の詳細すら語られていないような内容の伝言をブルークロップ王国王太子ラーゼの護衛騎士が届けにきたことから何か大きな事件が起こっていることは間違いないと思うんだが、その事件の内容がまったく掴めない。

 さすがにこれは、俺でもおかしいと思う。

 事が起こってからおそらく二十日以上が経過しているというのにリカルドの街から馬で四日もあれば確実に辿り着ける距離にあるこの町にも緊急事態の情報が来ていないというのは考えにくい。

 そうなると、今度は緊急事態というのが誤報だった可能性や何かがあって情報がここまで届いていない可能性、町まで情報は届いているがどこかでその情報が止められ町民には知らされていない可能性なんかが考えられるが……ラーゼの護衛騎士が伝言を伝えにきたことから誤報の可能性はまず排除していいし、ギルド長がそんな失敗をするとも思えない。ということは残りの二つかはたまた別の理由か……。


 ……ダメだな。俺の頭ではここまでが限界だ。

 あとはフィナンシェやノエルに任せ、俺は何か気づいたことがあれば発言する程度にとどめた方がよさそうだな。


「これ以上聞き込んでも意味はなさそうね。宿に行くわよ」

「うん! しっかり身体を休めておかないとね!」


 とりあえずこの町民たちからの聞き込みも終わりのようだし、宿に入ったら俺もしっかりと身体を休めておこう。






「やっぱり、この町でも何も情報を得られなかったね」

「そうね。ここまで近づいても何の情報も出回ってないってことは表じゃなく裏で何かが起こっていると考えるべきね」


 宿部屋に入って早々。

 荷物を置くと、フィナンシェが大量に買い込んだ食べ物や飲み物が置かれたテーブルを前に二人が聞き込みの感想を言い始める。

 しかし……。


「裏、というのはどういうことだ?」


 表じゃなく裏というのはどういう意味なのか。

 その言葉の意図が上手く掴めない。


「魔物や災害によって起こされた事態じゃなくて、人為的に起こされた緊急事態の可能性が高いということよ。つまり、裏で糸を引いている人物や組織がいるかもしれないってことね」


 どう考えても異常事態だからだろう。

 普段とは違い、俺が物を知らないことを茶化すこともせずに真剣な表情でノエルが答えてくれる。


 要するに、事態が明るみに出ていないのは魔物が暴れたとか災害が起きて街がどうこうなったとかではなく、影でコソコソと動いている者たちが引き起こした事態だからということだろうか?

 派手に事が起こったわけではないから関係のない者や知らされていない者たちは何かが起こっていると気づくこともなく、あるいはもし気づきそうになってもその人物や組織に目をつけられ口を封じられてしまうと……おそらくはそういうことなのだろうな。


「だが、それならどうしてギルド長は俺たちを呼び戻したんだ? 人間が相手なら俺たちよりももっと適任な者がいるんじゃないか?」


 経験豊富で実力もあるフィナンシェやノエルはともかくとして、俺は対人経験もこの世界に来てからの数回しかなく、ましてや裏で動いている人物や組織に対して何かを行ったことなど一度もない。

 それに、俺とテッドの力は人に対してつかうには大きすぎるとギルド長も認識しているはずだ。

 その認識自体はただの勘違いでしかないが、それでも裏でコソコソとしている人物を相手に俺の力をつかうのは派手すぎるし街への被害も甚大なものになるとわからないはずがない。

 なにより、人間が相手となると交渉などの必要が出てくるかもしれない。

 ギルド長が本当に必要としているのが俺やテッドではなくフィナンシェやノエルの力なんだとしても、そんな大事なことを冒険者に頼むとは思えないんだが……。


「さあ? 今は少しでも人手が欲しい状況なんじゃないかしら?」

「こうなったらとにかく、行ってみるしかないよね!」


 まぁ、フィナンシェたちにも原因が想像できないというのならこれ以上考えていても仕方ないか。

 フィナンシェの言う通り、とにかく行って確かめるしかないな――






 ――と、街に着いてすぐ事態に対処しなくてはいけない可能性を考え強行軍はなし。

 夜はしっかりと宿等で休むようにしながら移動を続け、伝言を受け取ってから八日と半日強。


「やっとリカルドの街が見えてきたが……なんだ、これは?」


 目につくのはリカルドの街へと入ろうとしているズラリと長い馬車の列。

 貴族のモノと思われる立派な馬車から商人のモノと思われる簡素な馬車までいくつもの馬車がリカルドの街に存在するすべての入口から伸びるようにして続く長蛇の列をつくり、夜通し並んでいる者もいるのか周囲にはいくつもの野営の跡。


「思っていたのとは随分と様子がちがうわね」

「街の中も変わったことは何もなさそうだけど、もしかしてこれが緊急事態なのかな?」


 ノエルも、ノエルに浮遊魔術で浮かしてもらい街中を一望したフィナンシェも疑問の声を上げている。

 実際、その言葉通り、今日ここに来るまでに予想してきたコソコソと動く何者かの影など見ることもできず、目に入ってくる光景はむしろド派手。

 しかも、並んでいる者たちはどこか息巻いているようにも見えるが悪だくみをしているような気配はほとんど感じられない。

 この数に対応するためか、街の外にまで出て列の整理や馬車の確認を行っている大量の兵士たちの様子にも焦ったものは感じられないし……さすがにこの列と緊急事態は無関係であるとは思うが、もしもこの馬車の列がギルド長の言っていた緊急事態に関係しているのだとしたら、街中ではいったい何が起こっているというのだろうか?

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