テッドの気まぐれ
街中が寝静まった夜。
ぐっすり寝すぎて寝坊するなどということもなく。
「おはよう。これで全員揃ったわね。……じゃあ、行くわよ」
旅慣れしているフィナンシェはもちろん護衛騎士やテッドといったしっかりとした者がついてくれている俺やシフォンも忘れ物などすることなく。
無事に全員空を飛び、おそらくは誰にも見つかることなく街壁を越える。
その後はノエルが張った結界の中にいた馬たちにフィナンシェたちが跨り、いつものようにフィナンシェの乗る馬と縄で繋いでもらった俺とテッドは手に持ったメルロが馬に引っ張られる勢いにつられて空中飛行。
十数日ぶりの懐かしい感覚に腕が悲鳴を上げること数時間。
夜が明ける時間になりやっとのことで休憩となったことにホッとしつつ朝食を終えればすぐにまた移動の開始。
腕は慣れたのか、麻痺したのか。もうまったく痛くないわけなんだが……。
《おい、テッド。飛行中に肩に乗るのはやめろ。落ちたら危ないだろ》
いつもはかばんの中で大人しくしているテッドが今日はなぜか上機嫌で肩の上にいるのが怖い。
今日は早く起き街を出なければいけなかったせいで寝起きには軽食しか食べられなかったからだろうか?
さっき朝食をしっかりと摂ったあたりからやけに機嫌がいいような……いや、そもそもテッドは軽食後もかばんの中に入れておいた食べ物を自由に食べていたようだし、朝食はあまり関係ないか。
とりあえず、いつテッドが振り落とされてしまうか気が気でないから早くかばんの中に戻ってくれないだろうか?
《テッド? ……テッド?》
どうしたのだろうか?
返事がない。
《おいテッド、どうかしたか? おい……》
『なんでもない。もう戻る』
やっと返事をしたと思ったらかばんの中へと戻っていくテッド。
おそらくはただ風に当たりたかっただけなんだろうが、ヒヤヒヤするから思いつきでそういうことをするのはやめてほしい。
今みたいなことはしっかりと安全を確保した上で行うべきことだ。
間違っても、何の保険もなしにやっていいことではない。
……まぁとりあえず、また同じようなことがあっても困るし、今後浮遊魔術で移動するときはテッドにも命綱をつけておくか。
それとそのまえに、今すぐできることとしてテッドに注意もしておかないとな。
《テッド、不用意が過ぎるぞ。一応お前にも浮遊魔術がかけられているとはいえ、もっと気をつけろ。次からはお前のカラダにも縄を括りつけるからな》
あくまでもノエルの浮遊魔術は墜落防止の保険。
移動自体はメルロや俺の身体に巻き付けた縄と繋がっている馬に頼っているのだからもしもさっきテッドが俺の肩から離れでもしていたらテッドをその場に置いて俺たちだけで先に進むことになってしまっていた。
しかも、テッドは魔力による怯えを除けばほぼ無防備。
移動も遅く、力も弱い。子どもに数回本気で殴られただけでも死んでしまう可能性があるのだから、できるだけ一匹になってしまうかもしれないような真似はしないでほしい。
というか、テッドならそのくらい言うまでもなく理解しているはずなんだが……。
『言われずともわかっている』
だろうな……。
《わかっているならやらないでくれ》
『そうしたい気分だったのだ』
「はぁ……」
テッドの言い草に対しため息を一つ。
こういった生命にかかわるような行動を気分で自由にされてはこっちはたまったものではないが、これ以上は何を言っても無駄みたいだな。
《とにかく、危険なことをするときは事前に一声かけてくれ》
『努力しよう』
できれば努力ではなく遵守してほしい。
とはいえ、今はこれでいいか。
とりあえずは苦言を呈し次からは一声かけてから行動してくれとまで言い含めたのだから、しばらくはテッドも無茶なことはしないだろう。たぶん。