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土塊撤去完了

 何かを倒してから十四日。

 サーッと砂が流れるような音を立てながら何かの残していった土塊の最後の一片が崩れ去る。


「よし、これで終了ね! 流石アタシ! 完璧な仕事だわ!!」


 それと同時に聞こえてくる、ノエルの自画自賛。

 さらに続いて、


「うおおおおお! やっと終わったああああ!!」

「これで休めるううう!」

「無事に終わってよかったあああ!」


「やりましたなノエル殿!」

「撤去完了には三十日以上かかるかと思っていましたが、まさかこんなに早く終わるとは」

「流石は【神童】殿だ。いや、噂以上の実力でしたな」


 労働から解放され歓声を上げる兵士や手伝いの冒険者たちと何かの残した巨大な土塊の撤去完了を見届けに来た役人たちの声。


 次々に聞こえてくる自分を褒め称える声に気を良くしたのだろう。


「そうよ! アタシがノエル! いずれは世界一の魔術師になる、ノエル様よ!!」


 空に向かって顔を上げれば浮遊魔術をつかって目立つ位置に浮かびつつ風属性魔術で自身の声を拡大しているノエルの姿。

 ノエルから離れた位置にいるせいで顔は見えづらいが、表情を確認するまでもない。あれは見るからに調子にのっている。


「ノ・エ・ル! ノ・エ・ル! ノ・エ・ル!!」


 しかも誰が言い出したのか、いつ始まったのか、気づけばいつのまにかその場にいる全員で声を合わせてのノエルコール。


「いいわねこれ。もっとアタシを称えなさい!」


「ノ・エ・ル!! ノ・エ・ル!! ノ・エ・ル!!」


 一致団結。

 兵士も冒険者も役人も関係なく。立場を超えての一糸乱れぬ声援のせいでノエルの上り調子は止まるところを知らず、さらにそれに呼応するように声援も白熱していく。


 調子にのるノエルとそのノエルを称える声援。

 その相乗効果は計り知れず、一体いつまで続くのかすら予想もできない……というか、本当になんなのだろうか、これは。


「今日中に作業が終わると聞いて来てみれば、俺たちはいったい何を見せられているんだ?」

「すごいよね、ノエルちゃん! これで目標に一歩近づいたよね!」

「何を言っているのだトール殿。あの正体不明の魔物の足止めにその魔物の残した危険物の撤去、何度かあった魔湧き中の魔物の激減もノエル殿のおかげだからな。実際、ノエル殿の功績はもっと褒め称えられて然るべきものだぞ」

「ノエルさん、すごい……っ」


 同意を得られるかと思って横にいたフィナンシェたちに問いかけてみれば返ってきたのは呆れや驚きではなく少し離れた位置でノエルに向かって声援を送っている者たちと同様にノエルを褒め称える内容の声であるし……最後に発言をしたシフォンにいたっては俺の疑問の声を聞いていたのかいないのか心ここにあらずといった様子、憧憬のような眼差しでノエルを見つめているようにも見える。


「いや、まぁ。テトラの言っていることもわからなくはないが……」


 それにしたってこれはやりすぎというか盛り上がりすぎではないだろうか。

 あの場でノエルに声援を送っている者たちはノエルの機嫌を損ねないようにあえてノエルの演説にのってノエルを褒め称えているというのならまだわかるが、この声を聞いている限りでは無理やり言わされているといった感じではなく本心からの声援であるみたいだし…………あまり深く考えない方がいいかもしれないな。

 たしかに、テトラの言ったように功績だけを羅列すればノエルはあれだけの称賛を受けてもおかしくない行いをしている。

 何かの残した土塊をラールに被害を出すことなく撤去できたのも間違いなくノエルがいたおかげだろう。

 そう考えれば、あそこにいる者たちがノエルを褒め称えたくなる気持ちもわからなくはない。

 俺がそう思えないのは普段からノエルの実力の高さを目の当たりにしているせいでノエルならそのくらいできて当然という気持ちがあるのと、あとは単純に普段の物言いのせいで褒め称えるという段階まで心が揺り動かされないからだろうな。

 なにかと突っかかられて面倒な思いをしているせいで「凄い」と褒めることには抵抗がなくても、『褒め称える』ということになるとなにか違うような気がしてしまう。

 きっと、俺も何も知らずにこの要塞都市で初めてノエルの実力を目の当たりにしたのであればあそこにいる人たちのようにノエルに向かって声援を送っていたのだろう。


 ……とりあえず、この雰囲気にはついていけそうにないしそろそろこの場を離れるか。


「フィナンシェ、シフォン。俺はちょっとラールの武器屋でも覗いてくる。二人とテトラたちはこのままノエルのことでも見といてやってくれ」


 あのままだと調子にのって何かやらかしそうだからな。


「うん。じゃあ、またあとで」

「はい、トールさん」


 二人とテトラたちが見ていてくれるなら、ノエルもそこまで暴走することにはならないだろう。

 これでこの場を離れても大丈夫だな。


 ……それにしても、一応最後まで油断はできないと思って土塊の完全撤去を見届けてはみたが、何かの中からカーベや魔物たちのカードが出てくることはなかったし、土塊の調査結果もおかしな点はなし。


 結局、何かの正体はわからずじまいだったな。

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