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あれから四日後の要塞都市

 魔湧きが終わりラール目前まで何かが侵攻してきたのももう四日前。

 フィナンシェたちや他の兵士や冒険者たちが頑張ったおかげでどの街も大した被害はなかったようだし、何かの残していった土塊もノエルの監督のもと着実に小さく切り崩されていっている。

 何かの通った跡やダンジョンのあった場所に出来てしまった巨大な穴や傷痕もなんとか問題が出ない程度には修繕されているみたいだし、ダンジョンの存在がなくなったこと以外は概ね元通りといったところだろうか。

 少なくても、こうして街を見てまわっている分には何も問題は見られない。

 もともと魔湧きに備えるために造られた街だからか建物が堅牢そうだったりところどころに魔物除けと思われる道具が置いてあったり、武器を量産するために鍛冶場が多く大きかったり街壁のすぐ内側は兵士の詰所や櫓ばかりだったりと他の町や村とは趣の違った部分もあるが街中の生活としてはこれまでに行った街とそう変わるものでもないし、無事に魔湧きが終了したおかげで活気にも溢れている。


 観光……といったか。

 たまにはこうしてブラブラと街中を歩いてみるのも悪くない。


 魔湧き中にフィナンシェを襲ってきたという二人組も結局は金で雇われただけのただのゴロツキだったし、四日たっても何も起こらないということはおそらくもうこの都市に俺たちを狙っているようなカードコレクターはいないのだろうからな。

 俺とテッドを襲った二人組の男の方もまだ見つかっていないというのは少し気になりもするが、まぁあれだけの数の魔物の通り道にいたのだ。すぐに見つからないような場所に移動していたり、あるいは仲間である結界つかいの女に回収されたりでもしてしまったのだろう。

 なんにせよ、男がカードから戻されていたとしてもすぐに俺たちを襲ってくる可能性は低い。

 危険がないというのなら精一杯楽しまなくてはな。


《お、テッド。向こうで早速このあいだの魔湧きのことが詩にされてるぞ》

『そんなことよりも向こうの露店で食べたことのない料理が売られている。早く買いに行くぞ』


 狙われていることを忘れ、戦いのことを忘れ、何の目的もなく適当に街をぶらつく。

 たったそれだけのことがやけに新鮮で面白い。

 ここ数十日は魔湧きに備え気を張っていることが多かったせいか何とはなしにただ漫然と過ぎていくこの時間がたまらなく愛おしく、大切なものに感じられる。


「おっちゃん、その料理を三つくれ」

「あいよ、すかポン焼き三つだな! 銅貨六枚だ……って、ん? お前さんもしかしていま噂の【ヒュドラ殺し】じゃねぇか? ほら、あそこの詩人の詩に登場する……」

「え? ああたしかに、そう呼ばれることもあ――」

「おお、やっぱりか! そうかそうか、アンタがこの要塞都市を救ってくれた英雄か! そんならこっちの二つはタダでいいぜ! 本当ならもう一つも金なんて要らねぇっつって食べてもらいてぇんだが、こっちにも生活ってもんがあるからな。悪ぃがこれ以上はまけらんねぇぞ! 三つで銅貨二枚だ!」

「……じゃあ遠慮なく。銅貨二枚で」

「おう! 救ってくれてありがとな! 今の俺たちがあるのはアンタとその仲間のおかげだからな! アンタには感謝してもしきれねぇぜ! もしウチの味が気に入ってくれたならまた来いよ! そんときもまたサービスしてやるから!」


 本心から感謝されていることと、本当に危険は去ったのだということを感じられるからだろうか?

 気分が昂っているのかやけに饒舌な露店のおっちゃんとのやりとりにもどこか心が落ち着き、心地よい。

 こうして笑顔を向けられただけでも、頑張ってよかったと思える。

 ……とはいっても、露店の前を離れても未だに感謝の声が聞こえてくるのは目立ってしまって少し恥ずかしいが。

 チラリと後ろを振り返れば「【ヒュドラ殺し】が買ったやつ俺にも一つくれ!」「こっちは三つ!」「私には四つちょうだい!!」というような声と一緒に露店が見えなくなるほど大勢の人が露店の周りに集まってもいるし…………もしかして、純粋な感謝だけでなく俺が買ったと知れれば店が繁盛するかもという打算もあったのだろうか?


「まぁ、別にいいか。損したわけでもないしな」


 むしろ銅貨四枚分得していることを考えれば俺もおっちゃんもどっちも得をしている。

 目立ってしまうことにしても、この要塞都市にいるあいだは仕方ないだろうし、目くじらを立てるほどのことではない。


 誰も損をせず、みんな幸せ。

 何も問題はない。


 というか、そんなことよりも早くテッドにこれをやらないとな。

 焼き物のようだし、冷めてしまうまえに俺も早く食べてしまおう。


《ほら、テッド。すかポン焼き? とかいう食べ物だ。お前は二つな》

『ふむ。穀物と野菜を混ぜ合わせたもので肉を包み焼いているのか。美味そうだな』

《いつのまにそんな知識を……》


 人魔界にいた頃は料理のことなんて何もわからなかったはずなのに随分と詳しくなったものだな。

 これがフィナンシェと食べ歩きをしていた成果だとでもいうのだろうか?

 この調子だと、どんどん食にかかる費用と苦労が嵩んでいきそうだな……。 


「あ、美味い」

『そうだな。これは美味い』

「饅頭、だったか? 少しあれに似た感じの食い物だな」

『そうかもしれんな。例えるなら、肉詰め饅頭といったところか』

「上手いな」

『ああ、美味い』


 ま、金はまだあるし、テッドの食費に関してはそこまで気にしなくてもいいか。

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