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スライムとは

 本日3話目。

 懐中時計を信じるなら閉じ込められてから五日が経った。


 懐中時計というのは地球界から持ち込まれた時間を知るための道具を複製したものだ。これがあれば日の光の入らない場所でも時刻を知ることができる。そして懐中時計が”世界渡り”の影響で壊れていないのであればここに来て五日以上が経過している。


 もっとも、この世界での一日が人魔界の一日と同じ時間だったらの場合だが。


「腹減ったなあ」


 地面に寝そべりながらそう呟く。


 ここに落ちてきた初日は脱出するために色々頑張ってもみたが成果はなかった。壁は多少削れたものの何の変化も見られず、テッドの探索でも何も発見できなかったのだ。それ以降は少しでも体力の消耗を抑えるためにほとんど動かないでいる。

 食べ物に関しても木の実は昨日尽き、干し肉と薬草をかじることでなんとか飢えをしのいでいる状態だ。水は魔法をつかって補充していたのだがそろそろ魔法をつかうのもきつくなってきた。今日以降はいま残っている水でなんとかするしかなさそうだ。


『穴も開かんな』


 そう。俺たちが落ちてきて以降、またどこかに穴が開くんじゃないかと思って壁や天井に気を配っているのだが全くそんな気配はない。脱出のチャンスが訪れた時に備えて体力を温存しているがもしかしたら体力を温存したところでちょっと延命されるくらいの意味しか持たないのかもしれない。


「俺が“世界渡り”に近づかなければこんなことには。巻き込んじまってごめんな、テッド」

『お前と契約したとき、なにがあろうとお前と共にいることを誓った。謝る必要はない』

「テッド。お前、いいやつだな」

『我ほどできたスライムはいないぞ』

「そうだな」


 テッドと出会ったのは五年前。人魔界では八歳を過ぎた頃から従魔契約を行うことを許可され、十二歳までには最低でも一匹の魔物と従魔契約を結ばなくてはならない。従魔がいることで一人前の人間として認められるのだ。


 従魔契約とは人間と魔物の間で結ばれる魔法契約だ。この契約を行うことによるメリットは三つ。

 契約者との魔力の共有。

 契約者との念話。

 契約者の位置情報の感知。


 つまり、多くの魔物や強い魔物と契約するほど使用可能な魔力総量が増加し、本来会話不可能な魔物とも意思疎通が可能となり、契約によって生まれた契約者との魔力的なつながり――パスをを探ることで契約者の居る方向を知ることができるようになる。


 デメリットは特にない。

 従魔と別々に暮らし必要な時だけ念話で従魔を呼び出す場合は契約前と変わらない生活となるし、従魔と共に生活する場合でも従魔のエサを用意する必要は生じるが普通は従魔がいると収入が増えるため余程大食いな魔物と契約でもしない限り問題にはならない。

 強いて挙げるなら強い魔物や人間に友好的でない魔物と契約しようとした際には契約前に命の危険が伴うことだろうか。


 従魔契約によって契約可能な魔物や契約できる数の上限は一人一人違うと言われている。いまのところ、契約できる魔物の数の上限については契約した魔物の数が上限に達するまで知る方法はないとされており、契約可能な魔物については生まれた瞬間に決定されているのではないかと言われている。

 基本的には魔物の種族ごとにその人との相性が決まっているらしい。

 例えば一匹でもグリフォンと契約を結べた者は他のグリフォンとも契約を結べる可能性が高く、逆に一匹のグリフォンとすら契約を結べない者は他のグリフォンとも契約を結べない可能性が高い。ちなみにスライムだけは誰とでも契約を結べることが判明している。


 そして、俺はテッド以外と契約を結んだことはない。スライム以外の魔物と契約しようとしたこともあったが一度も成功しなかった。おそらく、俺はスライム以外の種族と契約できない。テッド以外のスライムとも契約を結べそうな感じはしたがテッド以外と契約する気にはなれなかった。

 最弱のスライムとしか契約できないことで馬鹿にされることも多かったがテッドはいいやつだし一緒にいて楽しい。馬鹿にされるのは辛かったがテッドと契約できたことは誇っていた。


 そもそもテッドと出会ったのは俺が十歳になった日だ。孤児院規則で十歳になるまで従魔契約を許可されていなかった俺はやっと俺も近所の子たちのように従魔を手に入れられると大はしゃぎし、従魔探しついでに木の実を拾うため行き慣れた森へ行ったときのこと「あー! やっぱり人がいるよ!」


「誰だ!」


 思い出に浸っていたところを邪魔されて思わず叫んでしまった。

 これからというところで謎の女の声に遮られてしまったのだ。叫んでしまっても仕方ないだろう。


「私はフィナンシェ・デラ・ウェア。リカルドの街で冒険者やってます!」


 壁に開いた穴の向こうに姿を見せた頭の後ろで束ねられた金髪にはちみつ色の目を携えた俺と同い年くらいの少女がそう自己紹介する。髪を後ろで束ねるのはたしかポニーテールとかいう髪型だったか。少女の髪色は俺と同じはずだが俺の髪のように傷んでくすんだ色じゃない。魔光石によって照らされた髪は透き通るように明るく綺麗な色をしている。

 金眼の人間なんて初めて見た。人魔界では俺のような金髪碧眼の人間が多かったがこの世界ではそうではないのかもしれない。

 背丈は俺より五センチ低いくらいだろうか。寝そべった状態での目測だから間違ってるかもしれんがまぁ大体そのくらいの身長だろう。

 身に着けているのは、麻の服に革で作られた靴、革鎧、剣と小さな盾。俺の格好と大差ないな。


「俺はトールだ。そこにいるスライムは俺の友達のテッド」


 俺も横たわったままで自己紹介を返す。挨拶は人間関係の基本だと孤児院の院長に教えられた。腕に力が入らず上手く身体を起こせなかったために多少珍妙な体勢をしてしまっているがまぁ問題ないだろう。


「へー。トールにテッドね。って、スライム!?」


 少女がテッドに目を向けた瞬間、少女の目が大きく見開かれ見るからに動揺し始めた。


「ああ。スライムだ」

「なんで落ち着いてるの!? 早く逃げないと!」


 どういうことだ?

 この世界にもスライムは存在しているみたいだが、スライムを見て慌てている?


「大丈夫だ。テッドは友達だ」

「そう! 友達だよね! だから早く逃げないと! って友達!?」

「ああ。さっきからそう言っている」


 壁に開いた穴の向こうで慌てる女と横になったままそれを見つめる俺。傍らにはスライムが一匹。なんだこの状況。

 というか、この女うるさいな。スライムを見て慌てているのは滑稽で面白いが不安にもなってきたぞ。

 もしかしてスライムはこっちの世界では忌避されているんじゃないか?

 テッドが迫害されるかもしれないならこの世界での生き方をしっかり考えなくてはいけないな。


「おい、女!」

「は、はい! って私は女じゃなくてフィナンシェ・デラ・ウェア!」

「そうか。じゃあフィナンシェ・デラ・ウェアに訊こう。スライムとはどういう存在だ」

「え? スライムと言えば天敵がいないほど強力な、世界最強の生物でしょ?」


 ……え、スライムが世界最強?

 次回更新は7月28日0時予定。たぶん以降の投稿も0時頃に行うことが多くなると思います。

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