頭に浮かぶ最悪の結末
意識を取り戻して直後テッドへと確認した何かの討伐成否。
『何かなら――』
「…………え?」
その確認に対するテッドからの返事に我が目を疑い、耳を疑い……。
「テッド……お前いま、なんて言った?」
次いで口から出てくる言葉もどこかまだぎこちなく。
しかし、目の前の現実はテッドから聞いた内容とたしかに合致している。
そもそもテッドが俺に嘘を言うはずもなく、言う意味もない。
だが、しかし、本当にそんなことがありえるのだろうか……?
『寝ぼけているのか? 仕方ない。もう一度だけ言うぞ』
こんな状況でふざけるわけもないし、ここで俺に嘘を吐いて得られるものも何もないのだからテッドの言ったことは本当のことなのだろう。
とはいえ、それが事実だとすると、それはあまりにも……。
そう考えたところでもう一度、テッドが同じことを告げてくる。
『何かならいまフィナンシェが核を砕いたばかりだ。まだ結果はわからんと、そう言ったのだ。今度はしっかりと理解できたか?』
何かならいまフィナンシェが砕いたばかり、結果はわからん……テッドが告げてきたのは、間違いなく先ほどと同じ内容。二度聞いても、内容に変化はない。
ということは……。
《俺が意識を失ってから目が覚めるまで、まだほんの数秒程度しか経っていないということか?》
『そうなるな』
興味もないといった感じで返ってくるテッドからの生返事。
疲れて眠ったわけだしもっと長く意識を失っていたようにも思うが、これは予想外。
いつもなら大きな出来事のあとは半日以上眠り続けていたりしたような気がするが、今回は随分と早く目が覚めてくれたらしいな。
――と納得しかけたが、やはりおかしい。
俺は何かを止めるために無茶をした反動で意識を失い、夢まで見たのだ。
それがたった数秒で意識を取り戻し、さらにはその短い時間の中で確実に意識を失っていた時間以上の時間を要する夢をあれだけ鮮明に見るなど、いくらテッドの言ったこととはいえにわかには信じられない。
だが、何かの顔の前に向けた視線の先、今も何かの首の正面を地面めがけ落下中のフィナンシェとそのフィナンシェのそばに舞っている何かの核の破片と思われるいくつもの鉄片がテッドの言葉は真実だと裏付け、訴えてきてくれている。
日の傾き具合に関しても……そもそも意識を失う直前の日の傾き具合を覚えていないから単純に信用はできないが、なんとなく、現在の傾き具合とフィナンシェが核を破壊したときの傾き具合に違いはないように思える。
状況的には、テッドの言っていることは正しい。
しかし、意識を失ってから見た夢の中で経過した時間と、意識を失ってから目覚めるまでに経過した時間が一致しない。
夢の中で数十秒から数分は経過していたように思うのに、現実では経過していたとしてもほんの二~三秒。
さすがにこれは大きくかけ離れすぎてしまている。
夢を見たというのは単なる気のせいで実際には夢など見ていなかったというのであれば理解できないこともないが、実際にフィナンシェが核を破壊したときと夢だと思われる光景の中にいたときとでは俺の発言なんかの細かい部分に違いがあったような気がするし……あるいは最初にフィナンシェが核を破壊したときにはもう俺は夢の中にいて、現実でフィナンシェが核を破壊した音を聞いた耳と頭が夢の中に核が破壊される瞬間の光景を反映・再現したとかか?
フィナンシェが核を破壊されるまえから……それこそ数十秒以上まえから寝ていたというのであれば、夢の中で経過した時間と意識を失ってから目覚めるまでのあいだに現実で経過した時間がつりあわなくてもおかしくはない、というより、見事につりあいがとれる。
テッドの言ったことをなにか別の意味に捉えられないかと単語ごとに区切ったりしてみても他の解釈など一つも思い浮かばないしな。
やはり、テッドの言ったことは正しく事実なのだろう。
……などと、そんなことを考えている場合ではなかったのだろう。
『あ。……おい、フィナンシェが感知範囲から消えたぞ』
「……は?」
テッドの言葉を聞き急いで周囲を見回し、発見したフィナンシェの姿。
その位置は、遥か下方。
先ほどみたときは俺たちよりも高い位置にいて見上げるほどだったのに、今は視線を下げなければフィナンシェを確認することはできず……。
「そういえばさっき見たときも普通に落下を……まさかっ、浮遊魔術をかけられていないのか!?」
焦り、叫んだ言葉は真実なのだろう。
思い出すのはノエルの言葉と、核を破壊する直前までフィナンシェは浮遊魔術など必要のない何かの背の上で戦っていたということ。
『無理よ! もう魔力が残ってないわ!』
魔力が残ってない……もしこれが、今も落下中のフィナンシェに魔術を賭ける余裕もないほどなのだとしたら…………。
「まずい! 誰かフィナンシェを!」
そう叫んだ声は誰かに届いたのか、届かなかったのか。
フィナンシェは見る見るうちに地面へと近づいていき、そして――