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二つの功績

 ――時を遡ること三分前。


 まだ、『何か』ことアブソイーター六号が活動を停止する前。

 皆がラールへ向けて進行中の何かを注視し警戒している中、フィナンシェだけは別の場所へとその視線を向けていた。


(あそこだよね、きっと)


 そう思いつつ顔を向けた先にあるのは要塞都市三の街ユールの街壁。

 要塞都市を構成する四つの街の中で最も何かから遠い位置に存在するユール。その街壁上のある一点。

 そこから自分たちを観察するような視線を感じたフィナンシェは、その街壁の上へと意識を向けていた。

 しかし、ラールに向けて移動中の何かの上、それもユールとラールを結んだ延長線上を移動している何かの背の上からでは何かの上半身が邪魔でユールの街壁はよく見えない。


(ここからじゃよく見えないけど……そうだ! あの頭の上に登れば!)


 思いつくが早いか、フィナンシェは何かの頭部の上を目指し疾走し始める。


 トールは気がついていなかったが、トールが何かに魔力を流し込み始めてから七分弱。何かのカラダは、既に崩壊を始めていた。

 自身のカラダを脚の先から頭のてっぺんまで隈なく這いずり回られつつ自身にとって猛毒でしかないテッドの魔力を全身に拡散され続けた何かのカラダはところどころに亀裂が入り、場所によってはボロボロとカラダの表面を剥がれ落としながら前進。

 侵攻が止まることこそなかったもののトールの身体を犠牲にした策によって少しずつ確実に、目に見えるレベルで何かのカラダにダメージは通り、そんな亀裂が走り脆くなった何かの背の上をフィナンシェは駆け抜ける。

 そして、その勢いのまま何かの上半身に走った亀裂を足場に何かの頭上まで駆け上がる。

 無論、何かからの攻撃や泥人形の出現等もフィナンシェを妨害するかのように立ち塞がりはしたが、その攻撃や泥人形はテッドの魔力を流し込み続けるトールに対しての何かからの必死の抵抗。いわば、無差別攻撃。

 フィナンシェ目掛け飛んでくる攻撃や沈み込む足場、泥人形もすべてフィナンシェを狙って放たれたものではなく、フィナンシェの眼と足をもってすれば精細さの欠片もない無差別攻撃を避けることなど造作もなかった。

 そして――


「トール、もう街が!!」


 何かの頭の上。その場所まで一気に駆け登り開けた視界からその光景を確認し、驚き、急かされ、一刻も早く見たままの光景を伝えるべく叫んだフィナンシェの、最初の功績。

 フィナンシェの叫んだその声が、期せずしてその瞬間フィナンシェのすぐ正面を通り抜けていったトールの耳を打ち、トールの意識を覚醒させた。


 偶然にもトールの意識を呼び覚ますこととなったフィナンシェはおろかその声に起こされたことで行動を起こし何かを止めたトールですら知る由もないことだが、このときフィナンシェが声を上げなければトールが何かに自身のモノも含む全魔力を注ぎ込むこともなく、ラールはそのまま壊滅。場合によっては、シール、ユール、ナールまでもが壊滅に追い込まれることになっていた。

 しかし現実には何かはラールの手前、あと一歩のところで前進を停止しラールは一命をとりとめ、さらにはもはや全身に入り込んでしまったテッドの魔力から逃れるため体外へ排出されたばかりの何かの核も、運悪く頭上から飛び降りてきたフィナンシェの剣によって粉々に粉砕されてしまった。


 この核の粉砕こそが、この戦いにおけるフィナンシェの第二の功績。


 何かの口部分から吐き出されるようにして排出された瞬間トールが鉄塊のようなものと称し何かの核だと思い込んだソレは実のところ何かの核そのものではなく、何かの核を覆う正真正銘の、ただの鉄塊であった。


 本物の何かの核はその鉄塊の中に守られた正八面体の水晶。

 核が体外に排出されるまでの道中にかき集めたテッドの魔力に侵されていない部分をつかって作り出した鉄の球体に全体を守られ、さらには緩衝材としてその鉄球内に元の流動体のカラダを敷き詰めることで鉄球が地面に落下した際に核へと伝わる衝撃を和らげるように設計・変形していたカラダは並の実力者に壊せるようなものではなく、さらに、かき集めたカラダを鉄球に変質変形させている最中――まだ口から排出されたばかりで完全にカタチの出来上がっていなかったあのタイミングでなければ、消耗していたノエルたちの誰一人として何かの核を破壊することは叶わなかった。

 もしも何かがラシュナの地から逃げ延びることに成功していた場合確実に片手の指を超える数の国が亡ぶことになっていたことを考えれば、この戦いにおけるフィナンシェの第二の功績は内界における最大の功績であったといっても過言ではないだろう。


 しかしこれらのフィナンシェの功績はすべてユールから感じる視線を確かめようとしたがゆえの偶然の結果であり、奇跡のようなもの。


 では、アブソイーター六号が破壊されたとき、そんなスライムにも匹敵するほどの脅威へと変貌する危険性のあったアブソイーター六号の製作に関わり、自らの行動が原因でアブソイーター六号にトドメを刺すことになってしまったアブソイーター六号の監視兼観察を任されていた痩せぎすの男は何をしていたかというと――

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