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放り落ちる意識の中で

 今の魔力の全放出で何かを倒すことができたのだろうか?


 ズズンッと大きな音を響かせながら何かの進行が止まり、


「止まっ……た……?」


 誰かの息を呑むような声が耳に入ってきた瞬間。


「やった……のか?」


 喉から押し出されるようにしてその言葉が口から出てきた。が、その言葉に返事はなく……。


 押し寄せてくる疲労のせいでうっすらとしか見えない視界の中、何かの腰部分から見上げる何かの上半身はたしかに動きを止め、ピクリとも動かない。

 強風の影もなく足音も聞こえてこないことから、何かの動きが止まったことは間違いないだろう。

 しかし問題は、何かが活動を停止したかどうか。

 もし少しのあいだ動きが止まっただけというのなら未だ脅威が去ったことにはならないし、何かが動きを止めている今のうちに何かの核を見つけ破壊しなければまた再びこのデカブツが動き出すことになってしまう。

 チラリと後ろを振り返ればとうに限界を迎えていそうなシフォンの姿も目に入る。

 シフォンのことだから何かが止まるまではと自分の身を投げうち、限界を通り越してまで俺とテッドのことを回復し続けてくれていたのだろう。

 どう見てももう回復魔法をつかえる状態ではない。


 それに、俺と、おそらくテッドももう限界。

 フィナンシェたちはどんな状態かわからないが、少なくとも、もう一度何かに魔力を流し込めと言われてももう浄化魔法一回分ほどの魔力すら流し込める状態にはない。

 だが、何かが倒れるのを確認するまでは絶対に意識を手放すわけには……。


《テッド、何かの核は……?》

『待て、いま探して……見つけた。上へあがっていくぞ』

「上……?」

『我の魔力の及んでいない場所が上にしか残っていないのだろうな……いや、これは違うな。口から出るぞ』

「くち?」

『いいから早く誰かに伝えろ! 口から出るものを壊せ!』


「……っ、ノエル、口から出てくる核を壊せ!」

「無理よ! もう魔力が残ってないわ!」

「トール殿すまない! 我々ももう力が……!」

「じゃあ、どうすれば……っ」

「任せて!」


 もし今また何かが動き出しでもすれば、もう何かを止める手立てはないだろう。

 そう思って核の位置を突き止めようと訊いた言葉に返ってきたのは、核が何かの体内から放り出されそうだという驚愕の事実。

 そして、もう魔術や魔法はつかえないというノエルやテトラの焦りや悔恨が入り混じった言葉。


 口から出るかもしれないという何かの核。

 それが排出されたあと、そのまま地面に落ちて砕けてくれればいいがそうなるとは限らない。

 むしろ、自身の弱点であり要でもある核を無防備な状態で放り出すとは考えにくい。

 口から出てくる一瞬を逃したら、何かにもそのまま逃げられてしまうような予感がする……が、遠距離からの破壊は不可能。ノエルの魔力が切れかかっているいま、浮遊魔術なしであの高さまで近づける者もいない。


《動け、動け、動け……ッ!》


 それでも、せめてなにか一つでも自分にできることはないかと身体を動かそうとしてみるが、目に映る自分の身体はまるで意思の通っていない棒のよう。

 どれだけ力を込めようと力んでみてもやはり力は入らず、身体は動かない。


 しかしこのままでは……いったいどうすれば……ッ。


 そう思った刹那に聞こえた、「任せて!」という声。

 一秒にも満たない短い時の流れの中、焦燥と緊張の合間で揺れる頭に届いた声は神からの福音か。


「フィナンシェ!?」


 一体いつから気づいていたのか、いつから動いていたのか、どうやって登ったのか。

 いつのまにか何かの頭上まで登っていたフィナンシェが何かの額を強く蹴り宙へ舞う。


 そして――


『核が出たぞ』


 ――落下を始めたフィナンシェのすぐ前に飛び出してきた鉄塊のようなもの(何かの核)を、フィナンシェの剣が捉え、砕き割る。


 聞こえてくるのは、甲高い音を響かせ何かの核が割れる音。

 直後。


「倒し……た……?」


 ラールに到達する寸前動きを止めた何かの口から放り出された何かの核。

 その核が砕け散り落下していく光景を見ながら、力が抜け意識が薄れるような感覚の中そう言葉を残す。


 実際には、しっかりとトドメを刺せたのかどうかはまだ判明していない。

 実は核がなくとも何かが動くという可能性もなくはない。

 しかし、これまでの疲れやもう大丈夫だという謎の安心感がそうさせたのだろう。

 重くのしかかる疲労の中、どこか優しく包み込んでくれるかのような温かさを感じながら、何かが倒れるまではと保っていた意識は放り投げた石が地面に落ちるよりも簡単に深い眠りの中へと沈んでいった。

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