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渾身の力

 何かのカラダに糸でも巻きつけるかのような軌跡を残しながら、何かのカラダの周りを何週も何週も物凄い勢いでまわり続けていく俺とテッドとシフォンの身体。

 グルグルと何かのカラダの周囲を斜め上方向に進むようにして周回していき、何かの頂上まで辿り着けば今度は一気に下方向へ下降、かと思えば再び頭を目指して上昇をはじめ、今度は何かの馬の背部分をなぞるように横へと移動。

 息つく暇もなく、次はどの方向に向かって飛ぶのかと確認する間もなく、上下左右に自由に飛び回る身体はすべてノエル任せ。

 何かの体内に存在する魔力の流れを見て、魔力の動きが最も活発な場所の近くに俺たちを移動させていく。


 まさに、何かのカラダに手を押しつけたままの縦横無尽の全力飛行。


 あとはこれで俺の身体の頑強さがフィナンシェたちの勘違いしているようにこの世界のスライムにも匹敵するほどのものだったならば、これほどの苦痛を感じずともいられたのかもしれない――






 ガガガガガガと絶えず腕に伝わってくる振動と衝撃に負けぬよう腕に全力を込め、何かのカラダに押し当てた手のひらをそのカラダから離すまいと強く強く押しつける。

 そのたびに漏れ出るのは、苦悶の声。


「ぐッ、がッ……ぐぁっ……!」


 痛みと衝撃に耐え、なんとか苦痛を表には出すまいと努めてはいるものの、やはり声を完全に押し殺すことは不可能。


 ビッ、バキッ、ゴキッ、ボコッ、ボキンッと。

 何かのカラダに押し付けたままの手のひらをはじめとして肩より先から聞こえてはならないような音が聞こえてくるたび、腕や手の感覚がなくなり激しい痛みいだけが身体に響き伝わってくるたび、強く引き結んだ口からは苦悶の息と小さな声が漏れ、キツく細めた目元からは涙が滲み零れ散る。


 削れ、切れ、裂け、抉れ、折れ、粉々になり……。

 肉のみならず骨までも露出し、傷つき、抉れ、砕け散る惨状。

 怪我をしたそばからシフォンの回復魔法によって回復されていくおかげでわかりにくいが、おそらくすでに何本もの指が弾け、千切れ飛び、落下していっている。

 何かの通ってきた場所の周囲を探せばきっと何十本もの俺の指や肉や骨や血が大量に発見されることだろう。


 こんな状況でよく集中を損なわず何かに魔力を流し込み続けられていると自分でも思うが、痛みを感じすぎたせいだろうか。

 そろそろ、意識は希薄に、視界も定まらなくなってきた……。

 日が暮れ始めているせいもあるのだろう。

 辛うじて見えているのは自身の両肘から先とその両手を押しつけている何かのカラダのみ。

 正面以外に目線を移動させる余裕はなく、すでに自分が飛行しているのかどうかすらわからない。


《集中、集中、集中……》


 朦朧とするような感覚の中、頭にあるのは何かに魔力を流し込まなくてはという想いと鈍く響くように伝わってくる激痛と泣き言を言ってはならないという子どものようなやせ我慢のみ。

 もはや痛覚以外の機能すべてが麻痺してしまった腕や手から伝わってくる骨や肉を破砕するような激しく時に鋭い痛みも混ざった鈍痛とその痛みのせいで割れるように痛む頭痛の感覚はたとえようがないほどに不快で、いっそ死んでしまった方が楽なのではないかとさえ思えてしまうほどの気分の悪さは胸を締め付けるような痛みと息苦しさでなんとか強制的に吐き気を抑えていられる状態。


 痛い痛い痛い、気持ち悪い、死んでしまいたい、死にたくない、成功させたい、期待に応えたい……。

 そんな思考が延々と頭の上と身体の中を駆け巡るようになった精神状態でどうして魔力を流し込み続けることができたのか。

 いやむしろ、よくこの痛みの中でそこまでしっかりとした思考を保つことができたと驚くべきか。


 自分がどこにいるのか、何をしているのか、フィナンシェたちは無事なのか、何かとラシュナの距離はあとどのくらい離れているのか。

 すべてがわからず、意識が鈍り、落ち込み、叫びだしたくなるほどの痛みに耐え続け数分。


「トール、もう街が!!」


 周りの音すらほとんど聞こえなくなっていた耳になぜかはっきりと聞こえてきたフィナンシェの声に一瞬意識がはっきりとさせられ視界を何かの進行方向に移すと何かの前脚があと二~三歩でラールに届きそうな様子が見え、そして、手のひらの感覚の復活。

 つい一瞬前までは感じることもできなかった手のひらに当たる何かの硬いカラダの感触と腕に力の入る感覚に意識を集中させると、最後の力を振り絞ったということなのだろうか。

 身体中を支配していた負の感情や吐き気といったものが一瞬にしてなくなり、自身とテッドの中に感じられていたすべての魔力が何かの中へと吸い込まれるように放出されていった。

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