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この両腕がもがれようとも

 何かの広い背中の上。

 横目に映る視界の端では暴風が巻き起こり木の枝らしきものや岩のようなものも混じった砂塵が吹き荒れている。

 ノエルの魔術による援護がなければ俺たちのいるこの場所もあんなふうに強風が荒れ狂いまともに活動などできない状態になっていたのだろう……などと考えている場合ではないか。

 魔力を敵に流し込むというこの作業。思っていた以上にキツい。

 シフォンの回復魔法のおかげで魔力残量が大きく減ることはないから魔力の消耗による疲労はほとんどないだろうと思っていたが、そんなことはなかった。

 山のような大きさの何かに魔力を注ぎ続けること三分強。

 制御しきれる限界ギリギリ、回復された端からその回復された分を上回る勢いで魔力を注ぎ続けているせいで消費した魔力量はすでに全快時の俺とテッドの魔力総量の十倍を超えているのではないだろうか。

 通常では有り得ないほどの魔力の消費。

 身体から魔力が抜けては補充されまた抜けていく感覚……減っては増えてを交互に延々と繰り返すこの感覚は今までに感じたことのないもの。

 心の準備ができていなかったことや身体がこの感覚に慣れていないせいもあるだろうが倦怠感が凄い。

 回復魔法をかけてもらっているのはテッドとはいえ俺も多少は回復魔法の恩恵を受けているはずなのに疲労がなくなっている気も全然しない。むしろ回復されるたびに疲労が重くなるような、そんな気さえする。

 昨日、コマ回しのために勝手に俺の魔力を使用していたテッドを叱ったのがバカバカしくなるほどの疲労感。

 これならまだ、昨夜魔湧きが開始された際に感じていた疲労の方が遥かにマシだった。


《テッド、大丈夫か?》

『うるさい。集中しろ』


 調子を確認しようと訊いたテッドからの返事もいつものように淡々としているものやふてぶてしいものではなくどこか八つ当たり気味な余裕のないもの。

 やはり、現在消費している魔力の真の持ち主であるテッドにも俺と同等以上の倦怠感が襲い掛かっているのだろう。

 従魔契約により互いの魔力を共有しているとはいえいま何かに送り込んでいる魔力はすべてテッドのモノだからな。

 テッドはシフォンから直接回復してもらっていることを差し引いても、ただ仲介役を担っているだけの俺よりカラダにかかる負担や疲労が大きくて当然だ。


《キツいだろうが倒れるなよ。あと七分の辛抱だ》


 ……とは伝えてみたものの、実際のところ、あと七分で何かを倒せるかどうかはわからない。

 だが、あと七分以内に何か(コイツ)を止められなければラールが壊滅してしまう。

 続いて、シール、ナール、ユールも壊滅させられるだろう。


 だからこそ、あと七分、全力以上の力を注ぎ続ける。


 絶対に、ラールに着くまでに何か(コイツ)を止める。

 その決意をもって全力を尽くしているのだから、何かを止められずラールが壊滅してしまいましたでは話にならない。

 七分以内に絶対に何かの動きを止め、できるなら何かの核もろともこのデカブツを完全に崩壊させる。


 それくらいできなければ、今ここで全力を尽くす意味がない……というより、俺の思いつきの作戦を信頼して協力してくれているフィナンシェたちに合わせる顔がない。


 浮遊魔術で俺とシフォンを浮かせつつ何かが動いた際に発生する暴風を俺たちまで届かないようにこれまた魔術で防壁を張ってくれているノエル。


 すでに限界の近い身体でテッドの魔力が尽きぬよう回復魔法を発動させ続けてくれ、この作戦の根幹を支えてくれているシフォン。


 俺とシフォンが何かから攻撃されないように、テッドの魔力の影響を受けないため少し離れた位置ながらも懸命に何かから生み出される泥人形たちの相手を引き受けてくれているテトラたち護衛騎士。


 そして、俺とシフォンに向かって遠くから飛んでくるどこか見覚えのる魔物の牙や爪、針のように鋭く硬そうな体毛等をその手に握った剣一本で弾き落としてくれているフィナンシェ。


 九人もの人間が俺のことを信じ作戦の成功を疑うことなく全力で協力してくれているのだから、その期待に応えられなければそれはもう男ではない。

 院長の言っていた『男に二言はない』というやつだ。

 男が一度できると口にした以上、失敗は許されない。

 たとえこの身が朽ち果てようとも、意地は最後まで貫き通す。


 ……そう。意地は、最後まで……。だからこそ――


『時間がない。やるしかないぞ』

「トールさん……私なら、まだ頑張れます……遠慮は……いりません…………」

「やるの? やらないの? 迷ってる時間なんてないわよ」

「トール、お願い!! 頑張って!!」


 このまま一ヶ所から魔力を流し込み続けたのではラール到達までに何かを止められそうにないとわかった瞬間思いついた次の案。


 ――何かに魔力を流し込みつつ、浮遊魔術で何かの全身をなぞるように周回しながら飛ぶ。


 このザラついていて、とこどころ鋭く尖ってもいるまるで料理に使うおろし金のような何かのカラダに手を押し付けたまま何かのカラダの周りを滑空しなければならないという、手だけでなく腕や肩まで削れてしまいそうな確実に痛みを伴うその案にも……頷くしかない。


「ノエル、頼む。飛ばしてくれ。シフォン、俺にも回復魔法を」


 たとえこの身朽ち果てようとも……。

 たとえこの両腕が削れ、なくなろうとも、絶対に作戦は成功させ、泣き言だけは、絶対に口にしない。

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