箱割れ
一番危険な役を頼むというシフォンへの言葉。助力願い。
その言葉へのシフォンからの返事は――
「はい、私でお力になれることがあるのなら、どのようなことでも……」
顔色悪く、息も絶え絶えに。
最後まで言葉を続ける力もないようだが大丈夫だろうか?
そうは思うも、他に何かを倒す策は思いつかないしシフォンにここまで言わせておいて今更あとには引けない。
シフォンを守る立場にあるテトラたちの許可をとれるかという心配もまだあるが、それはこれからやろうとしていることを説明してからのことだしな。
とにかく、シフォンの覚悟も聴けたことだし今は作戦の説明をしてしまわないと……。
そう考え、シフォンに頷きを返したあと視線をシフォンから外し周囲を見回せば、目に入ってくるのは真剣な表情でこちらを見つめてきているフィナンシェやノエル、護衛騎士たちの姿。
早く作戦を聞かせろということなのだろう。ノエルに至っては鋭く睨みつけてきてまでいる。
作戦を言おうにも作戦の中にはテッドのことも含まれているからテッドのことを知らないテトラ以外の護衛騎士に対してどのように説明すべきかもう少し考えたいところではあるが、そんなことを言ってられそうにもないか。
まぁ、元々この五人にはテッドのことを説明してもよいと思っていたのだしテッドの存在を明かすにしろ明かさないにしろ悪いようにはならないだろう。
時間ももったいないし、さっさと説明してしまうか。
「作戦……と呼べるほどのものかはわからないが、やることは単純だ。俺が何かに触れて魔力を流し込む。何かは俺の魔力を嫌っているようだし、上手くいけば何かのカラダを崩壊させることができるはずだ。シフォンには俺の魔力が枯渇しないよう回復魔法での支援をお願いしたい」
正確には何かに流し込むのは俺の魔力ではなくテッドの魔力だが、まぁ大体同じことだろう。
シフォンにテッドの魔力を回復してもらいつつ、回復したそばから俺が何かに向かってその魔力を流し込み続ける。
上手くいけばそれだけで何かを倒せるし、倒すまでいかなかったとしても何かのカラダを小さく縮小させることくらいはできるだろう。
なにせ、身体に合わない魔力は毒でしかないからな。
何かは触れたモノを取り込んでしまう性質を持っているとはいえ、先ほどまで放たれていたノエルの魔術やテトラたちの魔法は取り込まれずにカラダの表面で弾かれていたみたいだし、何かはテッドの魔力に怯えてもいる。
これなら少なくとも、何かがテッドの魔力を吸収してさらなる化物に進化してしまうなんて事態にはならないはず。
何かもきっと、先ほどまでの俺の身体のようにボロボロに傷ついてくれることだろう。
「要するにアタシがアンタたちをアイツのもとまで移動させて、アンタがアイツに魔力を流し込み破壊するってことね」
「そうなるな。ノエルにも浮遊魔術の操作と援護を頼みたい」
「そうね、悪くはないんじゃないかしら? またアタシが支援役っていうのが気に食わないけど、後のことを気にしなくていいというのならアタシも全力で魔術をつかうことができるし……。たとえアンタが泣き言を言ったとしても絶対にアイツから離れないようにしてあげるから覚悟しなさい」
魔力関連に詳しいノエルからもお墨付きをもらえた。
ということは、十分に実現可能な案ということなのだろう。
ついでにノエルの浮遊魔術による全力支援も約束してもらえたし、これなら何かに足をつけることなく空中に浮いたままできるだけ安全に魔力を流し込むことができる。
他の面々の様子も――
『何かの魔力はすでに半分ほど抜き終えているのだろう? 空白がある分、魔力も流し込みやすくなっているのではないか?』
テッドは異論なし。
「わかりました。私はトールさんを回復させ続ければいいんですね?」
シフォンはやる気十分。
「私も、トールやシフォンちゃんたちが妨害されちゃわないように頑張るよ!」
フィナンシェも乗り気。
「我々も全力でお守りいたします」
意外なことにテトラたち護衛騎士からの反対もなし。
何かに接近してもらう上にすでにフラフラなこの状態からさらに回復魔法を使用してもらうことになるわけだからシフォンの護衛を目的としているテトラたち護衛騎士からはもっと反対されると思っていたんだが……反対意見どころか作戦の可否を問うような意見すらない。
俺なんかが考えた作戦なわけだしフィナンシェたちからしたら疑問点や粗があって当然だと思うのだが、それだけ俺の力が過信されてしまっているということなのだろうか?
……その信頼が怖い上にその信頼の理由も勘違いからきているというところに不安はあるが、他に誰からの案も挙がらないようだし、この作戦に賭けるしかないか。
さて、そうと決まれば――
「すぐに作戦を詰めて実行に――」
「そんなことしてる時間はないわ! 今すぐアイツのもとまで飛ばすからあとは頑張りなさい! 魔術での支援はしてあげるから!」
「――え?」
作戦の細かい部分を決めてから実行に移そうと言おうとした矢先、物凄い力で身体が横に向かって引っ張られ、空中を滑走し始める。
届けられた声と引っ張られるように身体が移動していく感じからノエルが浮遊魔術を操って俺たちを何かに向かって飛ばし始めたということだけはわかるが、どうして作戦も詰めずにいきなりこんな――そう、思おうとした瞬間。
俺たちを囲っていたという結界が割れた音だろうか。
バリンッ、と。
大きく、なにかが壊れるような音が聞こえた。