発見
さて、シフォンの回復魔法のおかげで気力も体力も魔力も万全。
何かを倒す良い案も浮かばないことだし、とりあえずもう一度何かの魔力を抜きに行くか……と、言いたいところなんだが。
「ノエル、何かの動きに合わせて俺を浮かせられるか?」
「難しいわね。アイツの動きに合わせてアンタを移動させることは可能だけどアイツが動くたびに発生する風が邪魔だわ。風の影響をなくそうとすると結構な魔力を消費しちゃうから、アンタをもう一度アイツに近づけろって言うなら背中に乗せるくらいはしてあげられるけど?」
「そうか……少し考えさせてくれ」
ノエルの協力なしに何かの眉間に居続けることは不可能。
そして、現状ではノエルの浮遊魔術で何かに近づき続けることはできない。
ということは、眉間からの魔抜きはもうできない。
他のところからとなると……たしか何かの活動が鈍いという四ヶ所の中に上半身と下半身の付け根も含まれていたと思うが――
『無理だな。たしかにその場所ならノエルの魔術に頼らずとも何かに触れることはできるだろうが、あれだけ派手に動いている何かの上から落ちずにいる自信はあるか? 動き出したということは活動の薄い場所がなくなっている可能性もあるぞ』
活動が鈍いという上半身と下半身の付け根は都合の良いことに背中側。触れるだけなら馬の背のようになっている何かの下半身の上に乗るだけですむし、ノエルの魔術も必要ない。
だが、テッドの言うようにあれだけ派手に動いている何かの上で平然としていられるかというと……厳しいと言わざるを得ない。
こうして遠目から見ているだけでも大地を揺らし凹ませるほどの振動が確認できるし、さらにそこに何かが腕を動かすことで発生する強風や何かから生み出され襲ってくるだろう泥人形等の影響を考えるととてもじゃないが何かの上に居続けるなんて芸当は俺には不可能。
もし何かの動き出した理由が全身を制御下に置くことに成功したからだとすれば何かの意識が薄く活動の鈍い場所なんてもう一ヶ所も残っていない可能性だってある。
それに……。
《なぁテッド、俺が魔抜きをしているあいだフィナンシェの足元はどうなっていた? 眉間から頭上までの距離ならお前の感知範囲内に入っていたはずだよな?》
活動が鈍くなっていなかった場所での何かの動きも気になる。
ほとんど何も起きなかった眉間周辺とは異なり常に泥人形が湧き続けていたことは知っているが、おそらくそれ以外にも何らかの妨害が加えられていたのではないだろうか。
『察しがいいな。何かの頭の上にいたフィナンシェの足元は絶えず変形を続けていたぞ』
《やっぱりそうか》
でなければ魔抜き中に何かの頭の上から泥人形が落ちてくるなんてことはなかったはずだからな。
フィナンシェの実力なら何の妨害もなければ頭上から泥人形を逃がすなんてことありえない。
にもかかわらず、フィナンシェも何かの頭上で俺たちを援護するように動いてくれていたはずなのに時折泥人形が落下してきたのはおかしいと思っていたが、そういう理由だったか。
『凹凸の出現や横滑り、泥や鉄に変化したりフィナンシェを取り込むつもりだったのか大きな落とし穴が出現したりもしていたぞ』
《それは……えげつないな》
もし急に足元がそんな風に変化したとしたら俺なら確実に対処できずに倒れ込む。
地面から鉄の棘でも生えてきたとすれば確実に串刺しだ。
一流の弓兵がたった五メートル先の的を射抜くが如く、簡単に取り込まれてしまうだろう。
《やはり、何かの背中に乗っての魔抜きは無理そうだな》
何かの上でも平気でいられたのはフィナンシェだったからこそ。
どう考えても俺には真似できない。
ましてや、激しく揺れさらには足元まで変化するという劣悪な環境で集中が必要な魔抜きを行うなんてことは絶対に不可能だ。
そんなことをするくらいならまだテッドを何かに向かって投げつけでもした方が有効だろう。
何かはテッドの魔力に怯えているようだし、もし運良くテッドを投げつけた場所の近くに何かの核がありでもすれば拒否反応が起こっておもしろいことになるかも…………って、これ……っ!
「思いついた……かもしれない」
「アンタ、なにか思いついたの?」
「トール殿、それは本当か! 流石はトール殿だ!! して、どのような作戦を思いついたのだ?」
意識せず口から漏れた言葉にすぐさま近くにいたノエルとテトラが反応してくる。
だが……。
「いや、だが、これは……」
たしかに、俺はいま何かを倒せるかもしれない案を思いついた。
だから、口から出た言葉に偽りはない。
しかし……。
この作戦にはシフォンの協力が必要不可欠。
だが、その肝心のシフォンは……。
そう思い横目で見るシフォンの顔には隠しようのない疲労の色が浮かび、普段はサラリとした手触りをしていそうな淡い水色の綺麗な髪も汗を吸って額や横顔、首筋に張り付いてしまっている。
……ダンジョンを脱出してから数時間。
その数時間のあいだはシフォンも回復魔法を使用せずに休んでいただろうが、やはりダンジョンを脱出するまでに蓄積された疲労は完全に消え去っておらず未だシフォンの中に残っているのだろう。
つい今しがた俺に回復魔法を使用したことで体力と魔力を削られたばかりでもあるし、これ以上の消耗は……いや、でも他に方法は……。
「どうしたのよ? 思いついたことがあるのなら早く言いなさいよ」
「トール?」
「トールさん?」
考えがまとまらず悩んでいるとノエルからは作戦内容の説明を催促され、フィナンシェやシフォンもこちらを見ながら小首を傾げてくる。
「……わかった、今から説明する」
すでに言いかけてしまったことであるし、このまま一人で悩んでいてもしょうがない。
作戦を実行するか否かは相談して決めればいい。
半ば諦めのようなそんな気持ちに背中を押され、ほんの少し軽くなった口から出てきた言葉は――
「まずはじめに、シフォン。一番危険で大変な役割を頼むことになるが……頼む、どうか協力してほしい」
やはりこれ以外に何かを倒す方法はない。
そう思っての、シフォンへの助力の要請だった。