突破口
『アイアンゴーレムにやったことを思い出しておけ』
その言葉を聞いて思い出すのはアイアンゴーレムに接近し、触れ、魔力を吸い出したこと。
今回は接近や接触に関してはそれほど心配しなくてもいいだろうから、テッドが言っているのは魔力を吸い出す作業のことで間違いないだろう。
しかし、ということは。
《まさかとは思うが、このバカデカくなった何かから魔力を抜き取れということか? アイアンゴーレムにしたように何かにも魔抜きをやれと?》
『そういうことだ』
……できれば、別の方法であってほしい。
そう思ったが、無情なことにテッドからの返事は非情な推測を肯定するもの。
《それはまた、大変というかなんというか》
さすがにこの大きさの何か、それも確実に先に無力化したアイアンゴーレム数体なんて目ではない量の魔力を保有している存在から魔力を抜き取るなんて不可能。下手をすれば一気に大量の魔力が流入し、その魔力に耐えきれず身体がはじけ飛んでしまうかもしれない。
そうも思うが……。
『死にたくなければやれ』
《……わかった。やるしかないんだな》
もとより、退路はない。
死にたくなければやれと、そう言われてしまってはやるしかない。
何かの頭上で戦っていたフィナンシェのように何かのカラダから分離した泥人形に襲われる可能性もあるが、大丈夫。
何かはテッドの魔力に怯んでいるようだし、泥人形はテッドの三メートル以内には近づいてこないはず。
ちゃんと場所を選べばダンジョン内にいたときのように上から泥人形が降ってくるという事態も避けられる。
魔抜きの最中は魔力の流れに集中しなくてはいけないために無防備になってしまうが泥人形さえ近づいてこなければあとは何も問題はない……はずである……。
『不安か?』
《それは、まぁ》
これだけ大きくなった何かから魔力を抜き取れと言われれば不安にもなる。というより、不安にならないわけがない。
テッドが魔力を抜けというのだからこの巨大な何かの原動力は魔力なのだろうが、これだけ大がかりにカラダを変形させたりあれだけ大量の泥人形をつくり動かしたりするなど一体どれだけの魔力が必要なのか。
その魔力を何かが動けなくなるまで抜けというのだからかなり時間のかかる作業になるだろうし身体にかかる負担も計り知れない。加えて少しでも集中を欠いたら身体が木っ端みじんになるというおまけつき。
泥人形が本当に近づいてこないのかという不安もあるし、よく考えたらダンジョンごと様々な魔物を呑み込んだ何かが遠距離への攻撃手段を備えていないはずがない。
それになにより……。
《気持ち悪い……》
『は?』
身体が回転方向とは逆に引っ張られるような感覚。
若干の熱っぽさと息苦しさ。
じんわりと額全体に滲む汗。
少しの頭痛。
これが遠心力、というやつだろうか?
さっきからぐるぐると何かの周りをまわり続けているせいか気分が悪くなってきた。
《馬に乗ったときほどではないが胸から上が若干息苦しいし熱い。額にも汗が……》
『何を腑抜けたことを言っている。気合でなんとかしろ』
《そんな無茶な……》
自分でもこれから大事な作戦を実行するというのにどうしてこんなことにと思わないでもないが、こればっかりはどうしようもない。
無防備な状況下での何かからの魔抜きと崩れた体調。
条件は最悪だが、頑張るしかない……。
《それで? 地面もだいぶ近づいてきたが、なにかわかったのか?》
何かの周りをまわり始めてから時間にして一~二分。
そろそろ下まで辿り着こうという頃、テッドへと言葉を投げかける。
テッドが何かの周りをまわれと言ってきたのは調べたいことがあったからだろうと推測しているが、少しは何かについてわかったことがあるだろうか?
そんな思いで訊いた言葉に返ってきたのは、朗報とも呼べる情報。
『上半身と下半身の付け根、左前脚の上部、腹、眉間に該当する部分……この四ヶ所の反応が最も薄い』
《それはつまり、どういうことだ?》
『元々はお前と同程度の大きさだった何かがいきなりこれほどの大きさになったのだ。取り込んだダンジョンが大きすぎてまだカラダに馴染んでいないのだろうな。要するに、制御しきれていない部分があるということだ』
《……なるほど》
正直なところいまいちピンときていないが、おそらくはこの巨体の弱点が見つかったということなのだろう。