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……え?

 すぐ横からはノエルやテトラたちの激しい声や魔術や魔法の炸裂音。

 未だ動き出す気配のない何かに向かって色々と試してみてはいるようだが、依然として効果はなし。

 ついでに俺やテッドにできることもなし。

 何かに攻撃が通用するかどうかは気になるところだが、そんなことよりも攻撃に参加もできず目の前の光景に危機感を覚えることしかできないこの身としてはテッドから言われたことの方が気になる。


《諦めるなと言われても……》


 諦めの言葉を発した途端に言われた諦めるなという一言。

 テッドの言いたいこともわからなくはないがこの絶望的な状況で諦めるなと言われても、これはもうどうしようもないとしか言いようがないような……。


『希望はあるぞ』

《希望?》


 一応、なにか考えがあった上での諦めるなという言葉だったみたいだが希望とはまたテッドらしくもない……こともないか。

 しかし、この状況の一体どこに希望なんてものを見出せるというのだろうか?

 ノエルたちの攻撃をものともしない山のような敵を相手に、付け入る隙なんて毛ほどもないと思うんだが……。


 と、そうは思うが多少は期待してしまう気持ちもなくはなく――


『ダンジョンにいた時のことを思い出せ。あの分身たちは我等のそばでは極端に生まれなかっただろう』

《……言われてみれば、たしかにそうだったな》


 ――テッドの言ったことに何かしら突破口のようなものが隠されているかもしれないと思えば動く頭もあるわけで……テッドからの次の言葉を聞くまでもなく、ある一つの考えが頭に思い浮かぶ。

 そして……。


《つまり、何かは生物が近くにいると泥人形(分身)を生み出すのに時間がかかるということだな》

『要するに何か(アレ)は我の魔力に怯んでいるということだ』

《……ん?》


 考えが正しいかを確認しようとテッドに念話を送ると同時、テッドから伝えられた内容に内心首を傾げる。


《あれ? 違ったか?》

『全然違うぞ馬鹿者。分身も形態変化の一つのようなものだ。何か(アレ)はダンジョンを取り込む前にフィナンシェと戦闘をしていた時も常に姿かたちを変化させていただろう』

《なるほど》


 泥人形が形態変化の一つのようなものだというのは初めて聞いたが、言われてみれば納得はできる。

 カラダを取り込んだ魔物のカタチに変化させ自在に動かすのも、泥人形をつくって自在に動かすのも、原理としては似通っている部分が多いような気がするからな。

 フィナンシェとの戦闘中フィナンシェのすぐそばにいるときでさえカラダのカタチを自由に変えていた何かが生物が近くにいるからという理由で泥人形をつくれなくなるわけがない。

 ダンジョン内にいたときの泥人形の動きも完全に俺たちを排除しようとしてきていたし、いくら人数が増えたからといってその程度の理由で排除しようとしている存在の近くに泥人形を出現させなくなるわけもない。

 むしろ、排除を優先するなら積極的に俺たちのすぐそばに泥人形を出現させていたはずだ。

 そう考えれば俺たちの人数が増えたから警戒して泥人形の出現位置を遠ざけていたわけではないこともわかる。

 だが……。


《だが、それなら少しおかしくないか? フィナンシェが何かと戦っていたときやそのまえ、俺たちも何か(あれ)のすぐ近くで戦っていたがそのときは何か(あれ)も普通にカラダを変質させていたよな?》


 たしかあのときはテッドもかばんに隠れていなかったと思うんだが、それがどうして急にテッドの魔力……それもかばんの中に潜んでいるテッドの魔力に怯えて変化できなくなるんてことになったのか。

 そこの説明ができなければテッドの推測が正しいということにはならない。

 とはいっても、仮に正しかったとしても何かがテッドの魔力に怯えることをどう利用すれば活路が開けるのかは皆目見当もつかないが。


『なんだ、そんなこともわからんのか。そんなものは何か(アイツ)が魔物を大量に取り込んだからということで簡単に説明がつく。取り込んだ魔物のカラダを再現できるのだ。であれば、取り込んだ魔物の持っていた魔力感知の力を吸収していたとしてもおかしくはなかろう?』

《……そういうことか》


 なるほどたしかに。

 何かは取り込んだ魔物のカタチや固有の能力を再現することができるのだから、魔物の持っていた魔力に対する鋭敏さも受け継いでいたとしても不思議ではない。

 人魔界にはスライム集まり人を殺すという言葉もあったくらいだし、一体一体の魔力感知は拙くともそれが何十何百と蓄積すればかばんの中にいるテッドの魔力を感じ取れるくらいになっていたとしてもおかしくはない。というより、理屈としてはすぐに合点がいってしまうほどに綺麗にととのっている。

 ダンジョンに向かうまえはテッドの魔力を感知することもできなかった何かが何百何千という数の魔物を食らいかばんの中に隠れているテッドの魔力さえも感じ取れるようになった。

 ……今一度言葉にしてみても、なにもおかしいところはない。


 と、ここまでは納得できたし何かがテッドの魔力に怯えているという推測も間違っていないように思えるが――


《それで、俺たちは何をすればいいんだ?》


 今気にすべきことは推測が正しかったとしてそれをどう活かすか。

 残念ながらここまで聞いても俺には何をすれば何か(あれ)を倒せるのかわからなかった。

 が、初めに『希望』と言ったくらいだ。

 テッドには何かに対抗する策が見えているのだろう。

 そう考え、答えを催促した俺に返ってきた言葉は――――


『難しいことはなにもない。今すぐ何かに突撃しろ』

《……え?》

『突撃をかませ』

《…………》


 やっぱりこれはもう、死ぬしかないのかもしれない……。

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