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詰み

《テッド、いま……何が起こった? 俺たちはどうやってダンジョンから脱出したんだ?》


 壁と天井に囲まれた洞窟型ダンジョンの中からの突然の空中浮遊。

 光に目が眩み気づいたときには空に浮かぶ俺たちと眼下に地面。

 視界が失われた数秒のあいだに一体何があったのか?

 とりあえず、わからないときにはテッドに訊いてみるのが一番だろう。

 目をつかって景色を見ているわけではないテッドならきっと何が起こったのか正確に把握しているはずだ。

 そう思っての問いかけ。


『なんだ、見ていなかったのか』

《ああ。光に目をやられてな。だから教えてくれ。何があってこんなことになったんだ?》


 それに対する返事は予想通りというべきか。


 この反応、やはりテッドは何が起こったのか詳細に把握しているのだろう。

 テッドからの訳知りな物言いを聞きそう思いつつ、次の言葉を待つこと一秒弱。


『なに、大したことはない。護衛騎士三人が全力で天井を突き破っただけだ』

《……は?》


 返ってきたのは、思いの外単純明快で力技な答え。

 予想外の返事に頭の中が一瞬真っ白になるも、すぐにまた思考が動き出す。


《天井を突き破った?》

『そうだ』

《アンジェたちが?》

『そう言っただろう』

《なにか不思議な力や技をつかったわけじゃなく、普通に力技で……?》

『しつこいぞ』


 確認の意味を込めてテッドから伝えられた内容を復唱するも、認識に齟齬はなし。


 ということは本当にアンジェたちが力技でダンジョンの天井に風穴を空けたということなのだろう。

 目が眩む数秒前にテトラが『これより目にすることは他言無用で頼む』などと口にしていたからもっとブルークロップ王国護衛騎士にのみ伝わる秘術のようなものでも使用したのかと思ったが、そうではなかったということか。

 ……しかしそれなら、テトラからのあのお願いのような一言はいったい何だったんだ?

 いや、よく見ると天井を穿つために力をつかったと思われるアンジェたち三人が辛そうな顔色をしているし鎧の謎の発光の理由も判明していないからそれなりに隠さなくてはいけないようななにかがあったんだろうが――


 ――などと考えたところに聞こえてくる、大きな地鳴り音。


 その音に思考を止めさせられ周囲に意識を向けてみると、目に入ってくるのは大きく振動し亀裂が入り始めている地面と山のように隆起し半日ほどまえに見た何かがケンタウロスのような姿をとったときの見た目に近い姿へと変形していくダンジョン……があったと思われる場所の地面。

 空に浮いている自分たちまで揺れているのではないかと思ってしまうほどの強大な揺れは見る見るうちに周囲の地形を大きく変化させていき……特に目の前で形づくられていくかなりの高空に浮いていてなおギリギリ見下ろす程度の巨大さを持った準ケンタウロス型ダンジョンがその異様さと脅威を誇示するかのようにどんどん大きく、どんどん頑丈そう且つ強そうな姿へと変形していき……。


 まだシフォンに回復魔法をかけてもらっている体調の悪そうな三人を除く残りの護衛騎士三人やノエルの魔法を食らってもまったく効いている様子のないその姿はまさにスライム並と称すに相応しく。

 ダンジョンを取り込み巨大になった何かの強度は確実にヒュドラ以上。


 カラダの形成に力を注いでいるのかこちらに反撃してくる様子もないが、ただその場に鎮座しているだけでこの威圧感。

 正直、勝てる気はしない……が、そんなことはどうでもいい。


 ノエルたちの攻撃が効いていない時点で俺やテッドに何か(あれ)を傷つけることができないことは明白だし、そもそもノエルの浮遊魔術が解けていない時点で味方をも巻き込んでしまうカスタネット以外に遠距離からの攻撃手段を持っていない俺たちにできることは何もなく、身体の自由もなく。生きるも死ぬも、ノエルの浮遊魔術の制御次第。

 魔力に疎い俺では、半日まえにシフォンとノエルが言っていたダンジョンごと俺たちを閉じ込めているという結界が解かれているのかどうかもわからない。

 もしまだ結界が残っているのであれば隔離されているこの場から逃げることは不可能であるし、そうでなくてもまるで巨大な山のような姿をしている何か(これ)が動き、追ってこられでもしたら逃げることはかなわないだろう。


 要するに……。


《今度こそ死んだな》

『諦めるな』


 これはもう、どうしようもない。

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